辺境伯の悪役令息に転生した俺。ゲーム知識はイマイチなので、神様にもらった『ザ・ビースト…』のスキルで主人公パーティを返り討ちにしてやります！

第36話 能力転移、覚醒の刻

「なにちょっと泣いてんだよ、有希人（ゆきと）。お前はほんと、涙もろいよな」

　俺を抱きかかえるリゼ、もとい逸人（はやと）がそう言いながら、俺を地上に降り立たせてくれる。

　意識が朦朧としていてわからなかったが、彼が俺の窮地を救ってくれたことは間違いないだろう。

　ちなみに涙目になっていたのは腹パン喰らったからだ！

　べ、べつに、会えてうれしかったわけじゃ、ないんだからね！

「グランは……どうなったんだ？」

「ああ。全力で斬りつけてやったんだがな。守護領域展開されて、真っ二つにはできなかったぜ。まぁ、剣圧で吹っ飛ばしてやったがな」

　逸人（はやと）が指差した先に、グランはいた。側方の壁に激突したのだろう。壁面にはひびが入り、グランはそこにもたれかかるようにして立っていた。

　致命傷ではないだろうが、ダメージは負っているように見える。

「いってぇ、なぁ！邪魔するんじゃあないよ！蝙蝠野郎がよぉ！」

　剣撃がヒットしたであろう脇腹を押さえながら、グランが吠えた。

　うっすらと逸人（はやと）が言っていたことを思い出す。

　俺がグランに締め上げられていた時、逸人（はやと）は”相変わらず”と言っていた。この二人は面識があるのだろう。

「まさかファミーユの街で【蟲化の法】を放つとはな！チンカス☆ウンコ野郎のくせにやるじゃないか！」

　逸人（はやと）がグランに言い放った言葉で、あの男がこの街の人たちを蟲に変えた張本人であると悟ることができた。

　本当に、逸人（はやと）はなんでも知っている。契約主とやらに色々教えてもらっているのだろうか。

　……俺のソレに当たるじじい（神）は、核心的なことはほぼ教えてくれないけどね。

「いやいや、お前こそ。まさかここにたどり着けるとは思ってもみなかったよ」

　痛めた脇腹の回復をしながら、グランは逸人を認めるようなセリフを吐いた。

　そうだ。ヤツは賢者だから、回復も自前でできる。ほんとにやっかいなヤツだ。

「（有希人（ゆきと）。俺がヤツを引きつけている隙にあの犬を連れて、仲間と一緒にこの場を去れ）」

　俺にだけ聞こえる小声で話す逸人（はやと）。

　てか犬も連れてって……そんな重要なことも知っているのか、逸人（はやと）は。ちょっと鳥肌立っちゃったよ。

　ん？この場を去れというのはどういう……

「（ヤツはこのメンツじゃ倒せない。俺が囮になるから、逃げろ）」

「（え？でも逸人（はやと）は……。それに、枢機卿と牧師が蟲化……！）」

　ヤバい！状況観測を怠った！

　俺は急いで中央祭壇に視線を集中させる。クソ！まずはそっちをなんとかしなきゃだろ！

　俺のバ……カ？？

「もう！わたくしのお気に入りの服が台無しですわ！ここにある美術品全部売っぱらって、慰謝料含めてしっかり請求させていただきますからね！」

　一瞬目を疑った。

　切り裂かれた部分の肌が盛大に露出した、色っぽい姿をしたアマネが、動かない蟲二匹に法外請求の予告をしている。傷は……塞がっている。

「おーよしよしよし。僕はバター犬モノも案外好きだよー」

「えーチチュちゃん、ホント趣味わるいよね！動物モノとか絶対無理なんだけど！」

「わん」

　獣人化対象の中型犬の首や頭を撫でながら、目を覚ましたチチュと翼が傷ついたキララがまたトンデモ性癖の晒し合いを行っている。

「はあああああ！！フンっ！！」

　バキィィィィ！！

「レオ様、ミーア殿の救出、完了しましたぞぉ！」

　クマオがケロっとした様子でいとも簡単に棺を破壊し、優しくミーアを抱きかかえてくれていた！

　みんな！すごい！

　でも、この短時間でどうやってあの苦境から今の状況まで持っていけてるのかは理解に苦しむけど。まぁ、結果オーライだ！

　キィィィィィン！！！

「困るなぁ、リゼ・シュナイダー。ソイツにはまだ用事があるんだけどなぁ」

「有希人（ゆきと）、走れぇぇぇ！！！」

　両の手に光の曲剣を発生させ、襲い掛かるグランの攻撃を魔剣で受け止め、逸人（はやと）は俺を軽く仲間たちのほうへと蹴り飛ばした。

　体制を崩すが立て直し、走る！

　走りながら、犬のステータス確認も行う！

