第120話 後悔しない決断なんてない。


「お母さん…お母さんの質問に答える前に1つだけ聞いても良い?」


「……何かしら?」


俺は一通りの考えを巡らせた後に母さんに質問を投げかける

一番手っ取り早いのは『白冬』の家に入る事だろう事は理解出来る


だけど、どんな家なのかも分からない所に身を置くのは普通に嫌だ

それに俺は今の生活に関しては凄く気に入っている

だからこそ『白冬』に身を置く事は完全にNOなのだが…


「お母さんはどうやって『白冬』の家から出てこれたの?」


俺がそう聞くと母さんは眉をピクリと動かす

この一言だけで理解したのだろうな…


一時的に『白冬夜人』になり、除籍されれば万事解決じゃね?っていう安易且つ1番手っ取り早い方法だ

俺が除籍された後に黄秋からの報復に対しては対策を講じなければならないが、『白冬』の名前で執り行う以上、報復の可能性はほぼ無いと言っても良い


「……夜人くんの考えは理解したけれど、それは止めておきなさい。出自が『白冬』であるのと『八剱』であるのとでは『白冬』側の対策も変わって来るわ」


でしょうね…

『白冬』側からすればそのままホイホイと俺を除籍してくれる筈も無いだろうしね

となると『八剱夜人』のままで勝ち筋を模索していかないとダメな訳だ…


「夜人くん…さっきも言ったけれど『八剱』のままでいる以上、朝焼くんの事は諦めなさい。四大名家とは文字通りに住む世界が違うの」


「嫌だ」


それに関しては断固NOだ


「何故?この間お友達になったばかりなのでしょう?貴方が彼に対してそこまで固執する理由は無いわ」


お母さんは俺の考えが理解出来ないかの様な表情を浮かべながらそう聞いてくる

だったら俺が此処まで固執する理由を伝えなければならない


「お母さん…理由はね、さっきお母さんが言った通りだよ。僕と公理くんは友達になったんだ。だからこそ僕は友達の為に出来る事をしてあげたいんだ」


「……今の貴方に彼の為に出来る事は無いわ」


「そうかもしれない。でも…何も無いと諦める答えは今はまだ出せないよ」


「……後悔するわよ」


「ハハッ!お母さん…何を言っているんだよ?」


母さんの言葉に素で笑ってしまう

母さんこそ、前世の俺並みに生きているだろうから嫌ほど身に染みているだろうに


「後悔しない決断なんてないよ。僕は白冬に入っても八剱のままで公理くんを見捨てても絶対に後悔する。だったら…決断した上で1番後悔をする濃度が薄い様に動いていくだけだよ」


「……夜人くん」


「だからお母さん…本当だったら僕を【八剱】から除名して欲しい。月お姉ちゃんとの婚約も解消して僕と言う存在を追い出してほしいんだ」


「それは…」


「うん、それは出来ないという事も分かってるよ。小学生を除名する事が認められる訳も、それに伴ってどちらに転んでもお母さんにも月お姉ちゃんにも良い影響が及ばないことだって理解してる」


「だからね」と言って俺は大きく息を吸い、お母さんに思いっきり頭を下げる


「僕と一緒に公理くんを…公理くんと月お姉ちゃんと『八剱』を助けてください」


そう言い切った俺に対して、母さんがどんな表情を浮かべているのか分からなかった

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