第48話 さようなら、俺の愛した獣たち

「スキルを返すともう二度と人には戻れんぞ。お主たち、わかっておるな」


 神があまりふざけない。ていうか『キング・オブ・ザ・ビースト』ってなんなんでしょうか?スキルを、返す?人に戻れない?


 本当に、ふざけてないよね?


「ふざけとらん。7人の仲間を集めさせたのはそのためじゃ」


 真顔の神。


「お主の疑問に答えておる暇はないぞ。ヤツが動き出す前に、本来のお主の姿に戻るんじゃ。そこまで完遂して初めて、破滅フラグは完全に消滅する。まだ完璧には消えとらんぞい」


 そんな急に……。心の準備が全然できてない!いきなりそんな、みんなとの冒険はここで終わるのか?


「少しお別れが早まっただけだよ、獣王様」


 チチュ……地面から淡い光が空へ舞い上がり、彼女を包み込む。


「短い間だったけど、とても楽しかった」


 そんなこと言うなよ、チチュ……おれ、泣きそう。


「ありがとう獣王様。でも、本当は……」


 本当は、行きたくないんだよね?まだまだ一緒に冒険したいんだよね?こんな突然の別れなんて、受け入れられないよね?


「……あ、チュ!チュチュ!え?チュン太が彼女と別れそうだって!?めちゃくちゃNTRチャンスじゃん、それ!あ、獣王様!そういうことだから!じゃあね~!!」

「……!!」


 淡い光が消え、残ったのは一匹の小さなネズミ。そのまま野原の奥へと駆け出し、消えていった。同時に、彼女が持っていた大量の情報とスキルが一気に脳内へと流れ込む。


 ……チュン太に負けたみたいだ。俺。


「じゃ、わたしもそろそろ」


 キララも足元から淡い光が空へ舞い上がり始めている。


「わたしもすっごい楽しかったよ!ありがとう、獣王様!」


 まだまだ楽しいこと、いっぱいしたかった!あんなことやこんなことも!あのくちびるの感触、一生忘れない!


「私のアイドル道もここまでね、名残惜しいけど……」


 やっぱ未練あるんじゃん!行くなよ!!


「ああ、でもそういえば、獣王様。私、まだ売掛金とか回収してなかったですよね?利息もついてたから、債権残高金貨1202358枚になってたんだけど、いつ返して…」


 話している途中だったが、キララもクジャクの姿に戻り、そのまま空へと舞い上がり消えていった。同時に彼女が持っていた魅了する力や飛行能力なども、感覚があった。


 さよなら、キララ。そして数多の借金たちよ!!


「では、私もそろそろ」

「私ももう行きます」


 クマオとシュナが同時に光に包まれていく。


「レオ様と邁進した覇道!最後までお供できず、申し訳ございません!」

「そうですね。私ももう少し、お役に立ちたかったななんて、今更ながら思います」


 そんな!謝るなよ!まだまだ俺だって、君たちと……


「これまでいただいた万雷のお言葉、絶対に忘れはしません!」

「私も、大聖堂で受けたご恩をこの先もずっと、忘れることはないでしょう」


 俺も君たちと過ごした日々を、絶対に忘れないよ!


「ああ、ただ願わくば。もっと酒が、酒がぁぁぁぁぁ!!!……ボシュ」

「ドンタコ枢機卿。また帰ったら、あの頃みたいに〇〇〇や〇〇〇、していただけるのかしら……ボシュ」

「……」


 欲望にまみれた最後の挨拶とともに、二人は元の姿に戻り、それぞれの家路についていった。


 クマオからは素晴らしい筋力、シュナからは戻ってきた能力を繋ぐ回路のような力を俺の中に形成してくれて、さらなる覚醒の予感を感じさせた。


「いや、ちょっと!わたくしはまだ……」


 1人うろたえるアマネ。彼女の足元からも、淡い光が立ち昇っている。


「だめだめだめ!まだだめだって!!」


 こいつだけなんでこんな焦ってんだ?

 そんなに元に戻りたくないのかな?なんか、かわいいヤツだな。


「いやあああああああ!!!」


 パアアアアアアア


 光が散り、元のキツネの姿になった彼女は……


 って、あれ?どういうこと?


「いやん。バレちゃった」

「女神たん!なにやってんのぉぉぉぉぉ!!!!」


 衝撃の事実。アマネ及びキザクラの本性は、ここに来る前最初に会った女神だった。


 じじい(神)も知らなかったようで、大いに叫び散らかしている。


「あなた(神)が全然相手してくれないから、遊びにきてたのよ」

「いつから??ねぇ、いつから??」

「ひ・み・つ♪」


 色々おかしい女だとは思っていたが、逆に納得した。てか女神だったんなら、あんな蟲とか全然倒せたんじゃないの?


