第22話 アオイユキト
「……」
エロ様の問いにしばし考え込むリゼ。
場は沈黙し、次の言葉を待っている。
「……目的は単純だ。俺がこの世界で生き残るため。それ以外にない」
やはり俺の推論は正しかった。
リゼも俺と同じ、破滅フラグ回避が目的の転生者だ。
「生き残りたいのでしたら、もう少し大人しくされてはいかがかしら?」
アマネが至極真っ当なことを問う。
違うんだ。大人しくしてたら死ぬしかないんだよ、アマネ。
「正論だが、少々事情があってな。そこの愚息なら、わかってるんじゃないか?」
リゼの視線が俺に向けられる。その表情は誘発的で、不思議な笑顔だ。
バカ!こっちに話振るなよな!
って、コイツ。俺の正体知ってやがるな。前に戦った時は知らなかったはずだが。
そういえば、なんか空に向かってしゃべってたな。アレ、もしかして神的なやつと交信してたんじゃないだろうか?そいつに教えてもらったんだ、きっと。間違いない。ていうか、じいさん(神)、お前なのか?だとしたら後でシバく!
「どういうことかしら?」
エロ様が訝しみながら、こちらを見る。仲間たちの視線も集まる。
ほら!こうなるでしょ!
さて、どう回答すべきか……。
「わけわかんない事言ってんじゃねぇよ!わかるわけないだろ!蝙蝠野郎!」
一応ごまかしてみる。付け焼刃かもしれないが、俺の正体を今暴かれるのはいろいろよろしくない。ってじいさん(神)が言ってた。
ん?言ってたかな?
「はっはっはっ!まあお互い立場あるからな!」
ケラケラ高笑いをするリゼ。
その言い方は含みしかないだろ!絶対後で色々詰められる。やれやれ。
「まあいずれにせよ。この地の因果にもう用はねぇから、帰るわ」
伏線だけバラまいて帰るんじゃねぇよ。もうちょっと説明していけよ。
てか、お前マジで中身誰なんだよ。俺の知り合いなのか?
「じゃあな!また会おうぜ!ローレンハインツの愚息……いや」
嫌な予感がする。やめて。
「アオイユキト」
本名バレ、いやぁぁぁぁぁぁぁ!!!!
〇●〇●
「アマネ、お願い」
「
エロ様の指示で、父を回復するアマネ。七色の淡い光が父の鼻を癒す。
彼女の能力的にこんな高位な回復魔法使えるのが解せない。
隠された能力?秘密の多い女だ。
「すまない。血が止まらなかったのでどうしたものかと……」
「フロイト!」
ガバッとエロ様が父に抱き着き、激しい抱擁を見せつけられる。
ヒェッ。
「よかった。本当に……無事でよかった」
おお。泣いてるよ、エロ様。
「にゃ~。なんか泣けるにゃ~」
「レオ様のお父上様!私、感無量です!!」
「僕、おっさんもののBL好きだから感動しちゃうよ!」
「愛のカタチは人それぞれ、ですわね!」
愛すべき仲間たちが一様に、この光景を見て感動している。
あれ、俺だけ?ヘンな目で見てるの。俺だけなの?俺がおかしいの?
チチュの趣味……まあいいか。
アオイユキトの件はだれも聞いてこないので、こちらから何か話すことはなかった。このままスーッと流れてくれるとありがたい。
リゼが去ったあとの城内。
敵を容易に侵入させた兵士達が慌ただしく、城内を駆け回り事後処理に追われていた。破壊された父の自室の壁、手入れされた花々が激しく踏み荒らされた外庭園、その他城内の至る所で侵入者との戦闘でできた穴や傷。負傷した兵士。
ミーアがチチュを捕まえようとしていた時以上の被害を出したパトリア城。その修復や整備にはまあまあな時間を要しそうだ。
そんな喧騒に包まれる城内をよそに、俺たちは父であるフロイト・ローレンハインツの元へ戻っていた。
「レオよ」
抱擁中の父が真剣なまなざしで俺を見る。
ちょっと離れてくれるかな、エロ。気になって仕方ない。
「さっきの話の続きだが……」
「あ、その件はもう大丈夫です。解決しましたから」
「?」
「詳しいことは貴方のカレシに聞いてください」
少し突き放すような言い方になってしまったかな。
まあ実際俺が説明するよりエロ様のほうがいいだろ。いろんな意味で。
あ、そうだ。フラグ回収しとかなきゃ。エロ様に魔族が人間を敵視する理由、聞いてなかった。これで新フラグ、5つのうち3つ回収だ。幸先いいぞ、俺!
「エロンティーカ7世さん。魔族は何故、人を敵視するのでしょう?」
敬語でよかったか?まあいいか。
「いきなりなによ。気持ち悪い」
気持ち悪いのはお前の……。
すいません。偏見でした。
「教えてもらえませんか?」
真剣に聞く姿勢を見せているつもりだが、答えてくれるかな?
「いまさらそんなこと聞かなくても、わかってるでしょ」
いや、知りません。
「アナタたち人間が、魔王様の溺愛令嬢、殺したからに決まってるじゃない」
へ?
