第18話 再来……とか勘弁して下さい。

「どうした?レオ。そんな神妙な顔しおって」


―パトリア城 父の自室―


 俺はじじい(神)に屈辱的な懇願を強制され、今後について明確にどう行動すべきかを教えてもらった。


 しばらくヤツの顔は見たくない。


「ちょっと、聞きたいことがあって」


 父の自室を訪れるのは、俺がレオに転生してから初めてのことだった。


 若干緊張する。


 何故いま俺はここに来ているのか?


 その理由は、神が俺に具体的な新フラグを提示したからだ。内容は次の5つ。


・フロイト・ローレンハインツに市井の人々を魔物化する理由を聞くこと。


・エロンティーカ7世に魔族が人間を敵視する理由を聞くこと。


・リゼ・シュナイダー公爵令息にもう一度会うこと。


・主人公パーティの動向を探り、仲間が揃うまで絶対に対敵しないこと。


・獣人化できる魔物はあと3体。順にカスパラ渓谷の怪鳥、ソラマ大聖堂の犬、そして蟲のアジトに隠れているイタチを一刻も早く仲間にすること。


 因果関係は不明だが、この条件を満たすことで俺の破滅フラグはかなりの弱体化が期待できるらしい。


 ただ、はっきりと消滅するわけではないとのことで、あとは運命に任せるしかないと言われた。


 時間がないと焦らせるので、俺は神との交信を終えてすぐに父に個人的な謁見を申し込み、受理された。


 ほんと、早く言えよって感じだ。


 仲間たちの動向(特にチチュとミーア)も気になるが、破滅回避は最優先事項なので、今はそちらを優先している。


「父上。あなたはどうして、城下で暮らす人々を魔物に変えようとされているのですか?」

「その話か」


 やはりあまり話したくない内容なのか。父の表情は険しい。


「クマオから聞きました。父上は、この辺境地のすべてを心から愛していると。そんなあなたが、なぜなのですか?」


 敬語は慣れないな。

 空気も重いし。こういうのは本当に苦手だ。


「……」


 無言になる父。何か物思いにふけるように考え込んでいる。


 設定では、帝国が支配する世界の方針に納得できず、エロンティーカ7世にその思いを利用されて事を起こす。


 まあ実行犯は俺なんだが。


 帝国と相容れないこととは、一体なんなのだろう。


「魔物を獣人化できるお前になら、わかるのではないか?やることは同じだ」


 父の言葉にハッとする。言われて気づく。

 

 そうだ。俺が今やっていることは、魔物を人に変えること。人を魔物に変えるのと何が違うのか。


 この逆説は正直、俺には答えられない。


「帝国は魔王を倒すため、冒険者ギルドなるものを作り、その存在が悪であるとして煽り、戦わせようとしている。それは本当に正義なのか?」


 いや、だってほっといたら襲って来るじゃん。あいつら。


 世界を征服しようとしている設定だったよね?倒さなきゃ、やられちゃうじゃん。


 そもそもディストピアみたいなこの世界を、創生していくってのが大前提のゲームなのに、そこを否定したらそもそも成り立たなくないか?


「お前はこう考えているだろう。やらなきゃやられるだろう、と。だがそもそも、という話だ」


 少し話に熱を帯びてくる父。クマオともこの話をしているのだろうか。


 酔っぱらって忘れていてくれてよかったと思う。


 おそらくこれがエロンティーカ7世の洗脳だ。ゲームをやってたときもよく言っていた。思考の深い位置で考えさせ、行動理由に疑問を植え付ける。あれ、なんでこいつと闘わないといけないんだっけ、と思わされたことが多々あったことを思い出した。


「人も動物も魔族も魔物も、根源的には同じだと私は思っている。そして、常に共生を図る第一歩は歩み寄り。人が魔物になれば、彼らの思いもわかるだろう。多少手荒なマネをする自覚はある。だが、だれかがその役目を担わなければ人と魔の者達は絶対に相容れることはない。私が市井の皆を魔物にする理由はそれだ」

 

 相手を理解するために相手になっちゃうって短絡的すぎないか?


 市井の人々に選択権はないんだよね?

 しかも自分は魔物にならないんでしょ?


 それはただの傲慢な考え方の押し付け。

 帝国となにも変わらない。


「でも、それって!」


 俺が少し反論を言おうとしたその時だった。


「フロイト様!」


 兵士の1人が焦った表情で父の部屋に駆け込んでくる。


「どうした?騒々しい」

「侵入者です!」

「侵入者だと!?衛兵たちはなにをしていた!」


 一気に状況が慌ただしくなる。


 場内は侵入者を捉えるため、大変なことになっているという報告も同時に受けた。


 まさか!主人公パーティもうきちゃったの?やべぇじゃん!


 まだ会っちゃだめなんだよな?しかも今、仲間誰もいないし!バルゴスも遠征中だ!


 どうすんの、これ!!


「がっ!」


 扉の前に立っていた兵士が、背後からの一撃でその場に突っ伏してしまう。


 その背後から闇のように現れる1つの黒い影。その風貌は、蝙蝠のようだった。


「よお、愚息。また会ったな」

「!!」


 リゼ・シュナイダー公爵令息!侵入者はこいつか!また出やがったな!このヤロウ!


 ……いや二度と会いたくないって言ったじゃん。


 死ぬって、絶対。


「だが残念。今日はお前に用はない。話があるのはフロイト・ローレンハインツ卿。あんたの方だ」



 




 

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