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2023年9月12日 05:24
のっけから「揺れている停車中の車」などという描写があったので、いったいどんな話になるんだろうと読み進めてまいりましたが、これはまた見事な青春ど真ん中の熱い物語でした。往年の、中村雅俊などが顔役を務めていた高校生ドラマをいやでも思い出します。今回のこれは、だいぶん現代的な重いテーマをも含められていて、ヒロイン二人の造形も合わせて、さじ加減がウルトラ級に難しい話なんではとも考えましたが、総じて明日乃さんらしい筆致の中に、ほどよいあそびを入れつつ、狙い通りの位置にしっかり着地しきったという印象です。多少の苦味を残しつつも、主人公たちが前向きに生きていこうと決心するところで幕となるストーリー、個人的には、これ以上望むものはない、とさえ思います。と、深く唸らされつつも、どうしても気になってしまうのが、「女性読者はこの話をどう読んでくれるんだろう」という点ですね。我々の代のおっさん視点だと、本作中の性のモラルは許容範囲内だし、悪さをした男どもに多少甘い面こそ見えるものの、ポジティブな物語にまとめるにあたって、あらゆる方向に最大限の配慮はされているように読めますが、もしかしたら「こんな考え方する女の子なんていない」とばっさり斬り捨てる評者も出てきたりするんではないだろうか、などと思ったり。町田の過去話は一応不可抗力に近い状況で、その罪も悔いているとは言え、図式化すると、直接の実行犯と友情(かそれ以上)を育もうとするところで終わり、ですからね。見ようによっては、「謝れば赦してもらえるとする男の甘えがにじみ出ている」とかなんとか、突っ込まれそうな余地はあるかと。正直、私から見ても、設定にしろ展開にしろ、エロに好意的なおっさんに都合のいい形であるな、と読めるところが色々ありました w。だからといって「この話は、基本男性向けの小説です」と言い切ってしまえばいいかと言うと、どうもそういう形にしてしまうのは何か違うような気もしますので……性によって物語の受け止め方が変わってくるのは当然としても、今日び、こういう話は、どこにどれだけ配慮すれば正解なのか、というのが、なかなか見えてこないだけに、難しいですね。私としては、別にばりばりのフェミニズムのセンセイとは言わないにしても、ざっくばらんにこの手の印象をジャッジしてくれるカクヨムの女性ユーザーにぜひともコメントを伺って、その上で必要であれば明日乃さんには本作に手を入れていただいて、より広く受け入れられる形に仕上げてもらえたらと思います(すでに何人もの女性から意見を聞きつつお書きになったというのなら、以上の話は湾多のムダな深読みですので、読み捨てていただければ)。さて、難しい話はさておき、一点だけどうしてもこれは申し上げざるを得ないのですが。奈良の観光案内にまつわる記述は、現在書き込んでいる分の半分で話が作れます……よね?ええ、これは本人が書きたいから書いているんだな、とは思いました 笑。私自身は、まあおっちゃんの血肉のあるガイドぶりは楽しく読みましたけれども……これだけの歴史薀蓄を是とするためには、何か全く別の要素がないと、どうしても蛇足的なものとして映ります。エンタメ小説的には、ですが。総じて言うと、本作の対象読者層は、中高年男性ということになるでしょうか。その想定で読む限り、(ムダに濃い内容の歴史ネタと言い)パーフェクトな書かれ方がされているとも言えますけれど、前にも触れました通り、そう限定してしまうには何かもったいないというか、良い意味での収まりの悪さを感じます。なんとなくいちゃもんに近い物言いになってしまってるなと自分でも思うのですけれど ^^、そういうわけで今回は「よくわからないけれど、何かもう一つ欲しかった」ということで、星二つとさせてください。話自体の完成度はとても高いだけに、三つ星とはほとんど紙一重の差だったと申し上げておきます。終盤二十話ほどは改ページのクリックを止められませんでした。ストーリーテリングにますます磨きがかかってきたように感じられます。どっかりした読み応えの快作を久しぶりに堪能しました。ありがとうございました。
作者からの返信
コメント、ありがとうございます。おっしゃる通りです。「こんな女性はいない」と言われる可能性は高いのです。しかし、花梨は壊れている。その一点突破です。(笑)元々はセックス依存症的なところを書きたかったのですが、『学園ミステリー』という縛りから、過度な性表現は押さえました。花梨と町田、被害者同志といった連帯意識はあれど、同じ被害者の中でも加害と被害の関係は成立しているのであり・・・。ただ、花梨はこの旅行まで、町田があの町田だという確信はなかった・・・。小学生の町田が、ある意味、彼女を助けるために殺そうとした。・・・「そんな小学生はいない」という声が再び聞こえそうですが、ヤングケアラーとして大人びていたからこそ、彼はそうした・・・。奈良観光についても半分で済むと思いながら書いておりました。ただ歴史に象徴された人間の怨念や執着といった心情が、現代の世にもあるのだという、ただそれだけですが、観光を入れることで重い感情を薄めてみた、そんなところです。今回も丁寧な感想、ありがとうございます。今後もよろしくお願いします。
2023年8月31日 16:56
