第17話 今後の方針と対策②

「ぐがああああ……すぴー……」

「……」


 話の途中だったのに。クマオは倒れこむようにその場で眠りについてしまった。


 この状態のまま寝られるのは非常に危険なので、顔だけ横に向け、何かが出てきてもいいようにだけしてあげた。後で顔の下になにか敷いておこう。


「では、わたしはこれで」


 朝のひと仕事を終え、俺の部屋を後にしようとするキザクラ。


 何事もなさ過ぎて逆に怖かったので、


「あ、キザクラ。あの、えっと」


 と呼び止めてみる。


 ただ、何を話せばいいのかわからない。


 チチュのこと?アマネのこと?それとも……。


「キザクラは、俺のこと……」


 好き、なんだよね?だってひとりで……(恥)


 いや、これって聞いちゃいけないのか?

 童貞だしよくわからん。


「べっ!」

「べっ?」

「べつにアンタのことなんて、ぜんっぜん!好きじゃないんだからね!!いやああああああ!!!」


 ドンガラガッシャン!ダダダダダダダ


 なんかその辺りにあるいろんなものをなぎ倒しながら、紅潮する顔を押さえてその場から一目散に逃げて行ったキザクラ。


 久しぶりに聞いた。ツンデレのやつ。

 女心は難しい。


「なんにゃ?あれ」

「な、なんでもないよ!それよりさ!」


 変に突っ込まれたくなかったので、急に話を変えようとする俺。余計なこと聞いちゃったな、いろんな意味で。


 彼女のあの件は、極力黙っていよう。


「独房、どうだった?」

「もう最悪だったにゃ!暑いし狭いし臭いしゴハン不味いし壁固いし魔法使えにゃいし兵士不細工にゃし……」


 絶対脱獄しようとしただろ。

 しかも兵士不細工はただの悪口だ。


「もう二度と、あんなとこ入りたくないにゃ!」

「じゃあ城では絶対大人しくしていること!いいね!」

「わかってるにゃあ」


 しおらしくなるミーア。さすがに少しは反省してくれただろう。


 てか、次ないからマジで。


「わかったならいい……」

「獣王様ー!あの家、食べ物とか全然ないんだけどー……」


 ん?キザクラが開けっ放しにしていった扉から、一人のちびっこが俺の部屋に文句を言いながら入ってくる。


 声と呼び方で、昨日ひと悶着あったチチュだとすぐにわかったが、同時に非常にまずいことになる予感を覚える。


「あ」

「にゃ」

「あはは……どうもー……」

「てめーの血は何色にゃあああああああああ!!!!!」


 なにその怒り方ぁぁぁぁ!!アンタのその知識はどこからきてんのー!!


 って、ツッコんでる場合じゃない!


「チュー!!」


 恐ろしく速い切り返しで逃走を図るチチュ。


 チューってまだ言うんだ。


「待たんか!ストーカー粘着小娘がぁぁぁ!ゴルァァァァァ!!」


 恐ろしく速い加速で追跡を開始するミーア。


 そう、それはまさに天敵同士のデッドオアアライブ。


 ネコとネズミの宿命だろう。


 まずいことになった自覚はあるが、すでに目の届かない場所まで行ってしまった二人。追いかけても無駄だろう。


 俺はただ、チチュの無事と城を追い出されないことを願うしかなかった。



〇●〇●



「楽しそうじゃの、童貞」


 いきなり脳内に話しかけてくる神。

 童貞言うな。マウントとってんか?じいさん。


「あまりたくさんの女の子に手を出すとロクなことないぞい」


 アンタが用意したんだろが。経験者?

 ていうか、手出してないし。……未遂はあったけど。


「まあ、それはさておき。お主に言っておかにゃならんことがあるんじゃ。この間言いそびれたでな」


 神が珍しく改まっている。


 聞いておかなければならないことは、ゴマンとある。


 全部教えろください。


「気づいておるかもしれんがの。このゲーム世界、すでに変わってしもとる」


 神妙な神。いつものテンションではない。


 ん?なんのことだろう。

 そりゃ獣人化とかしてるから、そんな設定はそもそもなかったし、変わってるのは仕方ないだろう。


 あ、もしかして。実は破滅フラグ、もうなくなっちゃったとか?


 なにやってもダメなのかと思ったけど!やったじゃん!


「バカじゃのう、お主。あれだけ命狙われて、おかしいと思わんだか?」


 あーたしかに。結構死にかけたよな、俺。

 なんとなく助かってここまで来たけど、ちゃんと考えるとよく命あったよな。


「やれやれ。お主、このまま進めば主人公パーティとやり合う前に確実に死ぬぞい。前も言ったがの、お主に死なれるとわしとても面倒なんじゃわ」


 前も気になったが、面倒ってなんだよ。


「運命の歯車というやつは気まぐれなんじゃよ。まあ、細かく説明はせんがの。とにかくじゃ!」


 脳内に直接流れ込んでくる神の声が少し大きくなる。


「お主の破滅フラグは今!超ド級にビンッビンに勃ちまくっておる!わしの〇〇〇みたいに!」


 はいはいそうですね。


 ……って、え?なんだって?


「わしの〇〇〇みたいに!」


 そこじゃねぇよ。


「うおっほん!つまりじゃ!このゲーム世界の設定そのものが、お主という存在を消しにかかっとるということじゃ!」


 設定が?消しに?どういうこと?


「本来の破滅フラグなど、もうどうでもよいということじゃ。なりふり構わず、世界がお主をギッタンギッタンにしようとしておる」


 え?なんでそんなことになってんの?

 え?


「少し油断しとった。敵は思いのほかやりおる。スキルの配賦だけでなんとかなると思とったが、甘かった。もう少し介入しないと無理っぽいのじゃ。本来禁忌なのじゃがのぉ……」


 敵?配賦?介入?禁忌?

 何言ってんのじいさん。ああ、もう。頭パニックだ。


 てかそういうの


 早く言えよぉぉぉぉぉぉぉ!!!


「女神たんは介入反対派なんじゃて。色々変わるからの。じゃが、そうも言っておれん」


 神と女神。関係値が想像できない。どっちが偉いんだ?いや、今はそんなことより神の話を真面目に聞こう。


「賢明じゃ。では、今後の方針と対策について話すじゃて、耳の穴かっぽじって「おお、偉大で巨根なる最高神よ!この罪深き短小童貞ボーイを導き給え!」と崇め奉りながら土下座して拝聴するように!」


 このじいさんに破滅フラグを立てるには、一体どうしたらいいんだろうか?






 

 

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