第39話 ほぼ全員集合
じじぃ(神)が現れた。
「「あーーーー!!!!エロじじぃ!!」」
女性陣の悲鳴にも似た高音ボイスが半壊のソラマ大聖堂で一斉にハモる。
それはまさに聖歌隊が奏でる天使の響き、ではなかった。
「よっ!わし、神!」
これまでにないパターンで、じいさんはやってきた。
今までは必ず俺が1人の時しか姿を見せなかったのに、何故か急にみんなの前に姿を見せてきた。
これまでの話から推察するに、因果律の関係でなるべくこっそり動いていたのだろうが、突然方針を変えてきたのか?
ちなみにみんな、俺と出会う前からじじぃ(神)と会っているのだろう。
「あ?なんだじいさん。どっから湧いてきた?」
「シャアアアアア!!コラァァァァァ!!」
男性陣のウケもすこぶる悪い。蟲たちの反応もご立腹なご様子。
「シャアアアアアラァァァップッッ!!お黙りなさい!!」
おわっ!ビックリしたぁ!そんなデカい声出して大丈夫かよ!
アンタ、入れ歯じゃなかった?
「あれは面倒くさいんでとっくにやめたわい!」
ちゃっかり心読んで話すんじゃねぇよ。これだけ人数いるとわけわかんなくなるから。
「お主、
二回言った「わし、神」。認識されないのは癪に障るようだ。
てか、じいさん前にリゼ、もとい
「お前がアイツの言ってた
「しなびた……アレ、じゃと?わしのラグナロクは天をも貫くぞい!」
いや、見た目の例えだろ。じいさんの〇〇〇が聖剣級とかいらんデマ流すな。
アイツって、契約主のことかな?
「デマちゃうわ!ほんとだもん!!」
めんどくさいんで話進めてもらえませんかね?
「うおっほん!それもそうじゃの!さて……」
じいさんは辺りを一望し、少し考え込むように目をつむり、なんか独り言をぶつぶつ言い始めた。
「レオ様ぁ~!!」
ぶっ!おいミーア!いきなり抱き着いてくんなよ!恥ずかしいだろ!!
みんながいる前で……。
「いま、どういう状況にゃ?だれを倒せばいいにゃ?あのエロじじぃかにゃ?」
ほかにもっとヤバそうなヤツいっぱいいるだろ……。
どんだけ敵視されてんだよ、じいさん。
「ヒソヒソ(ねぇ、キララはあのおじいちゃんになんて言われたの?)」
「ヒソヒソ(金貨1000000枚でどうじゃ!って言われたけど、わたしおじいさんはムリってお断りしたの)」
絶対ロクでもないヒソヒソ話をしているチチュとキララ。
じいさん、たぶん聞いてるよ。
「やっぱワシ、帰ろうかな……」
いやなにちょっと凹んでんのぉ!大事なこと言いに来たんだろ!?
帰られたら困る!アマネ!フォローしてぇ!!
「ええっと、今どういう状況なのでしょうか?」
キザクラに戻ってるぅぅぅぅ!!!
相変わらず彼女の切り替えのタイミングがわからない。
「なんと神々しい……。またお会いできて感無量であります!神!」
クマオが突然神の前に片膝をつき、
この男は権威にめっぽう弱いらしい。
「おお!デカいの!さっすが、わかっとるのぉ」
お。ちょっと持ち直したか!
やるじゃないか!クマオ!
「私は役目を果たしたいです。ちょっと……性的な方は苦手なのですが。神様、いろいろ教えてはいただけませんでしょうか?」
シュナ!ファインプレーだ!
「おおおおお!
よし!じいさんのテンションもまた整ってきたようだし、この際だ!
最後の仲間のことやアオイユキトのことなんかも全部吐かせて……
「おーーい!おまえら、大丈夫かーーー」
大聖堂の正面入り口のほうから、聞き覚えのあるおっさんの声が響き渡る。遠すぎて顔とかわからないが、間違いないだろう。
この間世話になったばかりのイッパツ屋スケベおじさんロン・パトス。前回別れた時は目的地が違っていて別々になったはずだが。
なぜ、ここにいるのだろう。
「いやあ、ロスの町へ行きたかったんだが道中蟲がすごくてな!回り道するのにファミーユを経由したんだが、このありさまだ」
瓦礫の山を軽快に越え、俺たちの元へと近づきながら、彼はこれまでの経緯を話してくれた。街中蟲だらけ、しかも大聖堂はめちゃくちゃになっていてさぞ、びっくりしたことだろう。
「あれ、ほかのお仲間さん達は?」
食事を用意してくれたり、テント張ってくれてた冒険者たちがいない。
一緒じゃなかったの?
