第47話 キング・オブ・ザ・ビースト
「なんだてめぇは。どうやってここに入った?」
アオイユキトがこのふざけた格好の獣人化したイタチに警戒感を抱いている。さっきの余裕が感じられない。
「最初から、てかずーっとこのアジトにいたけど!え?まさか、気付かなかったの?マジしょぼ」
おちゃらけた仕草で盛大に煽るオコジョ。
シュルシュルシュルシュル!!
四方からイソギンチャクのような、蟲のはらわたの内壁が次々とオコジョに襲い掛かる!
やばいよ!絶対殺しにかかってる!回避できるような物量じゃない……
え?
「てめぇ……」
全身派手に貫かれ、盛大に血のシャワーを降らせるイメージを持っていたであろうアオイユキト。だが、そうはならなかった。
「なにそれ?遊んでんの?」
蟲の攻撃はすべて、オコジョを透過していた。むなしく空を切るイソギンチャクたちが目標物を見失い、さまよっている。
「権能持ちか。なるほど。俺のほうこそ、ずっと監視されてたってわけか」
苦虫を嚙み潰したような表情で、アオイユキトがつぶやいた。
権能って、なんだ?
「神の能力の一部を行使できる権限のコトね、マスター」
あれ、いま……読まれた?思考を。
「Hey、マスター!全部聞こえてるよ!オコジョの能力は『空間無視』と『以心伝心』。コレ使いながら今までずっと、この蟲のはらわたを監視♪オコジョ感心♪」
ああ。確かにそれはじじぃ(神)っぽい能力だ。
……べつにうまくないよ、その韻。
「みんなとは『以心伝心』。つまり心の中でやりとりしてたから、今こんな感じになってんの。獣人化の条件がちょっと複雑だったから、姿見せるのがこのタイミングになっちまったんだ。遅くなって悪かったね!マスター」
どでかいサングラスで表情がわからないので、本当に謝っているかどうかは不明だが、もし彼女がこれまで言ってきたことが全部本当だとすると……。
「コングラチュレーション!マスター!そういうことだ!つまり……」
ジャラジャラ金属音がする腕を伸ばし、俺の鼻先にビシッと照準を絞りながら、オコジョはこう言い放った。
「破滅フラグはもうないぞ!あとは、ヤツを倒すだけだ!!」
うっそ!マジか!ついに念願の破滅フラグ回避が成就してたんだ!!
「……ふむ。そうだな」
アオイユキトが腕組みをしながら少し考え込んでいる様子が伺える。
当初の計画とは違う結果になりつつあるのは明白だろう。少なくとも7人目がここで現れる未来は見えてなかったはずだ。
ただ、状況が一気に好転したかというと、そうでもない。
ここは完全にアオイユキトのフィールドだ。いくらオコジョが神の権限を持っているとはいえ、あの能力は攻撃に特化しているわけではない。
仮に7人全員力を合わせて攻撃を仕掛けたところで、ヤツを倒すのは不可能だろう。
じゃあどうする?なんとか隙を突き、まずは傷を負っている仲間を回収しつつ、なんとか一旦ここからの脱出を図りたいところだが……。
「さっきは邪魔が入って答えをまだ聞いていなかったな、
ズズズズズズ……。
なんだ、足元がぬかるむ。そして、熱い!
いや、これはぬかるんでいるんじゃない!
侵食だ!吸収され始めている!蟲のはらわたに!
「今一度問おう。
さっき聞いてきた時とは比較にならないプレッシャーを感じる!
ほかの仲間たちも、足元から浸食が始まっている!
不意をつく攻撃はもうできない!やはり、状況はなにも変わっていない!!
「……はっ!『空間無視』と『以心伝心』」
オコジョが吠える!秘策があるのか!?
「舐めんな、Yo!!!」
ブンッ
「ほえ?」
五感がバグる。視覚・聴覚・嗅覚・触覚・味覚も含め、すべての感覚が現実についていけていない。
蟲のはらわたで足を絡めとられ、選択肢のない回答を迫られていたはずだった。
オコジョが吠えたところまでは覚えている。覚えているが、いま自分が置かれている状況はまだ理解できていなかった。
「『空間無視』+『以心伝心』=『全員転移』だYo!!」
え。なんでそうなるの?よくわからんが。
てか、全員転移??したの??
「うまく脱出できたみたいですわね」
アマネがヤレヤレといった感じだ。言いぶりから、この展開まではわかっていた感じだった。
もしかしなくても、知らなかったの俺だけだよね?
なんでだれも教えてくれなかったんだよ!
「もう!胸のところ、服ビリビリだし!これ、気に入ってるのになぁ」
「いやーまさか!背中からブスッとやられたのは予想外でしたぞ!」
あれ、キララもクマオも、二人とももう大丈夫なんだ。傷、塞がってるし。
貫通してましたよね、胸。
「正直死ぬほど怖かったけど、なんとかなってよかった!」
チチュは大きくため息をつきながら、心底ほっとしているようだ。
「オコジョさんを獣人化させる条件は、皆がすべてをカミングアウトすること。うまくいってよかったですね」
シュナも微笑みながら、7人目の仲間を出現させた条件を話してくれた。
そういうことだったんだね。でも、空間転移することまで打ち合わせてたのはすごい。みんな演技派だね。
「いやーだって、あそこじゃアイツ倒せねーからよ!移動しなきゃ皆ジ・エンドだったわ」
オコジョがあの場所に居続ければ全滅だったと教えてくれた。
破滅フラグ回避したからと言って、じゃあアオイユキト消滅しましょうね、とはならなかった。
「隠し通路から出る直前に、イタチ女とは会ってたにゃ!そこから作戦練ってなんとかここまで逃げれたけど、本当に運が良かったにゃ!!」
ミーアが擦り寄りながら、オコジョとの出会いを明かしてくれた。
そうだよね。意図的じゃないところも多分にあったよね……。
運がよかったというのは本当にそうだと思う。
「そうだったんだ!みんな、ありがとう!」
俺に黙っていたことはこの際いいだろう。結果がすべてだ。
だが、脱出したのはいいけど、この後どうすんの?結局アオイユキトを倒すまでに至っていないのは事実だ。実力差が埋まったわけでもない。アジトの外に出られたのはいいが、あんなヤツどうやって倒せばいいんだ?
「いや、ここまでくればもう大丈夫じゃ」
この声を聞き間違えることはない。しじぃ(神)だ。
「よくやったのぉ、
ああ。まぁ、なんか褒めてもらえてるみたいなんで、素直に受け取っておこう。
「いい心がけじゃ。さ、ヤツが暴れ始める前に、最後の仕上げじゃ!」
最後の、仕上げ?
「時が来たのじゃ。7人の仲間は集まった。皆から愛のスキルを返してもらい、お主の本当の姿『キング・オブ・ザ・ビースト』を開放するのじゃ!」
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