最終章 創生のディストピア
第44話 有希人とユキト
「まあ全員座れよ。あ、飲み物は紅茶でいいか?」
目を疑う光景だった。そこはまさに王宮の食事処。
天井が高く、だだっ広い室内の中央には長テーブルといくつもの高級な椅子が設置されており、テーブル上には規則正しく燭台や花瓶、銀製の食器などが並べられている。
その周りを数名のメイドと思われる女性たちが歩いている。白い皿とカップを優しくテーブルの上に置いていき、持っていた首の長い白鳥のような入れ物を傾け、紅茶をカップに注いで回っている。
俺の記憶にあった蟲のアジトはただの気色悪い洞窟だった。ここにはもう、その面影は微塵もない。
「ふぅ。やっぱ飲み物は温かい紅茶に限るよな」
上座のイスに腰かけ、優雅に紅茶をたしなむアオイユキト。若い風貌だが、その姿はサマになっていた。
蟲のアジト備蓄用倉庫でアオイユキトと遭遇した俺たちは、彼の言われるがままにこの場所までただ、ついてきた。
予想外の邂逅だった。まさか、あんなところでばったり出会うなどとは夢にも思っていなかった。
いや、可能性としては当然考えておくべきことだった。アオイユキトが行方不明となっていたという噂は、この情報封鎖された空間に彼が入ってから、まったく外に出ていなかったからだろう。
ハルバートが俺たちをここへ向かわせたのも、アオイユキトの討伐を目論んだからだ。確証はなかっただろうが、実際アオイユキトはここにいた。
もっと慎重に侵入経路を考えるべきだった。幸い、出合い頭に瞬殺されなかったことだけが救いだ。
「突っ立ってないで座れって。紅茶、冷めちまうだろ?ああ、ちなみに侵入経路変えても無駄だったぜ。俺はこのアジトに侵入したすべての生体反応を察知できる能力を持っているからな。地下でも関係ない」
作戦の問題ではなかった。単純にヤツが俺たちの想像を超える能力を持っていただけの話だった。
不本意だが、いまはヤツの言うことを聞くしかないだろう。とりあえず、俺は皆に席につくよう指示を出した。
あ、紅茶は飲んだフリだけで頼むよ!なに入ってるかわかんねーからな!
「毒とか入ってないし。ていうかそんな面倒なことしなくても、お前らごときいつでも瞬殺できる」
ゆっくりと紅茶をすすりながら、しれっと恐ろしいことを言うアオイユキト。
彼にとっては俺たちなど、チンパンジーとそんなに変わらない存在なのだろう。
「話をしたい、と受け取ってよろしいのかしら?」
アマネがすでに紅茶を飲みながら、アオイユキトに初手を打っていた。
え?ていうか、もう飲んじゃってるし!大丈夫なの??
「理解が早くて助かるよ、色気ムンムンお姉さん。いきなり襲い掛かられても殺しちゃうだけだしね」
恐ろしいほどの余裕を見せるアオイユキト。慢心と言っても過言じゃないだろう。
ご承知の通り、すでに新フラグの回収は不能となっている。仲間がそろう前にアオイユキトと遭遇してしまったからだ。
ここから先の展開がどうなっていくのか、俺には全く予想がつかない。
もはや破滅フラグビンビン状態である。
「まあ、わたしの予想だと、「俺の仲間になれ!」ってところなのかな?」
キララはすでに紅茶を飲み干し、おかわりを注いでもらいながら自身の予想を投げていた。
コイツらマジ緊張感ないな。肝の据わり方が違う。
「おおスゲェ!やるなアイドル系!その通りだ!」
アオイユキトが感嘆する。どうやら当たったらしい。
ていうかこいつの話し方俺そっくりだな。あ、いやコイツ、俺か。わけわからん。
「でも、大聖堂でグランとかいうやつに僕たちを襲わせたのってキミだよね?人を蟲に変えてまでさ!」
チチュがシュナの膝の上に乗り、俺も疑問に思っていたことをビビりながら聞いてくれた。
そうだよ!オマエの指示だろうが!
「いや、俺は指示してないよ、銀髪少女。たぶん、レオと遊びたかっただけだろう。死んだけど」
遊びたかっただけ、だと?
自由すぎだろ。パーティの意味なくないか?
「蟲化はヤツの趣味だ。俺からすれば、一般市民を蟲に変えてどうすんだよって話だけどな。どうせ全員殺すのに」
すごくまともに会話しているつもりだが、ちょいちょいアオイユキトの言葉には破滅的なものが混ざっている。
やっぱ人間全員殲滅するつもりなんだ。
「我々を仲間にして、なにをされるおつもりなのですか?」
クマオが紅茶に口をつけずに、真剣なまなざしで核心的なことを聞いた。
そのとおりだ。人間を殺して、なにがしたいんだ?
「世界征服」
え?いまなんて言った?世界制服?あー!グローバル基準の制服でも作って一儲けしようって魂胆か!いやーさすがアオイユキトさん!考えることが違いますね!
ってそんなわけないだろ!!
「すでに征服間近なのでは?私たちの力なんて必要ないでしょう」
チチュを抱きかかえつつ、シュナも会話に参戦してくる。
無限に沸く蟲と彼のパーティメンバー。それに俺たちを即死させられるほどの実力を持つと豪語するアオイユキトがいれば、確かにその計画の遂行は容易だろう。
もう戦力いらなくないですかね?
「ちょっと勘違いしているようだな。俺が言っている世界ってのは現実世界の話だ。神さんに聞いてないのか?」
はぁ??なんだその壮大な話は。現実世界の征服だと!?
言ってたか?そんなこと!
……いや、そういえばじじぃ(神)が魔力の泉付近で出てきたときに、蟲を止めなければ現実世界に広がるとかなんとか言ってたかもしれん。
ていうかコイツ、神のことまで知ってんのか。
仲間たちを混乱させないようなるべく情報を制限してこれまで話していたが、もう破滅フラグピンコ立ちなんだから、隠し事もクソもなく、今後全部有希人基準でしゃべってやろうと思う。
「この『創生のアルカディア』から現実世界に出られるっていうのか、ゲームキャラのお前が」
「ああそうだ。俺の契約元『蟲の王』なら可能だそうだ。ただ条件として、このゲーム世界にいる人間を全滅させなきゃならんらしいけどな」
たぶん、仲間たちは俺とアオイユキトがなんの話をしているのか全く理解できていないだろう。だが破滅フラグ回避ができなくなった今、そんなことより腹を割って話す方が活路を見出せそうな気がしている。
「お前はどうなんだ?レオ・ローレンハインツ。いや、
「え?お前倒したら、戻っちゃうの?俺」
「はあ?お前そのために戦ってきたんじゃないのか?」
なんか話がイマイチかみ合ってないのは、神が俺に与えている情報よりもアオイユキトが持っている情報のほうが多いということを意味しているのだろう。
「俺はただ、破滅フラグを回避したくて……」
「ぷっ!あはははは!そういうことか!神はこっちの世界じゃあまり役に立たないもんな!あはははは!」
フラグを回避するために、意味のわからない条件をクリアしなければならないということを理解したような笑いだった。
「まぁアイツ(神)にとっちゃ、ゲームの中の人が作ったゲームの中に入るようなもんだしな。そりゃワケわかんなくなるから無理って話だよなぁ」
ちょっと何言ってるかわかりません。
「まあいいや。それだと話は単純だな」
腹を抱えて笑う笑顔が消え、アオイユキトの表情が変わる。
真剣な眼差しで俺の顔面を直視し、彼は改めて俺を引き入れるための殺し文句を言い放った。
「仲間になれ、
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