第二章 冒険編

第23話 旅路の途中で

―パトリシアの森 魔力の泉 野営キャンプ地―


 パチパチ……パチッ


 木々の音と蟲の声がしずかに聞こえる夜の森。焚火を中心とした野営のキャンプ地は、その暖かさと光で安堵の空間を演出していた。


 火の粉が空へと舞い上がり、星々と一緒に夜空を彩る様子を1人ただ静かに眺める俺、レオ・ローレンハインツ(もとい葵有希人あおいゆきと)は物思いにふけっていた。


「……ぐがぁ~ごっほぉ」

「……」


 静寂はすぐに引き裂かれた。物思いにふける時間はとても短かった。


 隣で静かに眠っていたクマオが急にいびきをかきだしたことが原因だ。ただ、それで気分を害したかというと、そうでもない。


 彼は俺たちがパトリア城を出発後、カスパラ渓谷を目指して経由地であるこの魔力の泉付近のキャンプ地を訪れるまでの間、ほぼ1人ですべての仕事をこなしていたからだ。


 荷物持ち、先導、警戒、戦闘、そして夜の警護。


 旅をともにするレディー3人衆(ミーア、チチュ、キザクラ)は特に何もせず、ただ喧々諤々としながらついてきていただけだった。そして今はテントで仲良く眠っている。


 ちなみにアマネは出発する頃にはキザクラに戻っていたが、その状態でもついてくることに異論はなかったようなので、連れてきた。


「それにしても……」


 仲間たちとの度重なる話し合いの結果、男衆は警護を兼ねて外で寝ろということになった。


 なんでも俺の取り合いになったら収集がつかなくなるというのが理由らしい。なのでテントの外に今いるのは俺とクマオの二人。焚火を囲み一緒の空間で過ごしていた。


 主を外へ締め出すとかマジひどいよ、あの女たち。


 ただ、クマオにはすこし疲れている様子が伺えたこともあり、俺は彼の体力を考え、少し眠るよう提言した。


 ほんと、俺ってイイやつ。


 固辞されたが、命令だということでなんとか言うことを聞かせた。いくら体力があっても、大事なところで戦えなくなられても困るしね。


「……ここにくるまで、なんか不思議なことが続いたな」


 蟲の声に消え入りそうなほど小さな発声でそうつぶやいた俺は、物思いにはふけれなかったので、この野営キャンプ地に来るまでの間で体験したことを思い出していた。


 とりわけ一番に感じた違和感は、この魔力の泉がある場所まで来るルート上に、魔物が1匹もいなかったことだ。


 前回泉の水を汲みに来た時から少ないとは思っていたが、今回は全く同じ道を辿っているにも関わらず、エンカウントは0。


 ゲームでは、このパトリシアの森には魔物がうじゃうじゃいて、とても面倒だった記憶があるため、これは明らかに設定から逸脱した状況にあるいうことが推察できる。


 そしてもう1つ。魔物がいない代わりに異常なほど数が増えていた存在があった。


 蟲だ。


 クマオの戦闘はすべて相手が蟲。蟲と言ってもサイズがあり得ないくらい大きく、中には犬や猫と同等サイズのハチや蛾に似た生物などもおり、対応には非常に苦労していた。


 1匹あたりの戦闘力は大した事なかったが、その数がありえないくらい多かったので、連戦に次ぐ連戦状態となり、蟲が平気なクマオでも1人で相手するのはさすがに骨が折れただろう。


 ……レディーたちは、戦闘には参加しなかった。理由は簡単。彼女たちは蟲が大嫌いだったからだ。ミーアが簡易な蟲除けの結界を張り、その中からクマオを応援していただけだ。


 まぁ、俺も蟲超大嫌いで、結界の中にいたんで文句は言えないが。


 その時の環境があったことで、彼女たちは幾分か共感しあって結束力がちょっとだけ上がり、今仲良く3人で床をともにできているというわけだ。


「まだ魔物のほうがマシだよな。ってか、なんでこんなことになってんだ?」


 状況に疑問符を打つ俺。


 ああそういえば。世界が俺を殺しに来てるってじじい言ってたな。俺のスーパー大嫌いな蟲を刺客として差し向けてくるとは。


 世界め、やりおる。


「「世界め、やりおる」by童貞」


 明らかにバカにした加減で俺の脳内セリフを交信でリピートする神。


 またいじりにきやがったな、くそじじい。


「リゼとかいうクソガキとワシらは無関係じゃぞい。あんな奴知らん」


 唐突に聞こうとしていた本題を切り出してくるクソ神。


 知らないだと?ほんとにアンタ神かよ。どこから転生してきたヤツかくらいわかるだろ?


「知らん。あれはただのイレギュラーでバグみたいなもんじゃ」


 そういうのも含めて管理・運営するのが神なんじゃないの?


 全知全能じゃないの?


「んなわけあるかい。全知全能とか、そんなやつおるわけなかろう」


 自信満々で役に立たないじいさんが開き直る。


 じゃあ神って、一体……


「そんなことより、じゃ。蟲、すごかったじゃろ?」


 そんなことっていうほど些末な問題じゃないんだけど……。


 知らんっていうなら仕方ない。


 まあ蟲の件も気になっていたところだし、話を聞こうじゃないか。


「あれのう。全部このゲーム世界のウィルスじゃから。これから大変じゃぞ」


 ウィルスって……。コンピュータウィルスってことなのか?


「そうじゃ。ほっといたら世界そのものが消滅して、現実世界まで広がるよん」


 よん、じゃねぇよ。さらっと超やばいこと言ってんじゃねぇよ!

 

「なんじゃて、お主の力が必要なんじゃ。とにかく、早く仲間を集めてアオイユキトを倒せ。それで万事解決するはずじゃから」


 簡単に言うなよ。これからそこに到達するまでに相手しなきゃいけない敵が魔物、魔族+蟲になるってことだろ?


 吐き気してきた。それに主人公パーティ倒す新フラグとかそもそもあったか?


「5つのフラグ全回収したら出てくる隠れフラグだったんじゃよ。まあ隠しておく必要性もなかったでの。今言っとくわ。めんどいし」


 コノヤロウ。

 あの時言えよ。なんで今なんだよ。他にないんだろうな?


「ない。ちなみに蟲は別に無視してもいいぞい。目的を果たせば問題ないからの」


 いや、あれだけ膨大にいて襲われるんだから無視はできないでしょ。


 ……慣れる、しかないか。レディー達にも耐性つける訓練をさせよう。


「あー……大事なことじゃて、もう一度言うぞい。ムシはムシして……」


 だるいしやめろじじい!!

 おやじギャグ禁止!!


 

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