第15話 通い愛 VS 隠れ愛
「あ、バレちゃった」
キザクラを覆っていた光が拡散し、彼女の姿を視認できるようになった。
基本的な見た目は変わっていない。ただ、結っていた髪留めが取れ、長い黒髪が流れ落ち、なびいている。
特徴的な変化は薄黄色の少し大きめの尖った耳が生えていたこと。あの耳のカタチは……
「化けると言えばキツネ、ですわ。レオ様」
すこし心を読まれた感覚を覚える。気のせいか?
見た目の変化はあまりないが、雰囲気と、話し方が変わっている気もする。
「アンタ、人間じゃないの?」
ネズミ娘が率直な疑問を投げかける。
そう、キザクラについてはこれまで見てきた獣人化の条件と異なることが多い。
俺のスキルが影響する魔物達は、誰がその対象者かを見分けることができる。
ミーアもクマオも気づいていた素振りはなかった。隠されていたのか、そもそも見てもわからない相手もいるということなのか……。
「フフ、レオ様。ステータス、ご覧になられてはいかが?」
キザクラが挑戦的な笑みを浮かべ、俺に対してステータスの開示を要求をした。
なにを考えているかまったく見えないが、気になるので言われた通りにしてみることにした。
まずはネズミ娘のほうから。(ステータスカモン略)
名 前:チチュ
種 族:獣族
攻撃力:E
守備力:E
素早さ:A
知 力:C
体 力:D
粘 着:N(TR)
スキル:『通い愛、ザ・ビースト』
得 能:『諜報』 ※スキル発動中
あれ、なんかミーアやクマオと違うな。得能ってなんだ?
基礎ステータスに上昇が見られない。こんなパターンもあるんだ。
N(TR)されちゃうの?やだー(喜)
いや、いかん。いかんぞ、俺。
それはさすがにNGだ。
……続けてキザクラを見てみる。
名 前:アマネ
種 族:獣族
攻撃力:E
守備力:E
素早さ:D
知 力:A
体 力:E
趣 味:G
スキル:『隠れ愛、ザ・ビースト』
得 能:『プロファイリング』
名前からすでに違う。種族も獣族。人ではなかった。
チチュと同じようなステータス構造だ。やはりそれもひとつの型なのだろう。ただ、※スキル発動中の表示ががない。基本性能なのか?
……趣味Gはやめてあげて。さすがに。
「キザクラはコードネーム、ですわ」
ニッコリ微笑むキザクラ……じゃなかったアマネ。そんなサラッとコードネームとか言っちゃっていいのか?確実に任務的ななんかなんだろ?俺を見張るためにエロンティーカの野郎が見張りにつけた、とか。
「ご推察のとおりかと。さすがはレオ様」
やっぱ見透かされてる?プロファイリングだもんな。
元々俺は見張られてたってことなのか。
……エロンティーカ7世。やはり食えない男だ。
「なに澄ましちゃってんのよ!この淫乱G女が!」
チチュちゃん、子供がそんなこと言っちゃダメ!
「コソコソ獣王様に近づいて……何が目的なのよ!」
アニメで影響されすぎた子供みたいなセリフを発するチチュ。
ビシッと指先をアマネに突き付け、格好つけている姿が可愛らしいが、頭にくっついているGホイホイがすごい気になる。
「あら、男は少し淫らなくらいのほうが好みなものよ。ね、レオ様」
さっき秘密バラされて叫んでた時とえらい違いだな。別人みたいだ。
アマネと名乗る彼女は、色っぽさと艶やかさが桁違いに増して、誘うような視線で俺を見てくる。
フェロモンすげー。
「誘惑すんじゃないわよ!!獣王様は僕のものなんだから!!」
「通うだけが愛じゃないですわよ。ただひたすら隠れた思いを貫くのも一つの愛なのよ」
なんか大人の恋愛哲学を語るアマネと独占欲の強いチチュの視線がぶつかりあっている。
この二人は絶対に仲良くなれないな。
「はい、ストォォォップ!!」
両者を制するように二人を止める俺。ちょっと一旦落ち着こうか。
「お互いに、聞きたいことが山ほどある!まずはチチュ!」
「はいっ!僕、なんでも答えます!」
元気がよくてよろしい!
うーん、なにから聞こうか……。
「白髪白髭のじいさんに最近会ってない?」
「ええっと。会いました。少し前に。僕のこと、すっごいいやらしい目でみてました」
あのエロじじいはホンマ……
「スキルのこと、じいさんなんか言ってなかった?」
「ええっと。僕もよくわかってないんだけど。なんか僕の能力は獣王様に何回も会いに来ることで『貯められる』タイプのスキルだって言ってた」
「具体的には?」
「うーん。細かいことは教えてくれなかったよ。ただ、僕が得意なのは情報収集や索敵?なんだって。わかんないけど」
いまいち掴めないが、特能『諜報』っていうくらいだから、スパイ適性がありそうだよな。今後の戦略的な意味合いで、すごく重要な役割を果たしてくれそうな気がする。
「ありがとう。そしたら、さ……」
「?」
「俺に会いに来てくれてたのは、その能力を『貯める』ためだったの?それとも」
「僕は獣王様が大好きです!能力とか関係ないです!」
こう目を直視してストレートに言われると、相手が子供でもドキっとしてしまう。
「あ、ああ。すまない。愚問だった」
「小娘への質問は終わったかしら?」
暇そうなアマネが口をはさんでくる。
彼女には、チチュより聞きたいことが数多くある。ただ、エロンティーカの息がかかっている相手だ。例え答えてくれたとしても、それが真実である保証はないだろう。
質問は最小限にしておこう。
「賢明ですわ、レオ様。2つだけ、お答えしましょう」
しゃべってないのに答えてくるこの感じが、神とのやり取りを思い出させる。
「キザクラとアマネは別人格ですわ。そして、わたくしは彼女の事を全て把握しておりますが、彼女はわたくしの事をなに一つ知りません。そのあたり、ご理解ください」
「2つ目は?」
「わたくしは決して、貴方の敵ではありません」
「根拠は?」
「愛、ゆえに」
とびきり怪しいやつ。絶対信じられない。でも、キザクラが別人格でアマネを知らないなら、今後もメイドとして働いてもらうことになるだろう。言ってる事が本当なら。
どちらにせよ、目の届かないところで活動されるほうがよっぽど怖い。彼女には、より俺の傍で仕事をしてもらおうと思う。
「ああそれと、これはオマケですけど」
「?」
「わたくしの能力を『貯める』コツは、わたくしの秘密を1つでも多く暴くこと。レオ様の愛で、わたくしのこと、裸にしてみせてくださいね♪」
キツネ女の魅惑のウィンクは、疑念を抱く俺の脳裏とは裏腹に、下半身に確かなざわめきを生み出すだけの力を、秘めていた。
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