「まあもともといざこざはあったけど。引き金はそれでしょ」
畳みかけるエロ様。ちょっと信じられないが、もしそうだとすると、悪いのは人間側のほうなのか?いや、鵜呑みにするなよ、俺。
「でも安心して。魔王様は絶対に人間許さないと思うけど、アタシは違うから。だって……」
父を見つめるエロ様。
ラブラブやめーい。
「もう魔物化とかおかしなことしないから」
おかしな展開と事実に脳みそが溶けそうだが、エロ様と父の表情は晴れ晴れとしている。なんかよくわかんないけど、一旦ゲームで当初設定されていた破滅フラグは忘れてもよさそうだな。
「ネズミ粘着女!おまえ、絶対レオ様の半径10m以内にはいるにゃよ!」
「さっき耳打ちするとき入っちゃったけど、あれノーカウントでいいの?」
「にゃ?あ~……貴様、耳舐めしおったな!殺す!」
「舐めてないし!変態か!ネコ!」
「まあまあ、2人とも。せっかく人間になれたのですから、仲良くしましょう」
「アンタは黙ってて!淫乱〇〇〇〇女!」
「メスガキちゃん。マジ殺しますわよ」
「酒が飲みたいぞーーーー!!!(byクマオ)」
俺の愛しき仲間たちが熱い討論会を始めていた。にぎやかしくて結構なことだが、話の内容は下世話以外のなにものでもないので、放置することにした。この会話に入ると死亡フラグがたちそうだ。
「そういえば」
エロ様がうるさい会話の中で、新たな話題を提供しようとしている。
やめて。あの件は流して。
「アオイユキトって、今話題の冒険者パーティのリーダーの名前よね?」
だめだった。
ってこのゲーム、俺のセーブデータなのぉぉぉぉ!!!
「そうみたいだね。僕の調べによると、表向き各国を魔族や魔物から救って周って名声上げてるようだけど、裏だといい噂聞かないよ……って痛!何すんのよ!ネコ!」
「レオ様としゃべんにゃー!!」
途中で話に入ってきたチチュだったが、ミーアとじゃれ合うのに忙しくなっている様子。殺すとか言いながら、案外仲良くやれそうなんじゃないか?
「なんでも蟲のアジトからアリスト城に帰還して、そのあと行方がわからなくなってるそうですわね」
「!!」
アマネの情報に驚嘆する俺。
いや、いまさらこのパトリア城に来るルートが変わっても驚くことじゃないかもしれないが、行方がわからなくなっているというのが怖い。
「アオイユキト……リゼはアナタを見てそう言ったわ」
エロ様が俺を見て怪しむ。
そう、俺の本名は
そして、今俺が倒さなければならない相手もアオイユキト。この相手をなんとかしなければ、俺に未来はない。
「今は、詳細は話せないんだ。ただ……」
じじい(神)に確認してからだ。中途半端に話しておかしなことになっても困る。
「必ず説明はする。信じて待ってほしい。そして……」
少し声高に決意表明をすることにした。
「勝手かもしれないが、今は俺の頼みを聞いてほしいんだ。父上!」
「旅に、出るのだな」
「よいのですか?」
「事情はわからんが、話の流れからして、おそらくお前の運命に関わることなのだろう。なら、行くしかないだろう。ただし、必ず生きて戻ってくること。それが条件だ。よいな」
察したのか、父は。さすが長く領地を治めているだけの器量はあるみたいで、少しおどろいた。
「ありがとうございます!父上!」
「おまえには信頼できる仲間たち……」
「死ねーーー!!!!」
ミーアちゃん。黙ろうか。
「……もとい、力強い賑やかな仲間たちが一緒だ。なんとかなるだろう」
父がいいこと言ってんのにうるさすぎて入ってこない。
いいかげんちょっとムカついてきた!
「おいいいい!!!ちょっと黙って!!!」
結構大きめの声で場を制す俺。
「今日はこれから旅の支度を整えて、明朝パトリア城を出発!東のカスパラ渓谷を目指す!わかったらとっとと準備にかかって!ミーア、クマオ、チチュ、アマネ!」
「え?わたくしも行くのですか?」
アマネがキョトンとしている。一緒に行くとは思ってなかったようだ。
この女は秘密だらけだが、かなりの手練れ感がある。連れて行って損はないはずだ。それに、特能『プロファイリング』とか絶対役に立つでしょ!
「当たり前だ。一緒に来い」
「いやん、来いだなんて。キュンってなっちゃいますわ」
「レオ様のバカにゃぁぁぁぁ!!!」
バチコーーーン!!
「ぎゃあああああ!!!」
ってな感じで、俺たちは仲間を求めて新たな旅路へ出ることになった。
正直、この先なにが待っているかはわからないけど、なにもせずただボケっとしてても運命は変わらない。
この悪役の定めから逃れるために、俺は仲間たちを信じて突き進んでいこうと思う。
たとえ、その先に地獄しか待っていないのだとしても。
————————————————————
【●あとがき●】
第一章、お付き合いいただき本当にありがとうございました!
次話より第二章、開幕いたします。
騒がしい連中ばかりでお見苦しい点も多々あるかと思いますが、どうか温かい目で今後も見守っていただけますと幸いです。
よろしくお願いいたします!
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