壬生寺とまわりって→壬生寺とまわって こうかと。 あらためて完結、おめでとうございます。修学旅行や仏教を通して、子供たちや大人たちが成長していったのだなぁと、そう思いました。明るい終わり方で良かった、良かった。
最後までご指導、ありがとうございます。これからもご贔屓に、よろしくお願いします。
のっけから「揺れている停車中の車」などという描写があったので、いったいどんな話になるんだろうと読み進めてまいりましたが、これはまた見事な青春ど真ん中の熱い物語でした。往年の、中村雅俊などが顔役を務めていた高校生ドラマをいやでも思い出します。今回のこれは、だいぶん現代的な重いテーマをも含められていて、ヒロイン二人の造形も合わせて、さじ加減がウルトラ級に難しい話なんではとも考えましたが、総じて明日乃さんらしい筆致の中に、ほどよいあそびを入れつつ、狙い通りの位置にしっかり着地しきったという印象です。多少の苦味を残しつつも、主人公たちが前向きに生きていこうと決心するところで幕となるストーリー、個人的には、これ以上望むものはない、とさえ思います。
と、深く唸らされつつも、どうしても気になってしまうのが、「女性読者はこの話をどう読んでくれるんだろう」という点ですね。我々の代のおっさん視点だと、本作中の性のモラルは許容範囲内だし、悪さをした男どもに多少甘い面こそ見えるものの、ポジティブな物語にまとめるにあたって、あらゆる方向に最大限の配慮はされているように読めますが、もしかしたら「こんな考え方する女の子なんていない」とばっさり斬り捨てる評者も出てきたりするんではないだろうか、などと思ったり。
町田の過去話は一応不可抗力に近い状況で、その罪も悔いているとは言え、図式化すると、直接の実行犯と友情(かそれ以上)を育もうとするところで終わり、ですからね。見ようによっては、「謝れば赦してもらえるとする男の甘えがにじみ出ている」とかなんとか、突っ込まれそうな余地はあるかと。正直、私から見ても、設定にしろ展開にしろ、エロに好意的なおっさんに都合のいい形であるな、と読めるところが色々ありました w。
だからといって「この話は、基本男性向けの小説です」と言い切ってしまえばいいかと言うと、どうもそういう形にしてしまうのは何か違うような気もしますので……性によって物語の受け止め方が変わってくるのは当然としても、今日び、こういう話は、どこにどれだけ配慮すれば正解なのか、というのが、なかなか見えてこないだけに、難しいですね。
私としては、別にばりばりのフェミニズムのセンセイとは言わないにしても、ざっくばらんにこの手の印象をジャッジしてくれるカクヨムの女性ユーザーにぜひともコメントを伺って、その上で必要であれば明日乃さんには本作に手を入れていただいて、より広く受け入れられる形に仕上げてもらえたらと思います(すでに何人もの女性から意見を聞きつつお書きになったというのなら、以上の話は湾多のムダな深読みですので、読み捨てていただければ)。
さて、難しい話はさておき、一点だけどうしてもこれは申し上げざるを得ないのですが。
奈良の観光案内にまつわる記述は、現在書き込んでいる分の半分で話が作れます……よね?
ええ、これは本人が書きたいから書いているんだな、とは思いました 笑。私自身は、まあおっちゃんの血肉のあるガイドぶりは楽しく読みましたけれども……これだけの歴史薀蓄を是とするためには、何か全く別の要素がないと、どうしても蛇足的なものとして映ります。エンタメ小説的には、ですが。
総じて言うと、本作の対象読者層は、中高年男性ということになるでしょうか。その想定で読む限り、(ムダに濃い内容の歴史ネタと言い)パーフェクトな書かれ方がされているとも言えますけれど、前にも触れました通り、そう限定してしまうには何かもったいないというか、良い意味での収まりの悪さを感じます。なんとなくいちゃもんに近い物言いになってしまってるなと自分でも思うのですけれど ^^、そういうわけで今回は「よくわからないけれど、何かもう一つ欲しかった」ということで、星二つとさせてください。話自体の完成度はとても高いだけに、三つ星とはほとんど紙一重の差だったと申し上げておきます。
終盤二十話ほどは改ページのクリックを止められませんでした。ストーリーテリングにますます磨きがかかってきたように感じられます。どっかりした読み応えの快作を久しぶりに堪能しました。ありがとうございました。
作者からの返信
コメント、ありがとうございます。
おっしゃる通りです。「こんな女性はいない」と言われる可能性は高いのです。しかし、花梨は壊れている。その一点突破です。(笑)元々はセックス依存症的なところを書きたかったのですが、『学園ミステリー』という縛りから、過度な性表現は押さえました。
花梨と町田、被害者同志といった連帯意識はあれど、同じ被害者の中でも加害と被害の関係は成立しているのであり・・・。ただ、花梨はこの旅行まで、町田があの町田だという確信はなかった・・・。小学生の町田が、ある意味、彼女を助けるために殺そうとした。・・・「そんな小学生はいない」という声が再び聞こえそうですが、ヤングケアラーとして大人びていたからこそ、彼はそうした・・・。
奈良観光についても半分で済むと思いながら書いておりました。ただ歴史に象徴された人間の怨念や執着といった心情が、現代の世にもあるのだという、ただそれだけですが、観光を入れることで重い感情を薄めてみた、そんなところです。
今回も丁寧な感想、ありがとうございます。今後もよろしくお願いします。