第26話
昼食を終えると、ひと
「困ります。綾小路さんをただ働きさせるわけにはいきませんから」
森村が班長としての責任感から、自分たちの分は支払うと言ったが、伝票を握った綾小路が譲らなかった。
「今日は、特別な日なのや。だからオッチャンに出させてくれ」
「特別って?」
「それはオッチャンのプライバシーや。とにかく、頼む」
頭を下げられては森村も引き下がらざるを得なかった。
「急げ、急げ」
店を出ると5人は法隆寺へ向かう。店から法隆寺までは10分と掛からなかった。
そのわずかな時間で、綾小路は聖徳太子が法隆寺に居を構えた理由を推理した。
「中国や朝鮮からの使者は
「おぉー。流石、厩戸皇子」
シュミレーションゲームが好きな森村が、厩戸皇子の戦略に感嘆した。
花梨も、彼を真似て「おぉー。すごい」と綾小路を称賛した。
凛花はいつものように澄まして景色を見ていた。
「しかし、別の考えもある。馬子が自分の力を強めるために優秀な部下の聖徳太子、あ、厩戸皇子に出先機関を造らせた……」彼がため息をつく。「……オッチャンは、そうは考えたくないが、可能性は小さくないなぁ」
車は駐車場に入った。松並木を進むと正面に南大門が見える。東大寺の南大門に比べたら小さく質素なものだった。
綾小路は門に向かわず、土塀伝いに右手の空き地に向かった。
「このあたりが
森村と凛花はうなずいたが、凛花と佐藤は首を傾げた。
「厩戸皇子が建てた最初の法隆寺のことだよ。今の建物は再建されたものなんだ」
森村が説明した。
「最初の伽藍配置は四天王寺と同じやった。門の正面に塔があり、その後ろに金堂がある」
「ふむふむ」
花梨の相槌は上辺だけだ。昨日立ち寄った四天王寺の伽藍配置など記憶になかった。
「東大寺とか興福寺とか、奈良のお寺はよく燃えるな」
佐藤が言った。
「そやなぁ。でも、ここは特別なのや」
「どういうこと?」
「燃えた大概の寺は戦のとばっちりを食ったようなものや。が、ここは聖徳太子の息子の一族25人が無理心中をした寺や。燃えたのは数年後のことらしいが、原因が雷なのか放火なのか、それとも呪いなのか……。今も判明していない」
「呪いって。……心中したから?」
「呪いは冗談や。……
戦争を避けるために、自ら滅んだということか。そんな政治家がいたら国はどうなるだろう?……花梨は背筋が凍えるように震えるのを感じた。
「……仏教を信じていた山背大兄王は
彼は参道の松並木に、亡霊を見るような目をむけた。
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