第30話 俺の力

 翌朝。


 俺たちは日の出直後から、ソラマ大聖堂へ出発するための準備を整え、世話になったロンと数名の冒険者たちに別れの挨拶をするため、焚火の周りに集まっていた。


 昨夜、ソラマ大聖堂の現状について話した後、ミーアが口に大量の食べ物を入れたまま眠りに就こうとしていたので、みんな疲れていたということもあり、用意されていたテントで早めに就寝することにした。


 とてもありがたいことに、ロンと数名の冒険者たちは後片付けや周囲の警護までやってくれた。初対面なのに、すごくいい人たちだった。


「じゃあな、若いの!あっちは大変なことになってると思うが、がんばれよ!」

「はい!ありがとうございます!お世話になりました!」


 原型がわからないほどボコボコの顔をした情報通の底辺冒険者ロンと、俺は最後に握手を交わし、お互いの目的地へそれぞれ向かうこととなった。


 ……一体どこのテントへ忍び込んだんだ。このスケベおじさん。


「ではさっさと参りましょう。レオ様」


 キザクラが行動開始を促すが、明らかに機嫌が悪い。


 ああ。もしかして、警護とかしてくれてたのってそういうこと?


 この大人しい地味目なキザクラなら夜這いいけると思っちゃったからか、おじさん。ご愁傷様。


「ほんと、金貨2枚とかありえないですからね!ファン失格ですよ?」


 キララもプンスカしている。そういえば同じテントで寝てたな。


 一応交渉はしたのかな?んで、断られてうがーってなったところを返り討ちって感じ?


 ……まぁ、どうでもいいが。


「俺の情報料とメシ代は高いんだよおおおお!うわああああああ!」


 スケベおじさんが泣きながら走り去っていってしまった。


 やっぱ下心しかなかったようだ。酔っぱらって情報先出ししちゃったのがよくなかったのかもね。


「ふわぁぁぁ。眠いにゃ~」

「zzzzz……」


 準備が遅れていたミーアとチチュも合流する。てか、チチュは半分まだ寝ている。


「チチュ殿!起きてください!気合、入れちゃいますよ!」


 鼻息荒く、クマオがチチュに覚醒の儀式を施そうとしている。


 いや体格差考えて!そんなことしたら体バキバキになっちゃうよ!


「ま、まあチチュは朝弱いみたいだし!クマオ、おんぶしてあげてよ!」


 本当は俺がしたいところだが、とっとと目的地へ行かなければならないので、泣く泣くクマオに譲る。この男なら安心だし。


「はっ!レオ様のご命令とあらば!」

「ふわぁぁぁ。レオ様、ミーアもおんぶしてぇ~」


 無理。


「レオ様にご無理をさせてはいけませんよ、ミーア様」


 キザクラが制してくれた。チチュでも無理なのに、見た目よりかなり重いミーアはさすがに持てない。


 まぁ、本当はおんぶくらいしてあげたいんだけどね。いや、下心とかじゃなくて。

 

 ……ああ。


 どうして俺の能力は仲間に頼ることしかできないんだろう。彼女たちがいなければ、俺はなにもできない。これまで戦ってきた強敵達を退けることなんて、俺一人では到底できたはずもない。


 そして、これから先はさらに厳しい戦いが続くと思う。でも、俺には直接的に戦う術がない。


 辺境伯の悪役令息などというステータス皆無のモブに転生した俺に、戦闘スキルなんてのは高望みなのかもしれない。今の能力があるだけでも良しとすべきなのだろう。


 ただ本当のところは、俺だって剣や魔法を使いこなして無双したい。困ってる人や仲間、身内を助け、敵をバッタバッタなぎ倒して活躍したい。でも、いまそれを願ったところでどうしようもない。


 俺は、この『ザ・ビースト……』のスキルで仲間を集め、的確な指示を出して突き進んでいかなければならないのだ。


「さあ、行こうか!みんな!」


 こんなしょうもないことを考えていても仕方がない。


 いまは1秒でも早くソラマ大聖堂に到達するために、行動を開始しよう。



〇●〇●



「ちっさいのぉ。童貞」

「うわあああああ!!」


 ソラマ大聖堂へ向かう道すがら、俺は尿意を覚えたので、渓谷の岩陰で用を足すため、大自然に対してマイジュニアをお供えしていた。


 供え物がよかったのだろう。突然じじい(神)が交信してきたので、驚きのあまり、勢いよく発射されていたレーザーのような黄金水は途端に散弾銃へと早変わりし、巻き散らかされたおしっこが手や衣服に飛び散って気分が萎えた。


 なんでここで話しかけてくんねん!くそじじい!


「いや、お主がなかなか一人にならんでの。はよ教えてやらにゃと思って今にしたんじゃ」


 一応気をつかってくれてたんだね。ありがとう。できれば、終わってからにしてしてほしかったな。


 あ、そういえば!行く前にじいさんに確認しなきゃいけないことがあったんだった!あぶねぇ!

 

「グランとかいうアオイユキトの仲間に会う分には大丈夫じゃ。パーティメンバーはギリセーフ」


 主人公パーティのメンバーに会うのはフラグ回収上、大丈夫なのか?


 でも、ギリセーフってのは気になる。


「ギリギリセーフの略じゃよ」


 ちげーよ。ギリギリの中身の話だよ。


「ああ、それな!お主次第ということじゃよ」


 全然説明になってませんけど!

 まあ、フラグ回収に支障ないなら別にいいか。そろそろ仲間たちの所に戻らないと心配されそうだしね。


「だいぶ肝が据わってきたのぉ。いいことじゃ!そんなお主にもう一つ、いいことを教えてやろう」


 おいおい。あんまり教えすぎると都合悪くなっちゃうんじゃないの?大事なことは聞けたからもういいよ。


「まあ聞け、童貞。お主、自分自身の力に疑問持っとるようじゃから言っとくがの、そんなことは決してないから安心せい。『ザ・ビースト』は、最強じゃよ」


 はい?どこが?

 このモブのどこにそんな力があるっていうんですかね?


「そう焦るなて。時がくればわかるわい。それまでは、仲間を頼ってがんばれよ!童貞!」


 ブツン


 交信が切れたみたいだ。

 最強って、最強??うっそだぁ。


「お~い!レオ様ぁ~!おしっこ長すぎにゃ~!ほんとにおしっこだけにゃ?」


 待っていてくれた仲間たちのいる場所から、すごい意味深なミーアの声が聞こえてきた。おしっこだけだよ!ほかになにがあんだよ!教えてそうろう


「あ、いま戻るよー!」


 俺は大きな声でミーアに返事をして、仲間たちのもとへと戻るため、その場を後にした。


 最強という言葉をリフレインし、心中をざわめかせながら。


 ……俺、最強なんだ。やれやれ。

 ……なんだ、最強なんだ。やれやれ。


 …………。


 はやくチーレム無双してぇぇぇよぉぉぉぉ!!!!


 

 






 

 

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