第29話 ソラマ大聖堂の枢機卿

「みなさん、初めまして!『にじいろキャンキャン』のキララです!よろしくね♪」


 時は夕刻。日は沈みかけ、徐々に辺りは夜の準備を始めていた。


「わああ!かっわいー!僕、アイドル系大好きなんだ!」


 銀髪少女チチュがキララを見る目は輝いていた。彼女の趣味領域はおっさんBLからアイドルまでとっても広いようだ。


 ってか、『にじいろキャンキャン』てなに?グループ名?メンバーいるの??


 蟲と魔物の群れをキララがあり得ない方法で撤退させた後、俺、チチュ、キララの3人は仲間と冒険者数名が待機する高台の安全地帯まで戻った。


 幸い、キララは元が鳥で飛行能力は獣人化してもなくならなかったので、少し重かったかもしれないが、無理を言ってこの場所まで俺とミーアを運んでもらった。(有料)


 ミーアは、さすがに魔法を連発しすぎて疲れ果て、スキルの発動状態も解除されていたので、さっきみたいなバフ、高速移動のような手段はとれなかった。


「いやーねぇちゃんたちすげぇな!おじさん、見惚れちまったよ!」


 イッパツ屋スケベおじさんがまた会話に混じってくる。


 ほんと壁ないな、このひと。


「キララちゃん?だっけ?どっから湧いてきたのかわかんないけど、きみ、すんごいかわいいよね。背中の羽コスプレもそそるなぁ。どう?今夜イッパツ……」

「いいですよ♪」

「マジ?おっしゃー!」

「1回15分翼オプション有りで、金貨105枚になります♪」

「……」


 ちなみにそんな相場の性交渉などあるわけない。金貨105枚はやらないと言っているのと同義だ。いや、金持ちならあり得るのか?父活おそるべし。


「ったく、連れねぇなぁ。せっかく大聖堂の裏情報、教えてやろうと思ったのによぉ」


 ぼやくスケベおじさん。いや、あなたいい年して若い子にそんなことばっか言うのは犯罪ですよ!警察呼びますよ!


 ん?大聖堂ってソラマ大聖堂?

 いや、その情報はめっちゃほしいんですけど!


「あら。何故わたくし達がそちらを目指してるってわかったのかしら?この渓谷を抜けた先は分岐になっているはずだから、そちらに行くとは限りませんのに」


 アマネの疑問はもっともだ。確かに、俺は大聖堂を目指してるなんて一言も言ってない。


「いや、さっき若い冒険者の話してた時、大聖堂からうんたらかんたらって言ってたじゃねぇか。それでピンときちまっただけさ。ま、いらないなら別にいいんだぜ」


 あ、言ってた。俺。渓谷の先が分岐ってこと、すっかり忘れてた。


 するどいな、おじさん。


「レオ様ぁ。おなかすいたにゃぁ」


 疲労困憊のミーアがお腹を押さえながらへこたれている。自慢の猫耳もなんだか元気がない。ちょっとしんどそうな気もする。


「お!猫耳魔法娘!いや~あの極大魔法は痺れたよ!ぶっとばされたときにゃどうしてやろうかと思ったが、感動した!」

「にゃあ。このおじさん誰にゃ?」

「……」


 疲れすぎて記憶まで飛んだか。ミーア。


「ま、まあとりあえずだ!ここで会ったのも何かの縁!夜も近づいてるし、猫耳ねぇちゃんもかなり疲れてる様子だ。メシも準備してるし、テントも余ってるから、お前たちもここで一晩止まっていきな!食べながらゆっくり話そう」


 そうだな。ミーアの状態が少し気になる。早く次の目的地を目指したいところだが、ここはおじさんの申し出を素直に受けようと思う。ただ、


「夜這いは禁止ですぞ!冒険者ご一行!」


 クマオが怒りの表情で代わりに言ってくれたので、とりあえず安心した。



〇●〇●



「わっ!このチキン、味付け最高~♪」


 以外に豪華な冒険者メシに舌鼓を打つキララ。食べる姿は案外豪快だ。


 ……共食いじゃね?大丈夫??


