第10話 わたし、叩かれて伸びる子なんです。




「次の癒しスポットにたどり着きました!」


マリアがその場所を指さす。

 通路の奥に血色の混じった土でできた「巣」があり、周辺には人間大のハチが飛び交っていた。


 それは≪ダンジョンビー≫の巣穴だった。

 ダンジョンビーは人間や他のモンスターたちの血肉で巣を作る凶暴なモンスターだ。

 一匹一匹がAランクモンスターであり、その数の多さと、針から放たれる猛毒が冒険者たちを苦しめる。ベテランの冒険者パーティが裸足で逃げ出すレベルの敵である。


 だが、マリアは記録水晶に向かって力説する。


「ダンジョンビーの針って、すっごく|効く(・・)んですよ! 皆さん知ってましたか?」


“いやいやwwwwww”

“知らんてwww”

“針治療www”

“ダンジョンビーの針って結界の痛み軽減がほとんど効かないから、死ぬほど痛いんじゃなかったっけ”

“ダンジョンビーの針はマジでいてぇぞ”

“っていうか、毒もヤバかったはず”


 マリアはコメント欄の声に答えようとしたが、次の瞬間にはダンジョンビーたちが一斉に襲ってきた。

 ダンジョンビーたちの鋭い針が、マリアの身体に突き刺さる。


「あっ~!」

 

 針は結界魔法(ライフバリア)に阻まれるが、彼女は確かに痛みを感じていた。

 しかし、それは彼女にとって、例によって、喜びでしかなかった。


「みなさん、このままでもかなりいい感じなんですけど、一つ裏技があるんですよ!」


 と、マリアは自慢気に語る。

 そして、自分に群がるダンジョンビーの動きを完全に見切り、その針が自分に突き刺さるその直前に、その腹部を拳で撃ち抜いた。


「ダンジョンビーを殴ると反射的に毒を全部吐いてくれるんでさらに効くんです!」


 おそらく一生役に立たないハックを自慢気に語るマリアに、コメント欄はまた盛り上がる。


“なんだその小技www”

“わざわざ毒を吐かせるとかww ドM過ぎwww”

“※彼女は特殊な訓練を受けています”


 マリアは寄ってくるダンジョンビーたちが攻撃をしてくるのに合わせて殴り倒していき、巣のダンジョンビーが全て出てくるまでそれを続けた。


 そして最後にはのこのこ出てきた女王バチも一撃で屠って、ダンジョンビーを壊滅させてしまったのだった。


「あ~気持ちよかったですね。血行が良くなった気がします」


“そんなわけあるかww”

“いやいや、絶対毒が回ってるんよwww”

“てか、もう流石にライフ残量やべぇんじゃね?”


 視聴者たちから、毒攻撃を食らい続けたマリアのことを心配する声が上がる。

 だが、それはまったくの杞憂だった。


「あっ。皆さん、新しい耐性スキルを獲得しました」


 と、突然そんなことを言う。


“おっ、新しいスキル?”

“スキル開花の瞬間に居合わせたか。ラッキーだな”

“めっちゃいいタイミングに遭遇したな”


 新たなスキルの発現は1年に一度あるかないかなので、たくさん配信を見ていても、スキル習得のその瞬間に居合わせることはかなり珍しい。


 だが、実はマリアは特殊な力を持っていて、人よりも新たなスキルを得る頻度が多かった。


 マリアはステータス画面に出てきた通知を視聴者に見せる。


______________________________________________________________________


スキル≪受難の刻印≫によって、毒耐性(大)を獲得しました。

______________________________________________________________________



“毒耐性???”

“しかも(大)って初めてみたぞおい”

“ってことは毒体制(中)は既に持ってたってこと?? まじ?”

“てか≪受難の刻印≫って何?? 聞いたことないんだけど”

“ユニークスキル?”


「あ、えっと、≪受難の刻印≫は、攻撃を受け続けると、一定確率でその攻撃の耐性スキルを得るっていうスキルです」


 マリアがこともなげに説明する。

 だが、それを聞いた視聴者は今日一番の衝撃を受ける。


“なんやそのチートスキルwwww”

“スキルを獲得するスキル??”

“そんなん聞いたことないぞ”

“それ、いつか無敵になるやん”

“そりゃ強くなるわwwwww”

“もしかして、火攻撃とかにも耐性ある感じ??”


「あ、はい。炎耐性(大)も持ってます」


“ふぁっ!?”

“(大)の耐性スキル2つ持ち!?”

“すごすぎワロタwww”

“その歳で2つもちは聞いたことないわww”

 

 なにやら褒められていると気が付いたマリアは、気をよくして胸を張った。


「わたし、叩かれて伸びるタイプなんです」

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