　戦いの舞台は、再び切って落とされたのだ！

　ステータス、カモォン！！

　ピコン

　名　前：シュナ

　種　族：獣族

　攻撃力：D

　守備力：D　

　素早さ：D

　知　力：D

　体　力：Ｄ

　ゴムは痛いから嫌いなんです。

　スキル：『愛するよりも愛されたいガチで』

　ああ、もう！下から二番目ツッコミたいけど無視だぁぁぁ！！！

　でも、スキルも意味わかんねぇぇよぉぉぉ！！！

「レオ様！ご無事ですか！？」

　すぐに仲間たちのもとへはやって来れた。

　クマオがミーアをお姫様抱っこしながら、俺の身を案じてくれる。

「クマオ！俺は大丈夫だ！それよりミーアは……」

「ゆっくりお休みされています。問題ありませんぞ！」

　ああ。幸せそうに眠ってるだけだ。息をしている。

　なんだか久しぶりに顔をしっかり見た気がする。ホッとした気持ちと、やっぱり黙っているとかわいいやつだなって、改めて思った。

「手を、握ってあげてはいかがですか？」

「ああ！」

　クマオの勧めに乗り、俺はブラリと垂れるミーアの手をギュッと握ってあげた。

　……あったかい。この温もりは絶対に忘れてはならない。

「わんわんおぉぉぉーーーん！！！」

　ピトッ

　え？犬、なんで急に……。なんかミーアの手を握った、そのさらに上からわんわんの肉球の感触が……！！！

　パアアアァァァァァ

　はいいいい？？？？

「おいおい。一体なんだってんだ……！」

　つばぜり合いを続けるグランが、こちらの様子に驚嘆している。

　光に包まれるわんわんがみるみる人の形へと姿を変えていくのだ。無理もない。

「ここで変わるか！まぁ、問題ねぇか！」

　グランの隙を見過ごさない逸人（はやと）が連撃で一気に攻撃を仕掛ける！

　激しい剣と魔法の攻防戦が始まり、場の空気が一気に戦場のそれへと変わっていった！

「……初めまして、我が王よ。わたしは、シュナ。媒介者として役目を果たす者です」

　光が晴れ、全体像が明らかになるシュナ。

　黒のボブカットで目元が前髪で完全に隠れていて、瞳の形や色はわからない。薄い唇と、凄く小顔であることはわかるが、背丈が俺と同じくらいで少しバランスが悪く感じる。

　胸は……俺の童貞的直観だとＣ。ピッタリ全身黒タイツ（ブラなし）で現れたため、突起物の守護者がいない。すべての形がはっきりと視認でき、俺の股間には毒だった。

【媒介者シュナの顕現を確認。接触者ミーアのスキル『獣王様の溺愛』を『獣王様への溺愛』へ書換。スキルのベクトル変更により、能力転移を開始します】

　うずく股間をちがう想像で押さえつけていたら、久しぶりに聞いた機械音が俺の脳内に流れ込む。ただ、いままで聞いたことがあった定型的な言葉とは違い、意味を理解するのが難しかった。

　バイカイシャ？ケンゲン？カキカエ？ベクトル？？

　なんのこっちゃ……！！

「わああ！獣王様が光ってるー！」

「え？獣王様もアイドルだったんですかぁ！？」

「あら。なんだかスゴイ波動ですわね！わたくし、感じちゃいますわ！」

　レディー3人衆の声を認識しながら、俺は自身の右手を通して爆発的に流れ込む魔力の激流を感じ取ることができた。発信源は当然、

「むにゃむにゃ……レオ様、大好きにゃぁ」

　ああ。今度こそ本当に。その時を迎えてしまったのかもしれない。

　俺の細胞という細胞が歓喜している。あふれる魔力の奔流が俺の脳内アドレナリンを、まるでほとばしる熱いパトスのように、滾（たぎ）らせている。

「ありがとう、シュナ。ありがとう、ミーア。今度こそ俺、やるよ」

「ぐあああああああ！」

　ミーアの能力転移が完了したと同時に、逸人（はやと）が俺の足元へ吹っ飛ばされてくる。深い傷が、激しい戦闘で劣勢になっている状況を物語っている。

　でも、もう大丈夫だ。逸人（はやと）、俺も一緒に戦うよ！

　今度こそ！！

「瞬間全回復（パーフェクトヒール）」

　俺の回復魔法で、逸人（はやと）の傷は戦い前の状態まで完全に復元された。

　魔法の使い方も問題なさそうだ。おそらく俺の知識にある全魔法の使用が可能な状態に、今はある！

　これなら、いける！！

「ようやくスタートラインに立てたようだな！有希人（ゆきと）！！」

「俺の力じゃないけどな！まあ今大事なのは結果だ！あのチ●ンカスクソボケオタンコナス野郎に目にもの見せてやろうぜ！逸人（はやと）！！」