第14話 ハーレムの予感
「なんでにゃ!イヤにゃイヤにゃ!」
その日の夕刻。
パトリア城玉座の間にて。
ミーアが兵士4人に取り押さえられ、涙目になっている。
「朝食の盗み食い、城内至る所で器物損壊、従者への傷害ほか、わかっているだけで10の余罪がある」
辺境伯である父が、城内様々な人間からの証言の書いてある報告書を読み上げ、渋い顔をしている。
ミーアが今日行ったネズミ捕獲大作戦遂行時に犯した罪の数々。
本来であれば、単純に算出してもかなりの期間牢にぶち込まれる計算になる。
「いくらエロンティーカ7世殿から頼まれた客人とはいえ、さすがに目に余る」
父がため息をつきながら、どうしたものかという表情になっている。
「父上!自分の監督不行き届きが原因です!罰なら俺が受けます!」
嫌だけど。
完全に招き入れてるのは俺なんでね。責任は俺にある。
「レオ様のお父上様!私がお目付け役の任を与えられながら、その責務を全うできなかったことに原因があります!罰なら私が……」
クマオが片膝をつき、首を垂れながら自罰を進言する。
まあ、確かに全く管理できてなかったね。
やはり素早さと知力のステータスでクマオはミーアより劣っていた点が問題だったのかもしれない。
ていうか、人選できるほど仲間いないんだけど。
「そうにゃ!クマオが悪いにゃ!牢屋に入ってろにゃ!」
涙目で身動きの取れないミーアが責任転嫁する。
その場にいた全員が思っただろう。「いや、アンタのせいやがな」
「……わかった。では次の通り取り計らうこととする。異論は認めん」
父の審判が下る。ゴクリ。
「1.レオは今後二度とこのようなことを起こさないと誓うこと。2度目はない。2.ミーア殿は1日独房入り。しっかり反省すること。レオ同様次はない。3.クマオは今日これから私と酒を酌み交わし、先ほどの談議の続きを行うこと。以上3つの条件を贖罪とし、本件は不問とする!」
あまーーーい!そんなんでいいのか!やった!助かったぁ!
ってクマオの条件は完全に自分のしたい事リストじゃねぇかよ。
「では、これにて解散!ミーア殿は連れていけ」
「いやにゃーー!!1人はこわいにゃーー!!レオ様ぁーー!!」
兵士達に引きずられ、連れていかれるミーア。
ちょっとかわいそうだけど、この程度で済んだことを喜ぶべきだ。
「クマオ殿はこっちだ。酒の準備は整っておる。さ、行こうか!」
「はっ!お付き合いさせていただきます!」
飲む気マンマンじゃねぇか。
最初からクマオは連れて行く気だったな、これ。
「レオよ。バルゴスから聞いておる。シュナイダー家の公爵令息を退けた一番の功労者がお前だと言うことを。これは、その恩賞との相殺措置だ。理解しておけ」
クマオと肩を組み、首席の場に向かおうとしながら、父は俺にそう言葉を残して去っていった。
結局、この場が穏便に終われたのはバルゴスのおかげか。
つくづく、いい兄貴だと思う。
〇●〇●
「誰かいる!?」
俺が自室に戻ろうとした時、何故か部屋の扉が少しだけ開いていることに気づき、内心少し焦りを感じていた。
バンッ
勢いよく扉を開く俺。
目に飛び込んできた光景に、絶句する。
「この部屋には38の罠を仕掛けた。貴様の行動パターンを掌握し、日中、仮説ルートFに配置を組み替えたことが功を奏したようね」
左手で持ち上げたGホイホイの中身を凝視しながら、右手に持ったナイフでホイホイごと貫く構えをとるキザクラの姿が、そこにはあった。
いつの間にそんなに仕掛けてたのー!!
しかもちょっと何言ってるかわかんないし!!
「ちょーちょちょちょ!何やってんのー!!」
慌ててキザクラの殺傷行為を止めようとする俺。
待って待って待って!仲間殺さないでー!!!
「レオ様。お疲れ様です。なにって、害虫駆除ですよ?」
ニッコリ笑い、いや、目は笑ってない。
眼光の奥にどす黒い殺意が渦巻いている。
「頼む。そのネズミ、渡してくれないか?」
俺はキザクラの情緒を刺激しないよう、最大限の注意を払いながら優しく頼んだ。
チューチュー。チューチュー。
中のネズミがもがいている。
ホイホイの中には粘着性の強い捕獲用のノリがべっとりついている。
一度入ったら二度と出ることは叶わない。無理に足や手を動かそうものならそこから四肢がもげ……っていまそんなこと考えてる場合じゃないぞ、俺!
「いいえ、レオ様。この害虫は私が直々にやらせていただきます。お手は煩わせません」
キザクラが再び殺害予告!これは止められない!
くそっ!しょうがない!
「哀れな小動物。永遠の眠りにつくといいわ!」
ザクッ!
ネズミはホイホイごと貫かれ、その短い命を終わらせる……
なんてできるわけねぇだろ!
「やめろって、言ってんだろ。俺の命令、聞けないのか?」
「レオ様!私、なんて事を……ああああああああ!!」
生々しい鮮血の痕が残ったナイフを地面に落とし、キザクラが後悔する。
いってぇ。肩、結構深く切られちゃったな。
まあ死にはしないだろうけど。血は早く止めないとな。
「ごめんなさい!ごめんなさい!私……」
「俺のことはいいよ。それより」
キザクラから死に物狂いで奪ったホイホイの中を見ながら、俺はネズミに語り掛ける。
チューチュー
「いつも、俺に会いに来てくれてたんだよな。捕まえようとしてごめんな」
ネズミの瞳は、とても愛らしかった。
俺はいままで、こんなにも儚い存在を邪険にしてたのかと思うと少し、涙が出そうになった。
「ごめんな。なんか……。ごめんな」
俺はちょっと感傷的になりながら、ホイホイに捕らえられたネズミの頭を人差し指で撫でた。
次の瞬間
パアアアアアアアア
キタコレ!多分こんな感じだと思ったわ!
コツ掴んじゃったね、俺。
あ、勘違いしないで。ネズミさんに対して思ったことは本当だから。ここ重要ね。
「……おいそこのメイド女ぁ!てめーつまんねぇ仕掛けばっかしやがって!僕の愛を邪魔してんじゃねーぞぉ!」
光の中から、小柄な銀髪僕っ子少女が登場する!
何故か手足についていたホイホイを頭に搭載し、そしてミーア同様の口の悪さで第一声を発していた。
「な、な、な、え?どういうこと?」
キザクラが動揺している。あ、獣人化見るのは初めてか。
見られてよかったのか?まあしょうがないよね、この展開じゃ。
「アタシ知ってんだからね!アンタが夜な夜な獣王様をオカズに……」
ネズミ娘がなにやらケシカラン事を暴露する。
え?なにそれ。どういう……え?
「いやあああああああああ!!やめてえええええええええ!!」
キザクラが絶叫しながら、顔を押さえてしゃがみ込む。俺もなんだか恥ずかしい。
とかなんとか思っていると、また次の瞬間
パアアアアアアアア
キザクラが光に包まれる。
大事な事なのでもう一度言う。
キザクラが光に包まれる。
「え?うそ。アンタもなの……」
ネズミ娘がつぶやいたその言葉は、俺の脳裏に浮かんだ言葉と全く同じだったので、俺があえて口にすることはないかなって思った。
ただ、言わせてほしい。
……なんでえええええええええええ!!!
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