第33話 獣王の逆鱗
「クマオ!この絶望的状況を打開する一条の光となれぇぇ!!」
「うおおおお!!なれますともぉーーー!!!」
クマオがスキルを発動し、ヒートアップする。相変わらずとても汎用性の高い能力で助かる!
ただ、この後どうする?今俺たちを取り囲んでいる蟲の大集団は全員もと人間だ。何も考えずに倒していくべきか?いや、まだ元の姿に戻れないと決まった訳じゃないし、倒さずに逃げるべきか?考えがまとまらない。どうする!
「レオ様。この蟲たち、警戒していますが襲ってきませんね」
クマオが俺を守りながらいつでも反撃できる体制をとっているが、確かに蟲たちは迫ってこない。威嚇の音を発しているだけで、距離を詰めようとはしていない。
クマオのオーラにびびってるのか?それとも……。
「私のカンですが、この蟲たちはまだ人間の思考が少し残っているような気がいたします。ここはとりあえず、武力行使最小限かつ最短距離で教会まで戻られるべきではないかと考えます!」
同意見だ。とにかく今は、ミーアやほかの仲間たちが心配だ。
「クマオ!また、お願いできるか?」
「ええ。もちろんですとも!よっこらしょっと!」
再びクマオに米俵を担ぐように抱えあげられる俺。
「では!燃えて青春!駆け抜けますぞぉぉぉぉ!!!」
〇●〇●
教会までの距離はそこそこあったが、クマオが直線距離で移動してくれたおかげで、正規の帰り道で戻るより格段に速く教会前まで辿り着くことができた。
……緊急時だから、建造物を軒並みなぎ倒して最短距離を進んできたことは勘弁してほしい。
「レオ様~!大丈夫ですかぁ~!」
空から甘く可愛らしい声が聞こえてくる。上空を見上げると、目が渦巻きになって気絶しているチチュを抱えて浮かぶ、キララの姿があった。
そっか。キララは飛べるんだったね!無事でよかった!
いや、約1名は無事ではなさそうだけど。
「チチュちゃん!起きて!教会まで戻ってきたよ!」
天使は舞い降り、気を失っているネズミ娘を揺らし、気付けをする。
「ハッ!ここは、どこ?僕は、誰??」
チチュがキョロキョロあたりを見渡す。概ねどういった状況だったか想像できるが、早く意識の混濁を解消してほしい。
ここから先は、彼女の力も重要だ。
「もぉ。人が蟲に変わったくらいで大げさなんだからぁ!」
「あ、キララ!そうか、僕は蟲のあまりの気持ち悪さに卒倒して……」
「触手モノとか好きじゃないの?」
「あんなのなにがいいのかわからないよ!」
なんの話をしている。君たちの趣味の話はあとにしてくれないかな。
「とにかく、早く教会に入ろう!」
三角屋根の中央に古びた十字架が備え付けられたその真下。正面入口となっている広い間口の扉から、俺たちは教会内へと足を踏み入れた。
「……だれもいないね」
チチュがキララの後ろに隠れ、縮こまりながらそうつぶやいた。
信徒席が両サイドに設置され、目の前には歴史を感じる主祭壇がある。その横に2階へ上がるための階段があり、そこを昇って進んだ先の客間にミーアたちはいるはずだ。
「いきものの気配がしないよねぇ。ミーアちゃんとキザクラさん、大丈夫かなぁ」
キララの言ったことは的を射ている。
そう。この教会には人どころか蟲の気配すらない。静けさが不気味すぎる。
「走ろう。嫌な予感がする」
俺たちは蟲の強襲に備え警戒態勢をとっていたが、方針を変え、素早く目的の場所まで到達するため、走り出した。
「なぁ!キララ!君の能力って蟲もメロメロにできるんじゃなかったっけ!?」
走りながら、俺は思い出したかのようにキララへ質問を投げた。
蟲と魔物が入り乱れたこの前の大乱戦は、その力がなければ解決できなかったはずだが。
「わたしの
理解しました。それだとこの街に住む人々が基礎となっている蟲には効果はなさそうだ。とても信仰心の厚い人たちの集まりであることは想像できる。
いやそんなことより、そもそもなんでこの街の人たちは蟲になったんだ?
「なんで街の人たちを蟲にしちゃったんだろうね、ドンタコ枢機卿とグランは。それはさすがにわからなかったけど、ひとついい情報を仕入れたよ!」
チチュが俺の心を読んだかのように言った。おそらく首謀者であろう2人の人物名も丁寧に添えて。
「ソラマ大聖堂の犬は、おそらく枢機卿が飼ってる中型の魔犬だよ!溺愛してるって噂だった!」
さすがチチュ!仕事ができる女だ!
「うおおおおおお!!」
バンッ!!
到着してすぐに、ミーアとキザクラがいるであろう部屋の扉を勢いよく開けるクマオさん!
ちょっとは警戒して開けてくださいよ!クマオさん!
「……」
部屋の様子はすぐに把握できた。嫌な予感というのは得てして的中するものだ。
ミーアが寝ていたベッド。隣に備え付けられた簡易な椅子。年季の入った机。飲みかけの薬とコップに入った水。無造作に床に散らばった本。その他いくつかの装飾品。
わずかに開いていた窓から注ぎ込む、爽やかな風でなびく遮光布と、昼でも暗い室内に光源をもたらす太陽の光が、逆にこの場のもの悲しさを演出していた。
人は、誰もいなかった。
「……ねぇ、手紙が置いてあるよ」
ベッドの色と同化していて気づかなかった。たしかに、置いてある。
チチュが回収し、俺に手渡す。
「……」
中身に目を通す俺。そこには至ってシンプルに書き殴られた文字列が並んでいた。
”二人を助けたければ、ソラマ大聖堂までお越しください。早く来たほういいですよ。ミーアさん、苦しそうなので。立場をご理解いただけると助かります。コイケ”
手紙の内容が、俺を奮い立たせる。
「……クマオ」
「はっ!」
「さっきの高速移動、全員抱えていけるか?」
「問題ありません!」
「チチュ」
「は、はい!」
「大聖堂の正確な位置、わかるよね?」
「任せて!」
「キララ」
「なんですか?」
「君は基礎ステータスがかなり高い。クマオと一緒に、敵地で戦ってくれる?」
「獣王様に推してもらえるなら、わたし、がんばっちゃいます!」
おそらく初めてだと思う。レオとしての人生は知らないが、少なくとも葵有希人として、これほどまでに怒りで我を忘れそうになったことはないと思う。
例えられないこの感情はなんなのだろう。大切なものを奪われた憎しみ?自身のふがいなさ?後悔?いや、全部違う気がする。
「目的はソラマ大聖堂の犬を獣人化して仲間にすること……だった。でも今となってはそれは第二目的だ。まずは仲間を救う!……いや、それも違う!」
俺、なに言ってんだ。明らかに本来の目的を見失っている。だが、もはやそんなことはどうでもいいほどに、俺の怒りは沸点を超えていた。
「スットコドッコイ枢機卿!チン〇ス野郎グラン!ホモォコイケ!こいつら全員まとめて、ぶっ殺●!!!!」
大事な部分を隠しきれないほどに、俺は感情コントロールを失っていた。
と同時に、なにか得体の知れないパワーが身体の奥底からあふれ出している感覚を覚える。マグマのようにグツグツと沸き立つスーパーパワー。細胞が喚起し、無双の刻を待ち望んでいるかのようだ
怒りによる覚醒。鉄板パターン。すごく、キている。やれるんじゃないか!俺!
これは、ついに……。
最強が目を覚ます刻が、来てしまったのかもしれない。
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