「こっちのナマ魚に黒い汁つけて食べるメシもうまいにゃ~!」


 キララと競うようにミーアが刺身っぽいなにかを手掴みで頬張り、歓喜している。


 お腹減ってただけだったんだね。元気ないのが杞憂なら、よかった。


「なにか仕込んでるかと思ったけど、キザクラがチェックしてくれし、安心だね!」


 俺はいい香りの立ち込めるクリーム色のスープにパンを浸しながら、正直に思ったことを言った。


 さすがにあんな態度のスケベおじさんを素直に信用とかできないでしょ。


 結果、なにも仕込んでなかったんだけど。


 ちなみにアマネは途中でいきなりキザクラにチェンジした。スケベおじさん達はビックリしていたが、趣味ですと一言キザクラが言っただけで信用してくれた。


 どうやらコスプレ好き集団と勘違いしている節があったので、それは利用させてもらった。


「飯に仕込むなんざ三流のすることさ。男は黙って……ごほん、本題に移ろうか」


 黄金色の泡立った麦酒を傾けながら、スケベおじさんは話し始めた。


 黙ってなんなんだよ。ほんとに夜這いしないんだろうな。


「ソラマ大聖堂、そこの実質トップで教団の最高顧問であるドンタコ・ストコ・ドコイ枢機卿が魔族なんじゃないかって裏の噂で広がってるよね」


 おじさんが話し始める前に、豆をポリポリ噛み砕きながら、チチュが先制した。


 そういえばソラマ大聖堂ってなんかイベントあったよな。後半のほうで。


 その頃ちょうどストーリー追うのだるくなってた頃で、戦闘までスキップしてたから全然覚えてないけど。


「お、嬢ちゃんよく知ってるねぇ。大したもんだ。だが」


 スケベおじさんの顔が真面目モードに。

 真剣な眼差しだが、かっこよくはない。


「それは本当にただの噂だ。まあ、ヤバい動きを見せてるって点では魔族と相違ないかもしれんがな。火のないところに煙は立たん。裏の噂ってのはそういうところから流れるもんだ」


 含みのある言い方だ。枢機卿からすでに火の手が上がっているということか?


「どういうこと?」


 チチュが疑問を呈す。


「俺が確かな情報筋から得た情報だと、枢機卿はと繋がっているらしい」

「!!」


 ここで出るか、アオイユキト。

 あ、俺のことか。ん?俺なのか??


 たしかアマネが行方不明だと言っていたはずだが……。


「最近多発している蟲の大量発生報告とアオイユキトの冒険者一行が蟲のアジトからアリスト城へ帰還し、行方不明になった直後から、という事実。そして」


 グビッと麦酒を一気に飲み干し、まくし立てるように話を続けるスケベおじさん。


「そんな中で、ソラマ大聖堂だけが襲来している蟲の数が極端に少なく、ある人物が頻繁に出入りを繰り返しているという目撃情報。これらの要素を組み合わせると……」

「ソラマ大聖堂に出入りしている人物とは?」


 一度話を遮り、出入りしている人物の名前を確認する俺。


 アオイユキト一行が関わってるとすれば、主人公パーティの誰かだろう。


 ……誰だ。


「グラン・ビルナード」


 スケベおじさんが間髪入れずに名を明かす。

 

 グラン・ビルナード……間違いない。


 俺の、アオイユキトの主人公パーティに所属している大賢者の名だ。非常にやっかいなことになった。


 あの男はステータスもさることながら、ストーリー上所々で機転を利かせ、度々パーティを救ってきた賢い男だ。


 この流れだと敵になるのは間違いないだろう。そして恐らくこのまま進めばソラマ大聖堂で鉢合わせになる。しじい(神)に一度相談しなければならない。


「な?怪しいだろ?」


 おかわりの原液に近い火酒を注ぎ直し、はにかむスケベおじさん。


 ああ。いい加減スケベおじさんはやめよう。良質な情報とうまい飯を振舞ってくれた相手に対して名を聞かないのは失礼だと思う。


「おじさん……何者なの?」


 名ではなく何者かを問うてしまった。

 まぁ、いいか。スケベだし。


「俺の名前はロン・パトス。情報収集を生業とするしがない底辺冒険者さ」

 


 


 

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