「違う? マリ、なにが違うの?」

 サチさんが首を傾げ、短い髪の女郎に問うた。すると彼女は、喉の奥で低く笑った。

 「本人に訊きなよ。ここにいるんだから。」

 サチさんは、困ったように少しだけ眉を寄せ、私を見た。

 「銀子ちゃん、なにが違うの?」

 私は咄嗟に、なにも違わないと答えた。紅子とのことを、誰かに話す気はなかった。

 サチさんはしかし、納得できないようで、しばらく私を見つめていたけれど、それからマリと呼ばれた女郎に目を移した。

 「マリ。」

 呼ばれた女は、淡々と首を横に振ったけれど、すぐに困ったように眉を寄せて笑った。それは、私がはじめて見た、彼女の表情らしい表情だった。

 「サチさんの言うことは無視できないなぁ。」

 そう言って、マリさんは私を見た。怖いくらい真っ直ぐな眼差しをしていた。嘘なんて、生まれて一度もついたとがないみたいな。

 だから私は怯んだ。そんな目を向けられた、嘘だらけの私は。

 「妹でしょう。」

 マリさんは、すんなりと、いっそ伸びやかなくらいに、それだけ言った。私は、頷くことも、首を振ることもできず、じっと身をすくめた。

 妹でしょう。

 ほとんど口を利いたこともない、関わり自体がろくにない相手から、そんなふうに言われて戸惑っていたし、なぜそんなことが分かるのだと恐怖に似た感情まで抱いていた。

 「なんで……、」

 なんで、そんなことが分かるのか。

 言葉に詰まった私を見て、彼女はちょっと肩をすくめた。

 「見てれば分かるよ。」

 なんで見ていたのかが知りたかった。なんで、私みたいなほとんど関わりのない相手を、そんなにじっと見ていたのか。

 その疑問に答えたのは、サチさんだった。

 私を安心させるようにそっと肩に手を置いたサチさんは、愛おしむように言った。

 「マリが言うならそうなのかもね。マリはいつだって新入りのことは気にして見ててくれてるものね。」 

 別に、と、マリさんは肩をすくめた。

 サチさんは微笑んでいた。私は、マリさんとサチさんは仲がいいのだな、とそんなことをぼんやりと思っていた。

 マリさんに見られていたという自覚はなかった。視線の一つも感じなかった。でも、私の変化を確かに感じ取ってくれていたのだから、マリさんは私を見ていてくれたのだろう。それは、密やかに。

 

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