第21話 リゼの正体
「おーい!レオ様~!」
リゼが吹っ飛んでいった方向とは逆の方角から、ミーアが駆け寄ってくる。
「大丈夫かにゃ?ケガはないかにゃ?」
あちこちペタペタ触りながら、俺の身体に傷がないかチェックしてくる。
わ!そこ!触んなって!(恥)
「俺は大丈夫だ!それよりも……」
エロンティーカ7世が瀕死だ。血を失いすぎている。
もうかなり限界に近いだろう。うつぶせに倒れ、意識がなさそうだ。
「ミーア。エロンティーカ7世、助けられる?」
「レオ様の愛が足らないにゃいから無理にゃ!この、浮気者ぉ!」
ペタペタ触っていたのが、ポカポカ叩くほうに変わる。
そういえば、まだ解決してなかった。ネコVSネズミ問題。
「ご無事ですか!レオ様!」
リゼに再三クリーンヒットをかますクマオも寄ってきた。
酒は……どうやら抜けているようだ。スッキリした顔をしている。
「無様な姿をお見せして申し訳ございませんでした!この非礼……末代までの恥と心得て……」
「あ、そういうのいいから。そんなことより、エロンティーカを……」
長そうなので途中で話を折る俺。
まだ、窮地を脱したわけではないのであとにしてほしい。
「このおじさんの傷。魔剣の呪いがかかった傷だから、普通のヒールじゃ回復できないよ。たぶん、アマネだったら治せると思うけど……」
エロンティーカ7世の傷を診る銀髪の少女。アマネなら治せる?どうやって……
って、チチュ!いつの間に!?
ミーアの前に姿現して大丈夫なの??
「ネズミ娘ぇぇぇぇぇぇ!!!」
あ、大丈夫じゃなさそうだ。
「いまそんなこと言ってる場合じゃないでしょ!大人になりなさいよ!ネコ娘!」
「ムキーーーー!!ムカつくにゃーーー!」
俺から離れ、チチュに対して戦闘態勢をとるミーア。チチュは大人だ。
敵間違えてるよ、ミーア!
リゼがまだ逆襲してこないのが救いだ。
「獣王様!キザクラを呼んで……あ、こっち向かってきてるみたいだね!それなら」
キザクラが走って俺たちのもとに近付いていることを確認し、スススススっと無音の移動で俺の耳元まで来て顔を寄せるチチュ。
こそばゆさとともに、キザクラに関するとある秘密情報がもたらされる。
「!!」
パアアアアアアアア
俺たちに駆け寄ってくる途中で、キザクラはアマネにチェンジした!
「あら。あのネズミ女もなかなかやりますわ、ね!」
アマネに変わったことで駆け足が一足飛びに変わる!一気にエロンティーカの傍らまで飛んだ!
「エロ様。ひどくやられちゃいましたわね」
「アマ、ネね……。アナタに借り、あんまり作りたくないんだけどね」
「お高いですわよ。この借りは」
エロ様って略すんだ。今度からそれにしようかな……。
などと思っていると、
「
アマネの魔法で七色に変色するエロンティーカ7世の右腕の傷口がみるみるふさがっていく。
ちなみに
「再生はご自身でお願いしますわね、エロ様♪」
「サービス悪いわね。ついでに全部治しなさいよ」
「血も足しておいたんですから。充分サービスしましたですわよ♪」
軽妙なやり取りで、命の危機を脱したエロ様。
身体を起こし、クマオに吹っ飛ばされたリゼに視線を向ける。
「また油断?なぜ、いまの隙にフロイト狙わないのかしら?」
素朴な疑問を投げかけるエロ様。俺も同じことを思っていた。
リゼは仰向けになり、大の字でさっきからずっと倒れたまんまだ。
いや、雲一つない快晴の空を、ただぼーっと眺めているだけのように見えた。
ダメージなど入っていないことは、前戦の経験から明らかだ。
普通ならすぐに逆襲してくるか、超スピードで城内へ再突入して父を殺すことも容易だったはず。
いつもの慢心なのか、どうなのだろう。
「世界は汚ねぇってのに、空は相変わらず綺麗だなって思ってな」
大の字のまま、センチメンタルな事を言うリゼ。
その見た目で詩人なの?
「アナタの目的はなんなの?」
エロ様が問う。
「俺が出す条件をクリアできるなら、答えてやってもいいぞ」
リゼが身軽に「よっ」といった感じで立ち上がり、エロ様に再び対峙する。
ほんとかよ。そんな簡単に目的なんて教えないだろ。
「辺境伯様にも言ったが、そもそもアンタが薬渡さなきゃ問題のないことだ」
「薬?」
「とぼけんなよ。もうできてんだろ?人を魔物化させる薬」
どこまで知っているのだろう、この男は。
前から少し、そのきらいがあると思っていたが。
いよいよ核心に近づいている予感がしてざわつく俺。
「ああ、その件ね。安心して。もう諦めたから」
「はあ?」
「魔力の泉の水が成分変わっちゃっててね。作れなかったのよ、その薬」
なにぃぃぃぃ!!!そうなのぉぉ!!!!
え、嘘だよね?騙そうとしてるんだよね?
「あの水はあそこでしか汲めないの。調べればすぐにわかるわ」
ため息交じりのエロ様。諦めている様子に嘘はないように感じる。
え?マジなの?
「まあ一応確認はさせてもらうが。嘘言ってるようには聞こえねぇな」
リゼの態度はやれやれといった感じだ。信用したのだろう。
「魔物化は諦めるわ。さ、これであなたの言う条件はクリアされたはずよ。質問に答えてもらえると助かるわ」
体力も戻りつつあるようで、エロ様の声色にも力が戻る。
質問とは、リゼの目的についてだ。
ただ、俺にはなんとなく想像がついていた。これまでの言動、態度、思考など。2度相まみえたが、こう考えると色々辻褄が合うような気がする。
俺自身がこんな状況なのだから、1人だけじゃないと推察しても不思議ではない。
リゼ・シュナイダー公爵令息。
そう、彼はおそらく転生者。
そしてその目的は、自身の破滅フラグを回避するため、世界を奔走しているのだと思わずにはいられなかった。
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