第45話 破滅フラグは運命だ
「ちなみに、仮に俺を倒して破滅フラグとやらを回避したとしても、元の現実に戻るだけだぞ。お仲間たちともここでおさらばだ。お前はそれでいいのか?
アイツの提案は、実は少し魅力的だった。
本当は、なんとなくわかっていたんだ。
目的を果たせば、これまでの日常にもどってしまうということに。
こっちの世界は居心地がいい。すごくクセの強いヘンな奴ばかりで、ことあるごとに命を狙われるやばい世界だとは思うが、愛してくれる仲間が多くいて、そして何より、俺がいままで妄想してきた剣と魔法が使える世界が満喫できて、楽しかった。
できることなら、全てを解決した暁には、仲間たちと一緒にパトリア城がある辺境地でスローライフでも送れればいいなと密かに考えていた。
あふれる自然の中でゆっくりと、いつも笑って過ごせる楽しい毎日を送れれば、そんな幸せなことはないんじゃないかと思っていた。
だがどうあっても、運命はそれを許してくれるほど甘くはなかった。
俺は今、決断を迫られている。
アオイユキトの誘いを断り、ここで破滅フラグを回収される結末を迎えるか。はたまた彼の誘いに乗り、仲間たちとともに現実世界に赴き、人間を支配する側の一員となるか。
前者はただ死ぬだけ。後者は修羅の道。しかも後者はおそらく神を敵に回すことになる過酷な選択だ。
だが、仲間たちと離れることはない。一緒にはいられるんだ。
「俺がお前を誘っている理由は、お前が持っている『獣の王』の力が欲しいからだ」
アオイユキトは飲み終わった紅茶が入っていた白いティーカップを持ち上げ、横から眺めながら、正直に自分の思いをぶつけてくる。
「そして
バロンを向かわせてたってことは、行動が読まれていたってことなのか?
いや、いまさら驚くほどのことでもないか。もはやアオイユキトはこのゲーム世界において神に近い存在なのかもしれない。
「まぁ正直、俺ら蟲の軍勢だけでも余裕で現実世界ボコボコにできるんだけどな。でも、戦力は多いに越したことはないだろ?ザコはいらんが、使えるヤツは欲しい」
彼が見つめていたティーカップが、飲み口からサラサラと小麦粉のような粒子となり、天井高く舞い上がっていく。
「選択肢はないと思うが一応聞いてやる」
空に舞ったティーカップの粒子がアオイユキトの元に再び集まり、鋭利で禍々しいナイフへとその用途を変えていた。
彼はそのナイフを掴み、俺にかざしながら言葉を続ける。
「俺の仲間になるか否か。10秒以内に答えろ」
突然、死の宣告カウントダウンが始まる。
……アイツの言う通りだ。今の俺に選択肢なんてない。
断ればあと数秒の命だ。受け入れれば生きられる。
修羅の道とはいえ、仲間たちと一緒だ。
生きてさえいれば、またチャンスも巡ってくるかもしれない。
簡単な二択。回答はもう決まっている。
みんなのためにも。俺は、アオイユキトの仲間に……
「黙って聞いてりゃ調子に乗りやがってにゃ!!」
え?急に立ち上がって、どうしたの??
「レオ様がオマエの仲間になんてなるはずないにゃ!」
ミーア、さん??
啖呵切ってます?まさか。
「そもそも選択肢が足りないにゃ!ボコボコにされて命乞いするのは、オマエだけにゃ!アホユキト!!」
ああ、なんか。ミーア。
ありがとう。
「言ってくれるじゃねぇか!ザコの分際で……!!」
彼の構えたナイフが俺の喉を掻っ切る前に、アオイユキトの背中に別のナイフが突き立てられる!
「キララ様!わたくしたち、やりまし……がっ!!」
彼を刺したのは3人のメイドたちだった!すでにキララが仕掛けていたのだ!
だが、メイドたちはアオイユキトの反撃のナイフひと振りで、3人とも喉元を掻っ切られ、大量の血を噴水のように吹き出し、絶命した。
「油断した。お前ら最初から……がはっ!」
「また油断?アイドルのファン、舐めないでよね!」
血の噴水が急激な速さで凝固し、一本の鋭い赤い槍となり、今度はアオイユキトの胸元を貫いた!
アイドルってすごすぎる!
「緊縛プレイはお好きかしかしら?」
すでに敵の死角から迫っていたアマネの電気コードのような魔道具が、すごい速さでアオイユキトを椅子に縛り付ける!
「電気もたまにはいいですわよ♪」
「がああああああ!!!!」
通電できるアイテムだったようで、アマネの手元がスイッチになっていた電気コードは本来の趣旨にたがわず、アオイユキトに高圧の電流を流しこんだ!
「クマオ、やっちゃって!」
チチュがクマオに指示を出す!すでにオーラを充填していたクマオが突進の構えをとる!
みんな!おとなしそうな顔して機会を伺ってたのか!
諦めていたのは俺だけだった。
なんか、ごめん。
そうだよな!なにもせず、ただ運命を受け入れるだけとかありえないよね!
破滅フラグがなんだってんだ!
「来い!ミーア!シュナ!チチュ!」
俺は攻撃に参加していない3人を自身の元へ呼び寄せた!
「シュナ、こないだのやつ、いける?」
「ええ、もちろん。私は役目を果たします」
攻撃を畳みかけている今がチャンスだ!
隙があるうちに覚醒してアイツを……って、あれ?
クマオ?キララ?アマネ?
どうしちゃったの急に?胸から血を流して、みんなしてパタパタ倒れ込んで。
イスに縛り付けられ、背中には突き立てられた3本のナイフ。胸には赤い槍が突き刺さり、電流を流されていたアオイユキトは、大量の血を流しながらその動きを止め、下をむいている。彼はなにもしていない。
なのに、クマオたちは何故か、やられている?
どうして……。
「おまえたちは一つ、大きな勘違いをしている」
普通の人間ならとっくに死んでいるであろう猛攻を受けたアオイユキトが、うつむきながらつぶやいた。
「ここは蟲のアジト、ではない」
いや、それはない。地理的にここは……。
「位置の話をしているんじゃない。このアジト自体の話だ」
なにを、言っている?
「俺の契約元は『蟲の王』。そしてお前たちが今いるここは、蟲の王のはらわたの中だ」
そう。クマオたちが胸を貫かれていたナニかは、壁面から突然生え広がっていた、うごめく気色の悪い、蟲の触手だったのだ。
気づかなかった?
いや、気付かされなかっただけだ。
俺たちがここに入った瞬間から、勝負はすでに決していたらしい。
アオイユキトに、死角はなかった。
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