第3話
食堂に三つある長テーブルには沢山の顔があった。多くの瞳に射抜かれるようで、凛花の足はその場でとまった。
「お、お姫様だ……」
身体の大きな一番目立つ男子生徒が声をあげた。
――パチパチパチ――
拍手の音に緊張が増す。
「花梨、よく来たな」
手を挙げたのは2年2組の担任の友永栄治だった。
「こんばんは。毎度、お世話になりますぅー」
花梨がおどけて言った。
「不肖、秦野花梨。転校生を引率してまいりましたぁー」
彼女は軍人か獄吏のように直立不動の姿勢を取ると友永に向かって敬礼した。
――パチパチパチ、……再び拍手が湧いた。
その頃になってやっと、歓迎会の顔ぶれを見ることができた。女子生徒は2人だけで、他は男子生徒と教員だった。
凛花が見知った顔は寮の管理人をしている佐藤夫婦だけ。夫の
「自己紹介を」
花梨に促され、凛花は口を開いた。標準語で話そうと決めていた。
「美川凛花です。出身は奈良県生駒市。大阪と奈良の県境になる生駒山の東側になります。1年の時は大阪市内の学校に通っていました。いろいろあって、親と別居するために転校することに決めました。勉強は得意ですが、スポーツは苦手です……」
凛花は事前に考えていた自己紹介を述べた。緊張していたが、間違ったり、途切れたりすることなくすらすら話せた。
「……卒業まで、よろしくお願いします」
標準語で話した。よろしくお願いします、という最後の部分だけは関西弁のイントネーションだった。
無事に挨拶を終えて重い頭を下げると再び拍手が湧いた。
「こっちに座れよ」「花梨、こっちも空いているわよ」
声が誘うのは花梨のことだった。どうやら彼女は人気者らしい。
「ありがとう。じゃあ、一緒に来て」
彼女は凛花の手を引いて、おとなしそうな女子生徒の隣に凛花を座らせ、反対側に自分も座った。
「3年の
彼女は自分の話がおもしろいのか、ケラケラ笑いながら、その場にいる生徒や教師のことを全部紹介した。
紹介された生徒たちも微笑を浮かべ、あるいは苦笑しながら、「花梨にはかなわないな」「凛花さん、よろしく」「何でも言ってくれよ」と応じ、不足情報を付け加え、あるいは花梨の誤った紹介を訂正した。
家族的な寮なんや。……凛花はホッとした。しかし、その印象は、彼女が教師の紹介を始めた時に少し変わった。
「……その隣が
彼女は、教師に聞こえるのもかまわず話した。
「俺のことはほって置け」
友永が憮然と応じた。言葉は乱暴だが愛情があって、悪い人ではないだろうと思った。
「私のこともね」
静佳は微笑んでいたが、その目の奥は笑っていなかった。
凛花の背中を電気が走った。前の学校でも、そんな瞳を見たことがあった。
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