怖い男と悪霊

ボウガ

第1話

 ある男、人相が悪く恐ろしい顔つきで筋骨隆々、気性も荒い。だが近頃肩が重いし、嫌な夢をみる。病気で死んだ恋人の夢だ。

「お願い……あなたのこと……」

 何かを言いかけている、汗をかいて目を覚ます。恋人が最後に言いかけた言葉に自分は振り回され続けている。

「きっと、自分に恨みがあるのだろう」


 ある時金縛りになって、ベッドの自分の足側に恋人の姿がうかんだ。

「ヒィ!!」

 声を上げたつもりだが、声も出ない。

「おねがい……あなた、一緒に……いて」

 その言葉をきいて、恐ろしくなる、体ががくがくふるえる。この男、人間には気が強いが、幽霊はてんでだめだった。

「すまねえ!!許してくれ!!あんなにつめたくあしらって、いつもいつも、暴力をふるってしまって!!すまなかった!!許してくれえ」

 しかしその金縛りは日増しに頻度が増えていき、困った男は、休日に寝不足の頭である有名な霊媒師の家に転がり込んだ。

「助けてくれ!!早く、金ならいくらでもはらう、早くしろ!!」

 男の態度をみて、これはただ事じゃないと霊媒師はその場ですぐに用意をして、除霊をする。


 翌日からだった。あれだけ続いていた金縛りも静かになり、男はぐっすりと、毎日死んだように眠った。肉体労働の仕事もうまくいくようになり、体調もよくなった。あの霊媒師に感謝しなければ、そう周囲にいっていた数日後、男は静かに、眠るように心臓発作でなくなった。同僚たちは彼が亡くなる寸前に“いい女が夢に出てくる”とよく話していたと聞いていた。首に手を回し、抱きしめてくれると。


霊媒師の話。

「あまりに暴力的で、人相の怖い方でしたから、説明する間もなく、いえ、説明をしようとしたのですが、なくなった彼女に対する罪悪感から、彼女が原因だと思い込んでいて……私は彼の背後に彼を殺そうとする悪霊の気配を感じて……彼女は彼をまもっていたから、除霊をするとまずいことになるとわかっていたんですが……彼は彼女を祓えと言ってきかずに、しかたなくお祓いをしました、彼女、いってましたよ“お願いあなた、私と一緒にいて、あなたを守れるのは私だけだから”彼はひたすら“一緒にこちらにきてくれ”と解釈していましたが」


不動産屋の話

「かつてあそこは事故物件だったんですよね、カップルが住んでいたんですけど、女が、男を絞め殺して、自分も後を追って首をつって……浮気や暴力が原因だったんですけど、事故物件といっても何か異変が起こるわけでもなく……でも、そこに住んでいた霊は、同じような境遇にあっている女性をみて、あるいは暴力的な男をみて、彼氏に対する恨みを思い出したのかもしれませんね、そして彼にとりついたのかもしれません、まあ、ここだけの話ですよ、霊だのなんだのって、とりあえず今は、大家の方の決定で貸し出しはしていません」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

怖い男と悪霊 ボウガ @yumieimaru

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る