第32話 感謝は言葉にしないと伝わらないんだぜ

「ご飯だぁ~・・・」


あれからロゴブロックをやっていた俺には色々なことがあった・・・

ブロックを取り合う子にやんわり注意すると仰け反るし、作った作品を見せに来てくれる子を褒めると仰け反るし、俺が作った物を見せると困惑されるし・・・いやそこは仰け反れよっ!!と思わなくは無いが、ションボリしていると仰け反られた


という訳でジャンプ台を作った疲労も相まって、心身ともに若干疲れており身体がご飯を欲していたのだ


「今日は・・・おぉっ!!ハンバーグかっ?!」


「よ、夜人くんはハンバーグ好きなの?」


「うんっ!僕ハンバーグめっちゃ好きっ!!」


「そ、そうなんだ・・・好きって・・・良い・・・」


あづみちゃんはそんな事を言いながら涎を垂らしていた

うん、やっぱりハンバーグは正義だよなっ!!

・・・そうは思うものの涎を垂らしているのは少しばかり格好悪い


「これ使って」


「・・・・・・・・・え?」


「涎・・・出てるよ(コソコソ)」


あづみちゃんに小声でそう教えると非常にアワアワして、いそいで俺のハンカチで涎を拭いていた

そして一息ついた瞬間、絶望したかの様な表情で俺をガン見してくる


「よ、夜人くんは・・・涎出す子・・・嫌い・・・?」


「涎・・・?ハンバーグ美味しそうだから出ても仕方ないよ」


「~~っ・・・そうじゃなくて、涎を出しちゃう様な子・・・嫌い?」


「???・・・別に良いんじゃない?出しっぱなしは困ると思うけど、出る事に関しては特に何も思わないかなぁ~・・・」


大体大人になったらそんな機会は殆どない

というか・・・俺だけかもしれないが涎を出した経験がない

それだけ感性豊かなんだなって微笑ましさすらある


「~~っ・・・そうなんだ・・・良かった・・・」


何かは分からないが、あづみちゃんがホッとした表情を浮かべている当たり問題は無いのだろう

俺はそのまま食器を持って自分の席へ向かって行った



「・・・ふぅ」


「す、凄い勢いで食べてたねぇ」


「お、おおおお美味しそうに食べてました」


「・・・・・・・・・ハンバーグ大好きっと」


お腹も心も空腹だった俺は、一心不乱にハンバーグをかき込んでいた

え?ハンバーグはかき込むもんじゃないって?

良いんだよ・・・かき込めたんだから、さ


今日の献立はハンバーグ、ご飯、野菜サラダ、スープ、お茶だった

いやぁ・・・今日のお昼ご飯は特に満足だ

お陰で午後からも頑張れそうだぞ、と・・・


そんな事を考えていると視界の端にチラチラと映るものがあり、視線を感じる


(何だ・・・?)


視線のする方へ首を傾けると・・・そこには複数のおば様(?)が俺を見て涙ぐんでいた

え?何?俺何か悲しませる事した?


「夜人様」


困惑した表情を浮かべていると、音も立てずに俺の背後に麗さんが立って声を掛けて来る

麗さんは俺が困っていたり、理解していなかった時に偶にアドバイスをしてくれる

ただ、基本的には声を掛けてきてくれないので彼女がアドバイスする線引きが今一つ理解出来ない


・・・初めて見た時は腰を抜かしかけたけれど、この3年で俺も慣れたもんだなぁ

シミジミとそんな事に思いふけっている間に麗さんは言葉を続ける


「彼女たちは給食を作ってくれている方々です。・・・どうやら男の子が美味しそうに食べている事を聞いて様子を見に来たみたいですよ。・・・今皆さま『嬉しい』『給食作ってて良かった』と口々に仰ってますね」


え・・・麗さん読唇術使えるの?と思ったが、そこは敢えてスルーして、と

成程・・・あの人たちがこのハンバーグを作ってくれたのか・・・

それを知った俺は立ち上がり、彼女たちの元へ近づいていく


「今日のハンバーグ、特に美味しかったです。いつも美味しいご飯を作ってくれて有難う御座います。」


我ながら3歳児相当のお礼の言い方ができただろう・・・


自炊経験のある俺だからこそ、毎日この人数のご飯を作る事が果てしない労力だと理解できる

俺であればお金が貰えるとしても日々やり切れる自信は全く無いっ!!


だからこそ感謝の気持ちを伝えたつもりだったのだが・・・




ダバーーーーーーーーーーーー!!!!




俺の言葉を聞いて動きが止まったかと思えば・・・全員が全く同一のタイミングで一斉に涙を流しだした


えぇ・・・?何?

また俺、なんかやっちゃいましたぁ・・・?

女の涙に弱い俺はオロオロと情けない動きをする事しか出来なかった・・・

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