「いや、あいつ等はあのキャンプ地で仲良くなっただけで、パーティなわけじゃない。俺は一人で冒険者やってんだ」
カスパラ渓谷とパトリシアの森の経由地でキャンプしてた他の冒険者たちは、蟲の群れの中を突き進んでロスの町へと向かっていったらしい。
「ってお前!なに猫耳コスプレねぇちゃんとイチャイチャやってんだよ!うらやまけしからん!」
「にゃ?このおっさんだれにゃ?」
俺とミーアはまだ密着状態を解消していない。そしてミーアは、あれだけ世話になったロンのことをもう忘れていた。
「そうじゃそうじゃ!とっとと離れんかい、童貞のくせにぃ!」
ちょっとじじぃ!みんなの前で童貞とかやめろよぉぉ!!
「(え。獣王様、童貞モノなんだ!僕のど真ん中ドストライクじゃん!)」
「(うそ!チェリー割でめっちゃお得だし!営業しちゃおうかな)」
「(……そうよね!レオ様は魔法使いになるまで童貞ですものね!)」
「(私が、役目を果たさねば!)」
「(ドウテイ?それ、うまいのかにゃ?)」
なんか女性陣がニヤついてたり、決意を新たにしてたり、ハテナになってたり。
ぜったい心の中で、みんなバカにしてるんだろぉ!!
「い、いや!童貞なのは俺だけじゃないし!な、
説明しよう。『チェリーの集い』とは、俺と
それ以上でもそれ以下でもない。
「え?お前、これだけ女いて、まだ童貞なのか?」
え?え?なにその言いぐさ。嘘だろ、
お前まさか……。
「わりぃな。俺はこっちきてもう卒業しちまった」
「この、うらぎりものがぁぁぁぁぁ!!!」
いや、俺も済ませようとしたんだよ。でもほら、タイミングとか、いろいろあるじゃん?うん。俺ばっかそんな、襲うとか、ダメじゃん?
「童貞はすぐ言い訳するのぉ。そんなもんは勢いじゃて」
くっそ!!!なんかすっごい敗北感なんですけどおぉぉぉ!!
心読むんじゃねぇぇぇぇぇ!!!
「はは。なんか楽しそうだな。お、新しい女がいるな!よく見たらその恰好……誘ってるんじゃないのー!!どう?あそこの陰でイッパツ……」
「……いやぁ、見ないでぇ。死にたいのぉ」
今まで気にしてなかったのに、急に大事なところを恥ずかしそうに隠しだすシュナの姿に、ちょっと興奮する俺。かわいい。
でも、死にたくはない。
「浮気すんじゃねーにゃぁぁぁぁ!!!」
「ほげぇぇぇぇ!!!」
「ほげぇぇぇぇ!!!」
「シャアアアア……ぐぼあ!」
派手に投げ飛ばされ、ロンと枢機卿と牧師を巻き込んでくんずほぐれつになる俺。
すっごい痛いし、すっごいうれしくない。そして臭い。ひどい。
「レオ!!」
また大聖堂入口から俺の名前を叫びながら、こちらに向かって駆け寄ってくる新しい人物の声がしたので、絡まる蟲の脚をかき分け、痛みに耐えながら視線をやる。
そこには、意外な人物の姿があった。
「え?バルゴス兄さん!なんで?」
久しぶりに会った気がしてとても懐かしい気持ちになったのだが、バルゴスは違ったらしい。明らかに顔が強張り、そしてなぜかとても焦っている。
息も上がり、額の汗もすごい量を掻いていて、かなり長い距離を走ってきたのではないかと勘繰らずにはいられなかった。
「はぁはぁ。大変なことに、なった!」
呼吸が整わないまま、蟲の間からよろよろと立ち上がる俺の肩をガシッと掴み、バルゴスはとんでもないことを口走るのだった。
「パトリア城が、陥落した」
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