第27話 大乱戦!俺の叫びを聞けぇ!

「あれです!」


 クマオが指差す先には、明らかにほかの魔物とは一線を画す雰囲気を醸す1匹の大きな鳥の姿があった。


 形容するなら、まさにクジャクだ。鮮やかな青緑の羽が太陽の光できらめいてる。その美しい尾は無数の目を持ち、幻想的なダンスを披露しているかのよう。優雅さと誇りを兼ね備えたその姿は、見ているだけで魅了されてしまいそうだった。


「あ、ほんとにゃ!」


 ミーアも追随する。彼らは見ただけでその魔物が仲間かどうか識別できる。


 ただ、スキルの名前や性能までは見抜けないので、俺の出番となる。


 まあ、見ても発動条件はわかんないんだけどね。


「レオ様。先にステータスチェックを」


 アマネに促される前に、俺はすでに心の中でクジャクのステータスを見る呪文を唱え始めていた。


 そう。ステータス・カモォン!!


 ピコン


 NoData


「あれ?って、ああ!!」


 対象は俺が呪文を唱え終える前に飛び立ってしまい、代わりに視界に入ったカマキリみたいな蟲のステータスを間違えて確認してしまっていた。


「……蟲は、ステータス見れないんだ」


 ケガの功名ではないが、ひとつの事実が判明した。蟲の中身をステータスチェックで照会することはできないらしい。これからの戦いにおける不安要素が増えてしまったと実感する。


「うっわ。あのクジャクはやっ!」


 チチュが飛び立ったクジャクが蟲の群れを迎撃する姿を見て少し感嘆している。七色の翼をはためかせ、高速で空中を旋回し、まるで縦横無尽に動くハエたたきのように、クジャクは蟲たちを蹴散らしていた。


「でもあのスピードで飛び回られると……」

「見れそうもありませんな!ステータス!」


 クマオが隣で合いの手を入れてくる。このままじゃとても獣人化なんて無理だ。


 ていうか、そもそもあのクジャクが仲間なのかどうかすらも判定できない。


「なんとかあのクジャクさんに大人しくしてもらうしかありませんわね」


 アマネ、なんかいいアイディアかアイテムある?


 この女はこういう時にとても役に立つ何かを出してくることが度々あったので、期待してしまう。


「ちなみにミーアさんの魔法であのクジャクさんにまとわりつく蟲を一掃できたりしないのでしょうか?」

「遠すぎて無理にゃ」

「近かったら、イケちゃいます?」

「鳥ごとまとめて葬ってやるにゃ!」


 いや、それ本末転倒。


「メスガキちゃん。そろそろあの蟲どもおびき寄せる方法、わかったのかしら?」

「淫乱女のフェロモンでもまき散らかしてやればいいんじゃない?」

「あいにくわたくし、蟲のファンはご遠慮しておりますので♪」


 まだこの二人は軽口を叩く余裕があるみたいだ。


「冗談だよ。多分【音】だ。蟲は自分たち以外が出す音で敵を識別してると思う。自動的なのは、相手が強いとか弱いとか関係なく襲うから。自分達とは違う異音があればそこに向かう。予想だけどね」


 どうなんだろうね。確証はないけど、一理はありそうだ。ただもしそうだとしても、そこからどうすれば……。


「レオ様。これからわたくし達で、あのクジャクさんの動きを一瞬止めて見せますので、その隙にステータス確認して、ちゃっちゃと仲間にしちゃってくださいね♪」


 え?なんかいい作戦思いついたの?


「それでは皆様、お耳を拝借」


 ふむふむ。え、ほんとそれ、大丈夫?

 上手くいく未来が全く見えないんですけど。


「じゃ早速。クマオさん。少し、前の方にお願いしますわ」

「おう!この辺でよいか?」


 クマオが俺たちと少し距離を取るため、全体がより見渡せる安全地帯の端のほうまで歩みを進める。


「ええ。オーケーですわ。では、わたくしの秘密のアイテム」


 なにやら服の中をもぞもぞ探り出すアマネ。


「じゃじゃーん!防音障壁装置ぃ~。これがあれば、こちらは大丈夫ですわ♪」


 こいつなんでも出してくるな。どら〇もんか。


「それじゃ、レオ様。クマオさんに激励を」


 ええい、ままよ!もう信じてやるしかない!


「この難局を乗り切るため!今!お前の力が必要だ!クマオ!!」


 こんなんで大丈夫?


「うおおおおおおお!!!きました、きましたぞぉぉぉ!!!」


 あ、いけた。この男のスキルは使いやすいので好き。


 などと考えていると、クマオは大きく息を吸い込み始める。


 吸い込み、吸い込み、吸い込み……。

 張り裂けんばかりの空気を腹いっぱいにため込む!そして


「ぐがああああああああああああああああああ」


 渓谷全体に獣の咆哮が轟き、空気が震え、地面まで揺らし始めた!俺たちはアマネの防音障壁で音自体はほぼシャットアウトできたが、この激しいクマオシャウトの威圧感に腰が抜けそうになった。


 どうなった?おおおお!

 なんか、蟲も魔物も全員時間が止まったように動かなくなっている!


 あっ!クジャクも動きを止めている!チャンス!


 ステータス、カモォォォン!!


 ピコン


 名 前:キララ

 種 族:獣族

 攻撃力:A   

 守備力:C    

 素早さ:A   

 知 力:D    

 体 力:C 

 父 活:円 

 スキル:『獣王様の推しになりたくて』


 ビンゴ!このクジャクで間違いなかった!


 スキルは……お、推し、だと?アイドル系?Ⅴチューバ―??

 そしてついに漢字まで出てきた。


 ……パパ活て。


「ねぇぇぇぇ!!ちょっとぉぉぉぉ!!!」


 チチュがうろたえ始める。どうした?

 とりあえず作戦の第一段階としてはうまくいって……。


 あれ。なんか様子がおかしい。

 

 全体を改めて見てみる。止まった羽蟲やサイズの小さな蟲の群れは地に落ち、小動物系の魔物は軒並みひっくり返っている。これはうまくいった。だが


「なあおい!なんか、あの蟲の奴ら、怒ってさらにデカくなってないか?」


 スケベのおっさん冒険者が突然発言する。


 そう。サイズの大きな魔物達は明らかにこちらに敵意の眼差しを向け、巨大な蟲たちは眼を真っ赤に腫れあがらせ、さらに巨大化し一団を形成しつつあったのだ。標的は当然……


「あれ?蟲さんだけおびき寄せてミーアさんにサクッと倒してもらおうと思ってたのですけど。ちょっと、間違えちゃいましたかね♪」


 おいいいいいい!!!アマネぇぇぇぇ!!


 どうすんのぉぉぉぉ!!魔物もでっかい蟲も全軍突撃体制なんだけどぉぉぉぉ!!!


「これはヤバいにゃ!!レオ様!!」


 なに!?いま、ちょっと錯乱してんだけ……!!!


 ぶっちゅぅぅぅぅぅぅ!!


 デジャブ、再び。


「はああああああああ!!!!みなぎる!みなぎるにゃー!!」


 みなぎるのは大変結構なことだが、あとで皆に言い訳するのがとってもめんどくさいと、大変なピンチもさることながら、考えずにはいられなかった。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る