第19話 エロンティーカ7世の秘密

 漆黒に染まった新たな魔剣の切っ先は、父の鼻先にピタっと標準を定められ、リゼによってその命が天秤にかけられていた。


「単刀直入に言う。人を魔物化するとかバカなマネはやめろ」


 リゼが想像もできないセリフを父に投げかけ、俺は戸惑った。


 なぜ彼がこの計画を止める提言をするのか。理解に苦しむ。


「……」


 リゼを黙ったまま睨みつける父。その眼光に迷いは感じられない。


 ちょっと、マジで殺されるって!父!


「フロイト様!ご無事ですか!」


 次々と護衛兵が父の自室に集まり始める。だが、彼らはすぐに状況を察知し父の部屋の前で立ち往生となる。普通に見れば完全に人質状態だからだ。


「あーギャラリー集まってきたな。まあ関係ねーけど」


 相変わらず、慢心しかないリゼ。


 それもそのはず。この男の実力からすれば、ここにいる全員秒で殺される。


 人質とかそんなの関係ねぇ!


「で、どうなんだ?フロイトさんよぉ」


 魔剣の先端が父の鼻先に食い込み始め、血の滲みが見て取れる。


 嘘でもやめるって言えよ!マジで死ぬぞ!


「……罪深いものだな、人は」

「あ?」

「私の計画に変更はない。シュナイダー家の愚息風情が。止められると思うなよ」


 そんなところで片意地張るなよ!なんでだよ!計画より命のほうが大事だろ!


「死にてぇってことで、いいんだな」


 父の顔面を貫くのにそれほどの力はいらない。ただスッと、魔剣に推進力を足すだけだ。


 俺は、ただ見ていることしかできない。父が殺される。


 いや、別にいいのか。これで俺が冒険者パーティに薬を撒こうとしてやられるフラグは完全に折れる。リゼがなぜ計画を止めようとするのかはわからないが、結果的には自身の命が伸びる状況を作れることになる。


 これでいいんだ。これで……


 ってそんなの、納得できるわけねぇだろが!


「やめろ!蝙蝠クソ野郎!」


 俺はリゼに向かってとびきりのデカい声で動きを止めてやった!


 クソとかつけて煽る俺も、案外死にたがりなのかもしれない。


「お前に用はねぇって言ってんだろが。死にてぇのか」


 父に切っ先を向けたまま、こちらを一瞥するリゼ。


 相変わらずギョロっと粘着質な凝視。

 背筋がビクつき、おしっこ洩れそうになる。


「死にたくない!父上も死なせない!!」


 なに言ってんだ俺?ちょっと頭おかしくなってる!


 っていうか、仲間いない状況でどうするってんだよ俺!!


「相変わらずふざけた野郎……」

「ねぇ、リゼ。アナタ、何やってるのかしら?」

「!!」


 え?なんかいきなりオネエ風な細いおっさんがリゼの隣に突然現れて、魔剣掴んでるんですけど。誰……


 あー知ってる。


 エロンティーカ7世だああああああ!!!


「邪魔すんじゃねぇよ。今はてめぇと遊んでる暇ねぇんだよ」


 ん?知り合いなの?


「何やってんのかって、聞いてんのよぉぉぉ!!!」


 そこからのエロンティーカ7世の動きは常軌を逸していた。


 父に刺さっていた剣先を瞬間的に引き抜くと、そのままの勢いでまで投げ飛ばしたのだ。当然、飛来の際に障壁となった壁などはパラパラと崩れ落ち、その投げ技の威力を物語っていた。


「大丈夫!?フロイト!鼻が……」

「ああ、すまない。助かった。かすり傷だ、問題ない」

「ホント、無茶しないでよね……貴方になにかあったらアタシ……」

「無茶もするさ。これは私たちの……」

「いまはやめましょう。あの狼藉物を排除するから。貴方は見てて」

「ああ。ありがとう」


 えっと。あれ?なんか、この雰囲気なに?

 え?ええ?えええええええええええ!!!

 いや!見なかったことにしよう!!

 ダメーーーーー!!!!(超絶錯乱中)


「じゃあ、イクわよぉ!」


 エロンティーカ7世の背中から隠していた黒き翼が姿を現す。


 角が生え、牙が伸び、見るからに魔族の姿に変貌する。


 完全に戦闘モードだ!


「レオちゃん!アナタも一緒に来なさい!」


 レオ殿って言ってなかったっけ?レオちゃんになってる。


 まあそんな細かいことはどうでもいいか!


 敵としてはものすごくやっかいな相手だったが、味方だと心強い!


「ああ!行こう!」


 いや、雰囲気に騙されてるよ、俺。「行こう!」じゃねぇよ。


 まあ母はいない設定だったような気もするから、別にいいんだけど。


 って言ってもさぁ。そう簡単には割り切れんでしょ。



 だってこの2人……。



 付き合ってるんだろぉぉぉぉぉ!!!!!(超絶混乱中)

 

 

 


 



 


 



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