「あ、蟲とか倒せたんじゃないかって顔してるわね。可愛い♪でも、そこまではやれない因果律だったの。サポートだけで、ごめんなさいね♪」


 もう神とかよーわからん。因果律って都合のいい言葉だ、ほんと。


 ちなみに彼女から戻してもらった能力というものは、特に何もなかった。


「Hey!オコジョももう戻るわ!んじゃな、チェケラ!」


 まったく別れの余韻などなく、オコジョはイタチとなって消えていった。身に着けているモノと違って、性格はさっぱりしてんだな、アイツ。


 ただ、返ってきた能力はすさまじい。『空間無視』と『以心伝心』。そして転移。チートにもほどがある。


 ん?これってじじぃ(神)の能力じゃ……


 ま、いっか。


「ゴオオオオオオオオオオオ!!!!!」

「!!」


 蟲のアジトが唸りを上げている!アオイユキトは言った。アジトはすでに『蟲の王』そのものだと。つまり、あのゴテゴテした城みたいな存在そのものが、蟲の王ということだ。


 そしてついに、ヤツは活動を開始していた!


「あと一人じゃの。お主が一番、別れがつらいかもしれんが……これも定めじゃ」

「……」


 ミーアはさっきからうつむいて黙ったままだ。だが、光の奔流はすでに彼女の足元を照らし始めている。


「……」

「……」


 なにか言わなきゃ。でも、何を言えばいいんだ。


 ありがとう?愛してる?いや、こんな短い時間じゃなにも伝えきれない!


「……レオ様、ネコはお好きですか?」

「あ、ああ。めちゃくちゃ好きだ」

「にゃあという鳴き声も、お好きですか?」

「……とても可愛いと思ってる」

「ふふ」


 ミーアが微笑む。なにか、これまでの彼女からは感じたことのない不思議で懐かしい感覚を覚える。


 っていうかミーア!こんな時に何を言って……。


「知っていました。あなたがいつも、自分の部屋でネコを撫でながら一人ゲームを楽しんでいるところを、私はいつもこっそり見ていました」


 ミーアの足元の光が強くなる。もう間もなく彼女も元の姿へ戻り、こんな会話をすることもできなくなるだろう。でも、俺は彼女の話を聞くことしかできずにいた。そして、彼女の言っているおかしな点に気付く。


 一人でゲームをしているところを……見て、いた??


「喉をなでられ、気持ちよさそうなあなたの飼い猫。にゃあと言わせているのがわかりました。たぶん、好きなんだろうなって思って、いままでずっと「にゃあ」と言ってきました。最初は慣れませんでしたけどね。ふふ」


 うそ。ミーアも、まさか……


「私はいつも、あなたを見ていました。あなたと話がしたい。撫でられたい。ギュッとされて、愛されたい。そう思っていました。ずっと……」


 遠い目をするミーア。そうか。そうだったんだね。君は……


「この世界に来て、その願いが叶いました。私があなたとともに過ごした時間は、とても大切でかけがえのない宝物になりました」


 あの時捕まえられなかった野良猫。いつも見られてたのも知っていた。


 なんとか迎え入れてやろうと思って、捕まえに行ったんだ。あの時……。


「この世界が元に戻れば、私もまた、あなたが家の軒下まで追いかけてくれた、ただの野良猫に戻るのでしょう。もうお話しすることはできません」


 うちで一匹買ってたから、なかなか両親の許可が得られなかった。でも、あの日。


 ついに許可が下りたんだ!いつも見てる、可愛い野良猫も一緒に住んでいいって!


「でもいいんです。本当は叶うことのない願いが、ここで叶ったのですから。私にはもう、思い残すことはありません」


 そんなこと言うな!あの時はハチに襲われてこんなとこ来ちゃったけど、次は必ず捕まえるから!捕まえて、今度こそ必ず一緒に楽しく暮らすから!だから!


「いやでも。もし叶うことなら……」


 ミーアを囲う光が強くなる!

 もう、お別れの時だ。


「あっちに戻ったらもう一度、今度こそ私を捕まえて、ギュってしてくれたら、とってもうれしいな」


 光に包まれながら微笑むミーアのその表情は、女神をも軽く凌駕するほどの、とてもステキでかわいい、最高の笑顔だった。


「ありがとうレオ様。能力はお返します。必ずアオイユキトを倒してください!」


 ああ!ミーアも一緒に元の世界へ帰ろう!


 話せなくても、人の姿じゃなくても、俺たちはずっと、一緒だ!


「あとは、まかせたにゃぁぁぁぁ!!!!」



 光が散り、ミーアは元の姿に戻り、走り去っていった。


 俺は、最強になった。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る