第16話 今後の方針と対策①

「にゃあああ!レオ様ぁ!会いたかったにゃー!!」

 

 翌朝

 パトリア城 自室内にて


 兵士二人に連れられて、ミーアが独房から帰ってきた。


 会った瞬間抱きつかれ、一瞬よろけてしまう。ミーアって、結構重……げほん、げほん。


「レオ様……おはよう……ございます。うぷ」


 ちょうど同じころ、クマオも俺の部屋に戻ってきた。


 どうやら彼は、あれから一晩中父と飲み明かしていたようで、顔色が明らかに悪い。


 例えるなら、緑。緑熊。飲みすぎなのは一目瞭然だった。



 あのあと



 獣人化したネズミ、チチュにこれからどうするのか尋ねたところ、今後俺の役に立ちたいとの申し出があり、同じ場所にいるより毎日会いに来たほうが能力的によい、ということで、一旦俺の元を去っていった。


 城で他の部屋を用意させる提案もしたが、拒否された。


 落ち着かないので、できれば市井の中で暮らしたいとのことだそうだ。城下の古い空家を1つ手配させ、そちらに住んでもらうことになった。


 彼女のスキルは蓄積タイプのため、発動した特能『諜報』は継続して使用できるらしい。


 どうせ城下に住むなら、ということで彼女には早速、市井の情報収集をお願いし、毎日報告に来るという約束を取り交わした。


 彼女は快くオッケーしてくれたので、非常に心強いと思った。


「レオ様、おはようございます。朝食をお持ちいたしました」


 いつもと変わらぬ調子で、朝の仕事をこなすキザクラが普通に現れた。


「あ、ああ。ありがとう」


 昨日のことがあるので、少し緊張する俺。キザクラはいつもと同じだ。


 配膳用ワゴンで運ばれた3食分の美味しそうな料理を無言で机の上に並べている。


 彼女のもう一人の人格、アマネは「秘密を暴いて♪」と挑発した後、霞のように急にいなくなった。


 隠れたり、化けたり、分析したり。本当に掴みどころのない女だった。


「結局、あのネズミはどうにゃったのかにゃ?」


 ミーアが俺に抱き着いたまま、真面目に働くキザクラを見てそうつぶやいた。


 そうだった。彼女は経緯をなにも知らないんだ。


「さあ。どうなったのでしょうね」


 手を止めず、ミーアを見ることもなく無表情で答えるキザクラ。


 彼女はアマネのことを何も知らない。とはいえ、ネズミが銀髪ロリッ子娘に獣人化したところは見ていたはず。


 彼女の思考は読めない。今、何を考えているのだろう……。

 

「もう探すの飽きたにゃ!そろそろバトルしたいにゃ!」

 

 アンタ暴れてただけですけどね。

 バトルは外でしようね。


「うぷ。レオ、様。お水を……」


 クマオがアセドアルデヒドで苦しんでいる。


 おいおい。ここでぶちまけるのだけは勘弁してくれよ。


「ああそうだ、クマオ」


 机の上に並べられていたコップの水をクマオに渡しながら、俺はふと、ある考えが浮かんでいた。


「父と話して、なにか印象に残った話とかなかった?」


 せっかくだ。覚えているかはわからないが、あれだけ語り合ったんだ。なにか俺の運命を変える、有益な情報を引き出せているかもしれない。


 父は俺の破滅フラグを発生させる重要人物。些細な事でも、今後の方針に役立てるなにかを聞いている可能性がある。


「うぷ。あー……正直、細かい話の内容はなにも覚えておりません」


 飲みすぎだ!バカヤロー――!!

 役たたずぅーーー!


「ただ……」

「ただ?」

「あのお方はこの辺境の地を心の底から愛しておられると思います。それはご家族、ご友人、城下に住む市井の人々、周辺一帯の自然とそこに住む動物、魔物まで含めてすべてを、です」



 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る