第112話 敵に容赦する事は味方を裏切るという事になる事も有る


「朝焼くん、一緒に帰らない?」


「っ?!!!」


放課後、俺は朝焼くんに声を掛けた

いや…驚くのは分からないでもないけど…ちょっと驚き過ぎかな?


「え…えと…あの…」


「うん、自分のペースで答えてくれたら良いからね」


明らかに俺に対して警戒している様子だな

まぁ…そりゃそっか…『黄秋』の名の元に家族からも虐げられてるんだ

他人の、ましてや友達にもなっていない俺の事を警戒して当然だろう


「夜人帰ろうぜっ!!って何してるんだ??」


「朝焼くんも一緒に帰らない?って誘っていたんだよ」


「ふむ…俺様も朝焼の事は良く知らんからな…面白いじゃないか!!」


「いやいや…まだ返事を聞いていないからね」


おいおい零よ…そんなフライング気味に言われたら彼がより警戒するだろ?

実際、彼の表情からは集団で暴力をふるわれるんじゃないかって警戒している様に見受けられる


「夜くん、一緒に帰らないかい?」


「夜人くん、帰りましょ!!」


そんな事をしているとあづみちゃんと蓮華ちゃんが近づいてくる

これはちょっと不味いな……朝焼くんの表情がより曇ってしまう


「…て、あれ?」


あれ?心なしか、朝焼くんの表情が和らいでない???

ん???


「おうっ!!じゃあ雪も誘って皆で公園にでも行かないか?!!夜人、お前も月さんを誘えよ!」


「……へぇ、月さんが行くのなら僕も仲間に入れてくれないかな?」


零のデカい声に反応し、アルスがこちらの輪に入って来ようとする

…コイツ、意外と性格蛇だな


「おう!い「アルスくん、悪いけど今日は朝焼くんと遊びたいんだ。君は遠慮して貰えるかな?」」


「「「……え??」」」


零が了承しようとしたので慌てて否定する

そんな俺を見てあづみちゃん、蓮華ちゃん、零が驚いた表情を浮かべる


まぁそれはそうだろうな…

俺は今まで誰に対しても仲間に入れてというお願いに対してNOと言った事は無い

幼気な子供の要望を30のオッサンが大人気なく拒否する事なんて出来はしない


だがアルス、お前はダメだ

朝焼君の事は詳しく分からないから別としても、月姉さんに害そうとする…

他人の人生を自分の気分1つで壊そうとするお前を俺は受けいれない


「……そっか。じゃ、じゃあね」


俺のただならぬ圧(?)を感じたのか、アルスは少し悔しそうな表情を浮かべながらも大人しく引き下がった

此処で暴力にでも訴えかけられたら勝っても負けてもより面倒な事になる気配しかなかった為に助かったと思うべきだろう

…感謝はしないけどな!!!


「…………」


そして朝焼くんはそんな俺の態度にポカーンとしている

それこそ身動き1つ取らずに、だ…

恐らく目を見開いているのかもしれない…前髪で目が見えないから知らんけど


「という訳で、朝焼くん…僕たちと一緒に帰らない?僕たちは絶対に君を苛めたりしないよ」


そう言って俺は彼の前に手を差し出した


「…………」


そして…本当に…本当に僅かに頷いた後、彼は俺の指先をチョコンと握ったのだった

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