第31話 創作意欲が高まる瞬間ってあるよね

朝礼が終わった後にグランドに集まり、体操を行うといういつものルーティーンをこなして暫しの自由時間、俺は砂場で黙々と作業に取り掛かっていた


「・・・良し」


なんとか終了時間10分前には作業を終えて、思わずフッと息を吐く


「ギリギリ完成だ・・・」


「よ、夜人くん。な、何かできたの?」


呼ばれた方へ視線をむけると、あづみちゃん、蓮華ちゃん、雪ちゃん、その他にも数名の園児たちが興味深そうに俺の作ったものを見ている


「ジャンプ台だよ」


「ジャンプ台?」

「なんだいそれは?」

「と、飛ぶですかぁ?」


みんな口々になんだそれと疑問の表情を浮かべる

だが仕組みとなれば非常に簡単だ


砂山を作って、ジャンプ台を増築しただけの作品だ

スキージャンプの砂山版だと言えば想像し易いだろうか?


「そうだよ。この泥団子を山から転がして・・・」


そうやって説明しながら泥団子を転がす

するとジャンプ台から飛び出して30cmばかり飛んでいく


「「「わぁ!!!」」」


それを見た皆は目をキラキラ輝かしだした

もっと複雑なコースも作れなくはない(と思う)が時間も足りないし、3歳児が作るものとしては違和感があるかもしれない・・・

だから砂山にジャンプ台を設置するだけの砂山ジャンプ台を作成したという訳だ


「よ、夜人くんっ!こ、これスゴイね!!」


「こ、これはぼ、僕たちもやっても良いかいっ?!」


「ややややややってみたいですぅ・・・」


「勿論良いよ。みんなの分の泥団子もあるから順番にね。」


口々にやりたいという皆に向かって、脇に準備した泥団子をみんなに見せる

すると皆、俺の前にピッチリと並び、俺から泥団子を受け取っていく


・・・いや、勝手に取ってくれても良いんやで?

何か俺が王様の様に泥団子を順番に配る光景に対して俺の大人部分が若干引いてしまっているが・・・

それでもまぁ、みんなが喜んでくれるのならばそれで良いのだろうなと幼児たちを大人目線で見つめてしまった



お外の時間が終わり、今度は室内での自由時間だった

テーマがあればそれに取り組みやすいが、好きにしても良いと言われてしまうと難しい年ごろである28歳の俺は教室をざっと見渡してある物を見つけた


子供のころにやたらハマったロゴブロックだ

大人になると当然触る事もなくなってしまったが、先ほどに創作意欲が湧き出ていた俺には丁度良い


「あっ!!!」


「ごめんね。僕も一緒にやっても良いかな?」


先にロゴブロックを広げていたクラスメイトの許可を得て、俺も同じテーブルに座って取り掛かろうとする


「あ、あの・・・これ・・・」


「ん?」


声した方へ視線を向けると、さっき声を掛けた女の子が両手いっぱいのロゴブロックを差し出してくる


「・・・・・・・・・」


しかもよくよく見ると彼女の後方にも、何人かが行儀よく並んでいる女の子たちが居る

あ・・・これロゴブロックを貢がれているヤツだ・・・

ダメだよ、君たち・・・その年から貢ぐという行為を行うのは良くないよ・・・


「あ、有難う・・・でも僕、みんなが作った作品も見たいから・・・一緒にやろうよ、ね?」


「「「「グハッッ!!!!!」」」」


やんわりと断りながらそう言うと・・・何故か並んでいた子たちだけではなく、周りにいたクラスメイト達も一斉に身体を仰け反らせる


え?何?

俺の朝の時間はそんな困惑とした時間として過ごされていった・・・

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