第11話 ついでにボスも倒します。
それからも、マリアはモンスターとの戦闘を『癒し』と称して配信した。
ゴーレムのスタンピング攻撃を、
「最高のマッサージですね~ 子供の頃お父さんの腰を踏んであげてました。懐かしいですね。あの頃はなんであれが気持ちいのかわからなかったですけど、今は気持ちがわかります」
と言い放ち、
今度は猛毒を持つバジリスクを倒したかと思えば、
「バジリスクの肝は珍味なんです! ピリピリしておいしいんです! 小さい頃は珍味の良さがわからなかったですよね!」
と舌鼓を打ったりして、そのたびコメント欄は大盛り上がりだった。
気が付けば、配信の同接は数万人に伸びていた。
“やべぇわ、この子ww”
“やっぱ異常だわww”
“死ぬほど痛いことを、すげぇ幸せそうにやるもんなww”
だが、長かったダンジョン配信も終わりが近づいていた。
「あ、ボス部屋ですね」
“とうとうこの配信も終わりか”
“もっと見ていたかった”
“あっという間だったわ”
ボス部屋に到達したマリアを見て、視聴者たちはてっきりここで配信が終わるものとばかり思っていた。
なぜならば、ボス部屋にソロで挑むようなことは通常ありえないからである。
ボスは他のモンスターと段違いに強いことが多い。それに対してソロでいきなり挑むのは、自殺行為に等しい。
――だが。
マリアはこともなげに言う。
「ついでなので、ボスも倒してこようと思います」
その言葉に、コメント欄がひと際盛り上がる。
“ついでwwww”
“ボス部屋にソロ挑戦とかwww”
“気軽すぎるwww”
“やめとけ。まじで殺されるぞ”
“さすがに無謀すぎるだろ”
“いや、でも今までの無双っぷりをみてると、ワンチャンあるんじゃないか??”
“流石にソロはまずいって”
“まじでそれ。万が一の時にマジでどうしようもなくなる”
コメント欄に、マリアのことを心配するようなコメントが流れ始める。
それを見て、しかしマリアはきょとんとした。
「え、いつもボス部屋はソロ討伐ですよ?」
それは嘘偽りない回答であった。
所属していたギルド≪ブラックバインド≫の現場は常に人手不足だった。それゆえワンオペ討伐は当たり前だったのだ。
だが、さすがにこのレベルのダンジョンで、ボスソロ討伐するというのは、一般的には信じがたい話であった。
“ええええwwwww”
“いやいやww いつもなのww”
“ドッキリとかじゃなくて?”
“流石にヤバすぎワロタ”
「早速いきましょう」
そう言って、マリアはボス部屋の扉を躊躇なく開け放った。
ボス部屋に鎮座していたのは、全身の骨がむき出しになった巨大な悪魔であった。
その頭蓋骨の隙間から覗く赤色の眼球が、マリアの方をにらみつける。
“これはwww”
“やべぇやつきたああああ”
“Sランクやんけwwww”
“バケモンやぞ”
“本物初めてみたwwwwww”
“こええええええ!!”
視聴者たちはそのボスキャラの登場に大盛り上がり。
だがマリアは無表情でつぶやく。
「あれは≪奈落の王≫ですね」
そう言うマリアは、先ほどまでラヴァードラゴンや、ダンジョンビーを前にして見せていたのとは対照的に、なんの楽しさもないのだとありありと伝わる表情だった。
“マリアちゃんまったく怖がってないwww”
“Sランクのボス相手にまったく動じないwwwwww”
“俺だったらチビってるwww”
“てか俺はチビった”
“っていうか、もしかして単純にお気に召してない?”
「こいつは、特に癒し要素がないです」
マリアは、ぽつりとそう言った。
“当たり前なんよなwwww”
“いや、ダンジョンに癒しなんてないのよ”
“気持ちよい攻撃をしてくるモンスターばっかりじゃないんだなwww”
“やっぱり今まではガチで気持ちいいと思ってたんやなwww”
「こいつはさっさと片づけます」
“瞬殺宣言wwww”
“Sランクのモンスター相手にwwww”
“まだ戦ってないけど、これはもう勝ち確やん”
と、そんなマリアの「煽り」に怒ってか、次の瞬間≪奈落の王≫が雄叫びを上げた。
「グアアアアアアアアアアア!!!」
そしてそのまま先制攻撃を仕掛けてくる。
わずかにしゃがみ、そしてそのまま大きく跳躍。マリアに向かってその大きな拳を振りかざしてきた。
マリアはされるがままに≪奈落の王≫の右フックの直撃を食らい、背後の扉にたたきつけられた。
“まりあああああああああああああああああああああああ!!”
“ひええええええええええええええええ”
“さすがに死んだ???????????”
“マズすぎるだろ”
視聴者から悲鳴のコメントが上がる。
だが、地面に落ちたマリアは何事もなかったかのように立ち上がった。
“うおおおおおおおおおおおおおお”
“生きてたwwwww”
“よかったあああああああああああああああ”
“Sランクモンスターの攻撃まともに食らって無事とかwwww”
素人目には≪奈落の王≫の攻撃を避けきれずに、くらってしまっただけのように見えたかもしれない。
けれど、事実は違った。
マリアはあえて攻撃を受けたのだ。
【結界残量(ライフポイント)が1割以下になり条件を満たしました。スキル≪絶頂覚醒≫が発動します】
女神の声(システムアナウンス)が、マリアの覚醒を告げる。
ユニークスキル、≪絶頂覚醒≫が発動したのだ。
次の瞬間、マリアの身体が赤い輝きを放つ。
“きたあああああああああああああ”
“うおおおおおおおおおおおおwwwwwwwwwwwwww”
“マリア様覚醒モードwwwwwwwwwwwww”
“ユニークスキル来たwwwwww”
“なんやあれw”
“オーラまとってるwwwwww”
マリアのユニークスキルにコメント欄は大盛り上がりだった。
「いきます」
マリアは≪奈落の王≫に向き直り、そして右の拳を引いて、そのまま地面を蹴り上げた。
≪奈落の王≫がそうしたように、至極単純な右フック。
けれど、赤色のオーラをまとったその拳は、次の瞬間≪奈落の王≫の心臓を突き破っていた。
「グアアアッッ!!」
≪奈落の王≫は短い悲鳴を上げたのち、膝から崩れ落ちて絶命した。
マリアは宣言通り、たった一撃でSランクモンスターを倒して見せたのだ。
“うおおおおおおおおおおおおおおおおお”
“うそだろww”
“まじかよwwwwwww”
“すげえええええええええええええええ”
“すごすぎワロタ”
“バケモンかな?”
“もはや引くわ”
倒れた≪奈落の王≫の横にふわっと降り立ったマリアは、一つ息をつく。
「特に見どころがない戦いででしたね、すみません」
と、そんな見当違いな謝罪をするマリアに、コメント欄はさらに盛り上がる。
“こ、これはwwww”
“自覚ナシwww”
“マリアちゃん、盛り上がりどころを認識できずwww”
“奈落の王をワンパンはマジで草なんよ”
“こんなちっちゃかわいい女の子が、まさかバケモンとは思わんよなw”
「?? もしかして楽しんでいただけている?」
マリアはコメント欄を読んできょとんとするのであった。
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