第12話 灯台下暗し

―パトリア城 自室内―


「申し訳ございません、レオ様。私、歯が一本なくなっておりました」


 クマオの奥歯を見せてもらうと、確かに一本無くなっていることが視認できた。


 どうやら獣人化する前からすでに消えていたらしい。


 あ、クマオはちゃんと兵士の服借りて着てますから。安心してください。(サイズはピチピチ)


 あと、バルゴスは今回の色々な件の疑問については深くは聞いて来なかった。話したくなったら話してくれとだけ言って、次の任務に就くため城を離れて行った。


 ほんと、いい兄貴だな。バルゴスって。


「い、いや!全然大丈夫だから!」


 クマオは自身の歯をバルゴスが父に渡した時の俺の表情から、悪いことをしたと自発的に感じ取ってそんな風に言ってくれたのだろう。ほんと、俺のことよく見てるよな。


 ……よく、見られてる?

 うん。あまり深く考えないようにしよう。


 とりあえず、俺の破滅フラグは未だ継続中だ。


 ほんと呪いだよね、これ。


 でも、クマオの歯はいつ抜けたんだろう?最初から抜けてたのか?兄さんはリゼが来る前に拾ったと言っていたけれど……


「クマオ!ここは私とレオ様の愛の巣にゃ!お前は外で寝ろにゃ!」


 ミーアがプリプリしながらクマオを追い出そうとしている。


 父から獣人化しても元は魔物だから絶対に1人にするな、という命令を受けているので、客間は用意されていない。ミーアもクマオも同室で寝泊まりすることになっている。


「レオ様のお父上からのご命令だ。断固拒否する!」

「にゃにー!!先輩の命令は絶対にゃ!」


 ミーアが体育会系のパワハラ上等なセリフで場の空気を悪くする。


 ちょっと仲良くやってくれよ。


 っていうか、ミーアさん。クマオを覚醒させようとしたとき、「この愛は認めるにゃ」とかなんとか言ってなかった?


 ……ああ、そうか。俺、わかっちゃった。


 あの時か。クマオの歯が抜けたのは。

 強制接吻事変。当たり所が悪かったんだろう。


 犯人は彼女でほぼ確定。


 ……ミーアのばかあああああああ!!!


「ま、まあまあ、ミーア。そんなひどいこと言うなよ。仲間だろ?」

「にゃああああ!!こんな筋肉ダルマがいたらレオ様と〇〇〇なことや〇〇〇〇ができないにゃーーー!!」

「貴様!王に対してなんと破廉恥な……!」


 ま、まあそれはちょっと残念ってのは実際ある。俺も男の子だし。


 でも、若干トラウマも抱えてるんで、時間かけていくにはちょうどいいかもしれない。


「と、とりあえず!みんな今日はお疲れ様!ご飯も食べて、お風呂も入って眠たいでしょ?今日は早めに寝よ・・・ん?」


 俺はパンっと手を叩き、場をとりなして今日という日を終えようとした時、視界の端っこに一瞬だけスッと黒い影が映った。



 チューチュー。ススススススス……。



 家具の隙間に入っていく影の正体。


 ネズミだ。実はこの世界に来てから何度か遭遇しているのだが、いまだに駆除できていない。


 何故か夜によく現れ、一瞬姿を見せるがすぐいなくなってしまう。


 メイドに頼んで探してもらっているのだが、全然見つからない。


 鬱陶しいので、いいかげんなんとかしてほしいものなのだが……。

 

「(クマオ)」

「(今のネズミ、あれは……)」

「(私がコッソリ捕まえるから、お前はだまってるにゃ)」

「(いや、だがあのネズミは……)」

「うるさい!いいから黙ってるにゃ!!」


 ヒソヒソ話から全部聞こえてますよー。

 しかも最後ミーアさん大声になってるし。


「あのネズミがなんかあるのか?」


 俺は素朴な疑問を投げかけた。 


「いやいやいやいや、なーーんもないにゃ!なんもないにゃーーー!!」


 絶対なんかあるだろ。


「ステータスとか絶対見ちゃだめにゃ!」


 え?そういうことなの?あのネズミが?

 まっさかぁ……え?


「クマオももしかして、見ただけで獣人化できる魔物かどうかわかるのか?」

「はっきりわかります。あのネズミは、我々の仲間……」

「クマオてめーー!!こんにゃろーー!!」

「なぜ黙っているのだ!貴様!裏切るつもりではなかろうな!!」

「レオ様、何事ですかぁぁ!!」


 いやもう、なんだこれ。収集つかなくなってきた。


 またメイド走ってきたし。何回目だよ!


 父の命令だからいいけど、さすがにその内城追い出されるんじゃないだろうか……


「あ、大丈夫。いつものことだから、気にしないで」


 めんどくさいので、さらっとメイドを帰そうとする俺。 


「さすがに気になります!なにがあったのですか?この間から夜ずっと叫んでます!まさか、その野蛮人たちに……」


 メイドがキッとミーアとクマオを睨みつける。


 ちなみに俺の身辺の世話を中心にやってくれている彼女はキザクラという。

 

 いつも黙ってなんでも世話してくれていたのだが、この珍客たちが来てからは少々機嫌が悪い。


 まあ、夜毎回こんな感じだったらそうなるわな。


「こないだからちょくちょく俺の部屋に出て来るネズミがまた現れたんだよ!それで、みんな捕まえようとしてくれて……」


 さらっと嘘を吐く俺。

 いや、一応本当のことも混じっているので完全な嘘ではない。


「あ、申し訳ございません。昼間探しているのですが、どうしても見つからなくて……」


 ちょっとバツが悪そうなキザクラ。

 あ、責任感じてるのか。悪いこと言っちゃったかな。


「お前は捕まえなくていいにゃ!わたしが捕まえるにゃ!」


 鼻息が荒いミーア。どうしても自分で捕まえたいらしい。


 あ、もしかして、ネコだから?


「なんですか、貴女!人に向かって『お前』って。失礼じゃありませんか!」

「ペチャパイおっとり地味おさげ女にあのネズミは捕まえられないにゃ!」

「な、な、なんですってぇぇぇ!!!」


 もう、その口どうにかならないの?女性はみんな敵なの?


 まあ、キザクラの見た目の表現としては的確っちゃ的確だけど……。


「はい、ストォォォォォップ!!」


 パンッパンッと手を叩き、ちょっと大きな声で場を制する俺。


 さすがにうるさすぎぃ!!


「もう夜も遅いんだ!みんな、今日は寝よう!明日、ネズミどうするか考えよう!」


 正直ネズミ一匹放っておきたいところだが、仲間の可能性が高いならそういうわけにもいかない。探し出して、戦力を増強したい。


 獣人化の方法は不明だが。


「私が絶対捕まえてやるにゃ!フッフッフ……ギッタギタに……」

「ミーア殿は信用できん!レオ様のために、必ず私が……」

「メイドの誇りにかけて、化猫女より先に見つけてみせます!」


 ……翌日、ひとつのオペレーションが遂行されることとなる。


 ネズミ捕獲大作戦。いや、間違えた。


 これは争奪戦。


 各々が違う目的で、それぞれの思いを胸に、来るべき決戦の日を待つのであった。


 ……俺も、頑張ろう。



 


 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る