第42話 強襲!大聖女襲来
―アリスト城 大広間―
「あの時はすまなかったな」
数多の蟲の群れを抜け、なんとかアリスト城まで辿り着いた俺たちは、蟲のアジト攻略のため、冒険者たちが拠点とするアリスト城でハルバートと会っていた。
「い、いえ。こちらこそ」
丁寧に頭を下げてくるハルバートに少し戸惑う俺。
聞くところによれば、パトリシアの森で俺たちを襲ったのは、魔族と結託しパトリア城でよからぬことを企んでいる令息がいるという噂を聞きつけたからだったそうだ。
ロンはヘンな情報を掴まされたからと言っていたが、実際のところはドンピシャの真実だったので、なんかこちらのほうが逆に申し訳ない気持ちになった。
ちなみにスケベおじさんロンはソラマ大聖堂に置いてきた。っていうか、彼のほうから死地には行きたくないと申し出があったので、そうしただけだ。
また、一緒に酒を酌み交わした影響からか、えらく枢機卿や牧師とも仲良くなっていたので、彼にはファミーユの街の復興に協力してほしいというお願いもさせてもらった。
当然断られたが、うちの女性陣がたぶらかしてくれたおかげで、それほど苦もなく聞き入れてくれた。チョロい……ごほん、とても親切で頼りになるいい人だ、ロンおじさんは。
「この金髪おにいさん、どこかで見たことある気がするにゃ……」
「ないないない!会ってないよ!そ、そういえばハルバートさん」
となりにいたミーアがハルバートの顔をまじまじと見始めたので、話を急転換させる俺。
思い出さなくていいよ!忘れなさい!ミーア!
あ、ちなみにミーア以外の仲間たちはそれぞれ城内で自由行動をとっている。
これからの決戦に備え、英気を養うよう指示したのだ。
ミーアだけは、俺のそばを離れなかったので一緒にいる。
まあ、この娘はなにをしでかすかわからないので、逆に一緒にいないと怖い。
「いま戦況はどうなってるのですか?」
ミーアの口を押さえながら、アリスト城で指揮を執っているハルバートに現状を聞いてみた。チチュとロンの情報では、かなり優位に立っているとの話だが。
「予断は許さないが、状況は悪くない」
ハルバートが大広間を見渡しながら言った。
周りはにぎやかで、あまり悲壮感は感じない。談笑なんかも聞こえ、緊張感も薄いように思う。
「余裕、ありますよね」
「そうだな。正直、少し気のゆるみが出ている。一度締め直さなければな」
兵士の類ではないので、やはり冒険者特有の楽観が見られるが、やはり戦況はとても有利なのだと肌で感じる。
ちなみにアリスト城に元々いた騎士や衛兵、貴族たちはほぼ壊滅していたらしい。冒険者たちが城を奪還したおかげで今の状況となっているとのことだ。
また、ここを治めていた公爵はなんとか生きていたが、罪悪感からか部屋に閉じこもって出てこなくなったそうだ。まぁ、仕えてくれた人たちがたくさん犠牲になってしまえば、それも仕方のないことだろう。
「これから、蟲のアジトへ攻め入るのですか?……ってこら!手舐めるな!!」
と言いながらも、ミーアの舌は思いのほか気持ちよかった。
「おほん!まぁ仲が良くて結構なことだが、あまり見せつけてくれるな。そうだな、それに関しては秘策があるのだ!実はな……」
「急報!ハルバート殿!ヤツがついに動き出しました!」
一人の冒険者がハルバートに告げた一言に、和やかだった大広間の空気が一変する。このあたりの切り替えの早さが、ここにいる冒険者たちの実力を表してる。いずれも手練れだ。
ただ、ヤツとは一体……。
「にゃにゃ!なんかすごいオーラを感じるにゃ!」
俺の手を振り払い、天井を見上げて意味ありげなことを突然言い出すミーア。
本当に感じているかは不明である。
「いまどの辺りだ!」
「目標との距離約数キロ!西の空より、Sクラスに相当する蟲の大軍を引き連れ侵攻中とのことです!」
索敵に優れた能力者がいるようで、かなりの距離から敵の様子を把握できるらしい。これもこの城が生き残れている理由のひとつだろう。
そしてその情報は、ミーアが見上げていた方角とも一致していた。
「ハルバートさん!ヤツってまさか……」
「いや、アオイユキトではない。奴の姿を目撃したものは、ここ最近だれもいない」
俺はこのタイミングで進行してくる敵の主力で思い当たるヤツに、一人しか心当たりがなかった。
だが、その予想ははずれた。だとすると……。
いや、もう一人いる!アオイユキトの次にとびきりやばい奴が、あの主人公パーティにいたじゃないか!
「気づいたようだな。そうだ。いまこのアリスト城を目指し凶悪な蟲を引き連れ進軍してくる禍々しい敵の司令官。それは……」
ゴゴゴゴゴゴゴ!!!ドゴォォォ!!!
ドゴォォォォォン!!!
「うわああああああ!!!」
「ぎゃああああああ!!!」
突然だった。大広間の天井を突き破り、巨大な隕石が俺の視線の先で直撃した!
さっきまで笑顔があふれていた空間が突如として地獄と化していく。
隕石による攻撃は絶大だ。巻き込まれた冒険者の命はないだろう。
「ミーア!ハルバートさん!出口まで走って!!」
俺は考えるより先にミーアの手を引き、まだ破壊を免れていた外へ通じる通路へと全速力で駆け出す!ハルバートも状況を把握したようで、俺に追随する!
「くそ!これが蟲と結託して手に入れたヤツの力なのか!」
毒づきながら頭を低くし走る俺は、隕石の原因とヤツがだれなのかを確定した。
この隕石は魔法だ。しかも、これを放ったヤツはゲーム進行上このタイミングでこんな魔法は扱えなかったはず。
あの超長距離から放たれたであろうデタラメな超範囲攻撃。
悪魔のごとき隕石を叩き込むヤツ固有の超魔法。すなわち
極大聖魔法『
そして、この魔法を扱うヤツの名前に、俺は一人しか心当たりがない。
シオン・マクラーレン。
アオイユキト率いるパーティメンバー最後の一人にして、大聖女の異名を持つ最凶の魔女だ。
「こんなの知らないにゃ~!!」
「これは魔法なのか!?あの聖女、規格外すぎる!!」
巨大隕石落下後も小ロットの隕石が炎を纏いながらランダムで降り注ぐ!あのサイズでも直撃すれば死ぬ!
ハルバートさん、こっち飛んで来たらなんとかしてくれぇ!!
「はぁ!!」
超スピードの落下物を走りながら剣で叩き落すハルバート!
やっぱこの人もすげぇ!
「ミーアとやら!この間戦った時みたいに魔法でなんとかできんのか!」
「レオ様がアイドルおんなとおせっせしたから無理にゃあ」
「……」
不可抗力とはいえ、あのとき俺に感動と興奮を与えたキララのフレンチキッス(おせっせ)は、ミーアにとってはトラウマとなっていたようで、戦況は不利になる一方なのであった。
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