第13話 争奪!ネズミ捕獲大作戦

「いやじゃ」


 翌朝

 パトリア城 自室内 


 俺が眠りから覚める頃。

 すでにミーアとクマオのベッドはもぬけの殻になっていた。


 一人になり、どうにかして彼女たちより先にネズミを見つけるため、ダメ元で神への交信を試みたところ、以外にも返事が返ってきたので、俺は例のネズミがどこにいるかを直接神に聞いてみた。


「なんでだよ!教えろよ!」


 自分以外誰もいない室内で、独り言のように問い詰める俺。


 まあ、予想通りっちゃ予想通りなんだけど。


 このじいさんは基本、具体的なことはほぼなにも教えてくれない。


 ちなみにクマオには、ミーアが寝静まったことを確認した後、彼女の見張りをこっそりお願いしていた。


 アイツは絶対によからぬ事を企んでいる。


 あと、城内を縦横無尽に暴れ回られても非常に困るので、クマオには探索よりも目付役を優先してもらうことにした。


 少なくとも、ミーアよりはキザクラに先に見つけてもらうほうがかなりマシな結果になると思っている。たぶん。


「前にも言うたじゃろ。自分でなんとかせぇ」

「なんで何も教えてくれないんだよ!俺に死なれると困るんじゃないの!?」

「いや……べつに」

「あ、そう」


 死なれて困るならもっと色々フォローしてくるよな、普通。神なんだから。


 聞くまでもなかった。しょぼん。


「ただのぉ。お主に死なれてはめんどくさいってのは、実際あるんじゃ」

「?」

「わしらにも、いろいろあるんじゃて……え?女神たん。ごめん」


 なんか最後のほうに混じった気持ち悪い謝罪のことは無視しよう。


 いろいろありそうだ。


 ……前から思ってたけど、絶対女神様のほうが偉いよね?


「そうじゃ!これまでも!これからも!大事なのは『愛』なんじゃーーー!!!」


 突然どうしちゃったのーー!!意味わっかんねぇぇぇぇ!!!


「さらばじゃ、童貞少年!『愛』ゆえに……ブツン」


 あ、切れた。このじいさんほぼ毎回『愛』しか言ってないよな。


 それがスキルにとって重要な要素なのはもうわかったから、もうちょっとこう具体的な能力とか、スキル保持者の人数とかそういうの聞きたかったんだけどなぁ。



〇●〇●



「きゃああああああ!!」


 城内が騒がしくなっていた。たぶん、ミーアがなんかやらかしているのだろう。


 俺は、おそらくメイドであろう悲鳴が聞こえた方角へと急いで走った!


「どうした!」


 現場へ到着し、現状を確認する俺。


 そこは城の配膳室だった。現在、朝食の準備真っ只中だ。


 配膳用の机の上には、城に住む伯爵家一族の豪華な食事の数々が所狭しと並ぶ。


 朝食を摂っていなかった俺とって、その料理の数々は目に毒だ。


 ああ、腹減ったな。


「腹が減っては戦はできぬにゃ!ここに来るのはわかっている!ネズミめ、出てくるがいいにゃ!……もぐもぐ」


 いや、アンタが食べてどうすんの?


「レオ様!お客様が勝手に……」

「すまん!俺が後で父に謝っておくから!適当に簡単なもので埋め合わせておいて!」


 両手を合わせ、朝食を用意していたメイド達に謝罪し、追加の料理作成を依頼する俺。


 結構ひどいことを言っている自覚はあるが、今はこの状況をなんとかしなければならない。


 ってクマオ、どこ行ったんだよ!


「ミーア!」

「あ、レオ様。おはようにゃ……もぐもぐ」


 食べるのやめい。


「勝手に朝食食べちゃダメでしょ!!」

「この煮込んだ魚もうまいにゃ!今度持ってきてほしいにゃ!……もぐもぐ」


 試食会場じゃないんだよぉぉぉ!!


 ああ、これ絶対後で父にどやされるやつだ。勘弁してくれよ。


「レオ様。おはようございます」


 食の止まらないミーアとドタバタする俺の後ろから、か細い挨拶が聞こえた。


 メイドのキザクラだ。


 ……あれ、なんか目の下にクマができてるような。


「申し訳ございません。今日は朝食をお持ちできません」


 一言謝って、彼女は俺の前を通り過ぎ、配膳室にある食材保管用の樽が並ぶところで立ち止まる。


 そして何故かそこでしゃがみこみ、右手を樽の隙間へと伸ばした。


 引っ張り出してきたのは、小さいハコのようななにかだった。


「チッ」


 舌打ちするキザクラ。

 なんかちょっとキャラ変わってない??


 彼女が中身を確認している両開きの箱は、転生前、日常的によく見ていたソレの形と非常に酷似していた。


 ……Gホイホイじゃねぇかよ。そんなもんまであんのか、このゲーム。


「お邪魔しました。失礼いたします」


 ホイホイをもとの位置に戻し、そそくさと立ち去ろうとするキザクラ。


 ……あいつ、徹夜で捕獲用の罠仕込みやがったな。


 でも、これは期待できそうだ。どこかに引っかかってくれてるといいが。


「罠とか汚いにゃ!正々堂々とやれにゃ!……もぐもぐ」

「勝負というのは、準備の段階ですでに決まっているものなのよ。覚えておくといいわ、化猫娘」


 去り際のキザクラが一瞬振り向き、不敵な笑みを浮かべながらそう言い放ち、この場を去っていった。


 やっぱキャラちがう。


「ムキーーー!!淫乱おんにゃの分際でぇぇ!!」


 どんどん言うこと酷くなってるよ。ミーアさん。


「レオ様!」


 キザクラと入れ替わる形で、配膳室に勢いよく入ってきたのはクマオ。


 見張り役失敗の男だ。


「クマオ!なにやってんだよ!ミーアがひどいことになってるよ!」

「申し訳ございません!実は城内探索中にレオ様のお父上様とお会いしまして……。国家存亡論の談議に花が咲いてしまいました……」


 ああ。父に捕まったのか。

 父は絶対クマオのこと気に入ってると思う。強そうだし、忠義に熱い男だし。


 でも


「頼むよ!もう目離さないでね!」

「御意!」


 また片膝ついて了解の意を示すクマオ。

 もう、それめんどくさいからやめてって後で言おう。


「さぁ!腹も満たされたし、いざ!ネズミ捕獲大作戦、開始にゃー!!」


 ……やっぱ朝飯食いに来ただけじゃねぇか。






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