第40話 もう、後戻りはできない
「パトリア城が……陥落?」
兄の言葉がまったく理解できなかった。
「ああ。魔物討伐で遠征中だった私のもとに緊急の知らせが入ってな……。蟲の大群に襲われ、1日と持たなかったらしい……」
言葉を詰まらせうつむくバルゴス。さまざまな思いが巡っているのだろう。
この世界の実家に当たる場所だ。父やその他大勢の世話になった城の人たちのことを思うと、気にならないかと言われたら嘘になる。
でも、俺もここまで来て引き返すことはできない。仲間はあと1人だ。
7人が揃えば運命を打開できるかもしれないと、じじぃ(神)は言った。すでに狂ってしまっているこのゲーム世界『創生のディストピア』を救い、俺の命をつなぐためには、このまま前に進むしかない。
「その通りじゃ。今のお主に選択肢はないぞい」
フワッとじいさんが俺とバルゴスの隣に現れて、現実を突きつけられる。
「なんだ?このおじいさんは?」
「神じゃぞい」
「ああ、すまない。今は取り込み中だ。あとで保護申請を出してやるから、大人しくしていろ」
「もう、いやじゃ……」
完全に浮浪者扱いで草。
って、またテンション下げちゃったじゃん!兄さん、あかんよ!
「レオ!私はお前がこの大聖堂にいるはずとの報告はすでに受けていた。先般のリゼ・シュナイダー公爵令息との戦いで、お前が非常に強力な戦力となると考え、あえて遠征先からこの街へ立ち寄り、迎えに来たのだ」
兄さん、そのリゼ(逸人)もそこにいますよ。
気づいてないのかな?
「父上や城の者たちは必ず生きていると、私は信じている。すでに帝国へは援軍要請は出している。戦力が整えば、パトリア城の奪還は可能なはずだ。お前も一緒に来るんだ、レオ!」
帝国軍。このゲーム世界最強の軍隊。世界秩序維持部隊だ。
魔王を倒すのは主人公パーティだが、世界各地で起こる大規模な敵(魔族、魔物、種族間)との紛争解決はここがほぼ担っていたとなにかで読んだ記憶がある。
もしそうだとするなら、別に俺たちが行かなくても……。
「帝国軍は動かないよ」
軽快な足音とともに、チチュがやってきて、なにやら不穏なことを言い出す。
「やっと僕が張り巡らせた情報網『ねずみ講』が機能したんだ!」
チチュは張り切って話し始めているが、ねずみ講はよくないんじゃないかなー!
それで、帝国軍の動向がわかるのか?
「世界中のネズミたちが、僕に各地のタイムリーな情報を集めてくれるんだ!リンクと末端の広がりがイマイチだったけど、ようやくうまくいったよ!」
すごくマルチなにおいがするスキルだが、とても役には立ちそうだ。
「え?それ、ワシが話そうと思てたのに……」
じじぃ(神)はチチュにお株を奪われた。
いつの間にか、チチュも成長していたらしい。スキルの『通い愛』って特別なにもしてなかった気もするが。まぁいいか。
「どういうことだ?小娘」
「そのままの意味だよ。帝国軍は蟲の大群から帝都デグロムを守るため、ほぼ全戦力をそこに集中させているんだ。各国の支援要請は全部拒否されてるよ」
いきなりすごい頼りになる娘になっちゃったね。
『ねずみ講』、ヤバいっす。
「そのかわい子ちゃんが言ってるコトは正しいぜ。冒険者の情報網でも、帝都のコトは噂になってたよ」
ロンもやってくる。この二人はともに情報屋だ。
真実なのだろう。パトリア城の奪還に、援軍は来ない。
「あ、待って!チュチュ……チュ!?チュチュチュ!」
なにそれ、周波数的なやつなのぉ!?
くちびるとんがらせて、めっちゃかわいいじゃないか!
「パトリア城、大丈夫っぽいよ!エロンティーカ7世が魔物の大軍勢引き連れて、城を奪還しなおしたみたい!」
「父上、父上は無事なのか!?」
「チュチュ……うん!エロンティーカ7世とイチャイチャしてる!」
「……」
ま、まぁ助かったんなら、よかったじゃないか!
うん!よかった!
「シネシャアアアアアア!!!」
あ、コイケのほうの蟲めっちゃ怒ってる。嫉妬かな。
てか、アンタより俺やバルゴスの気持ちのほうが複雑なんですからね。やれやれ。
「信じて、いいんだな?」
「うん!でもまだ蟲はどんどんやってきてるみたいだから、早く戻ってあげたほうがいいかもよ!」
チチュの言葉にようやく少し安堵の表情を浮かべるバルゴス。
戦況が落ち着いたのならば、これからの行動に迷いはなくなった。
「バルゴス兄さん。俺はパトリア城には帰れません」
「ああ。私も少し動揺していたようだ。すまない。お前の旅の先には、この地獄のような世界を救ってくれる、光があるのだろう?」
「ええ!」
「ならば話はこれで終わりだ。私はすぐにパトリア城へ帰還する」
そう言って、バルゴスはリゼ(逸人)をチラ見した。
やっぱ気づいてたのか。でもなんでイチャモンつけないんだろう。
「あ?こないだの続き、やんの?」
「今のお前からは殺気を感じない。我々の敵でないのは明白だ。世界が落ち着いたら、またやろう」
「死ぬんじゃねぇぞ。お前に叩き込まれたあの技、結構痛かったしな」
「お前もな」
二人が大人な会話で再会の約束を交わし、挨拶もそこそこに、バルゴスはパトリア城を目指してこの場を去っていった。
「もう二度と、会うことはないかもしれんがな……」
「チュチュチュ!!!獣王様!北の辺境地付近でなんかすっごいヘンな奴が蟲と一緒に暴れてるみたい!」
チチュが『ねずみ講』からの異常警報を受け、その内容を報告してくる。
「あーたぶん、アイツだな」
ロンがこのわずかな情報だけで、ヘンなヤツがだれかを察知した。
「だれ?」
「事情は知らんが、なぜかヤツは1人で北の大地をうろついていたって情報が出回ってた。蟲と一緒ってことはおそらく……」
もったいぶるなよ!教えてくれよ!
「おい!それ、だれなんだよ!」
「バロン・ド・デスロール。アオイユキト冒険者パーティの戦士だな」
バロンだって!ていうか、冒険者パーティなのに単独行動多すぎないか?
グランもそうだったし。あいつら、一体何をやろうとしてるんだ。
「契約元から知らせが入った。俺は一度自分の城へ戻らねばならん。お前らとは一旦ここでお別れだ」
「
「お前らは蟲のアジトへ行け。敵さんの総本山だが、そこへ行かなきゃ目的を果たせないんだろ?」
もはやいろいろと知っていることには驚かない。いや、ある意味驚いたか。
蟲のアジトが敵の総本山という情報は初耳だったからだ。
最後の一人は、そんなところにいるのか……。
「じゃあな、
「おい!ちょっとまっ……」
シュタ
俺が止める前に、
事態は、急激に最後の戦いへ向け、その動きを早めている。アオイユキトとの邂逅も、もう間もなくだろう。
敵は強大だ。もはや俺が知っているゲームの主人公とは全く異なるナニかなのだろう。
だが、どうであれやらなければならない。
このゲーム世界を救うため、そして俺自身の運命を変えるため、絶対にヤツに会うより先に最後の仲間を見つけ、戦いに勝利しなければならない。
さあ、俺たちも行こう!決戦の地!蟲のアジトへ!!
「レオ様ぁ。あの白くて甘いの食べたら、腐ってたにゃ……」
知らん。
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