第9話 決戦!リゼ・シュナイダー公爵令息

「お怪我はございませんか!王!」


 獣人化したグリズリーが片膝をつき、俺の身を案じてくれる。


 なにがトリガーになったのかはわからないが、とりあえず窮地は脱したようだ。


「我はとても感動しております!身を挺し臣下を守るそのお姿!まさに!我が王に相応しき御方!」


 涙を流し目元を抑える元・グリズリー。

 ま、まあ。結果オーライ……。


「……」


 おい!ミーア!なに黙り込んでんだよ!とりあえず、命繋がったぞ!


 ちょっとは喜んで……


「はあああああああ!!!みなぎる!みなぎるにゃーーー!!!」


 ええええ!ミーアもなんかすごいことになってるよー!身体中バチバチ言ってるし!耳金色に逆立ってるし!これ、こないだ魔術師女圧倒してた時のアレじゃん!


 あ、もしかして。『俺の女』とか言っちゃったからか?


 チューだけでもないんだな。溺愛ってよくわかんない。


 ……てか、なんであんなこと言っちゃったの?俺


「お・れ・の・おんにゃぁぁぁぁぁ!!!」


 やめて。恥ずかしい。マジで。やめて。


「ほお。さすがは王直属の臣下!やるではないか!」


 ミーアの戦闘力溢れる姿に感嘆しながら、ゆっくりと立ち上がる元・グリズリーの男。

 

 筋骨隆々。背丈はグリズリーの時と同じだろうか。顔は彫りが深く厳つい。


 そして、言うまでもなくお約束の全裸。

 彼のグリズリーも隆々だ。


「おい」


 かなりの距離を吹き飛ばされていたリゼが、怒気を含んだ冷徹な声で俺たちを威嚇する。


 当然と言えば当然だが、どう見てもノーダメージだ。圧倒的能力差がある現状において、あの程度の攻撃でダメージが入らないのは仕方がない。


「油断したじゃねぇか。なんだその毛深い全裸のおっさんと、雰囲気変わってバリバリやってる猫娘は」


 黒刃の剣をカツカツ地面に擦り付けながら、リゼは元・グリズリーとミーアを交互に眺めている。状況が呑み込めず、攻め手を探っている様子だ。


 この隙に、俺は元・グリズリーのステータスをこっそり確認することにした。


 名 前:クマオ

 種 族:獣族

 攻撃力:A(S) ※スキル発動中

 守備力:B(A) ※スキル発動中

 素早さ:D(C) ※スキル発動中

 知 力:D(D) ※スキル発動中

 体 力:B(A) ※スキル発動中

 筋 肉:M(AN) 

 スキル:『獣王様・万歳!』


 名前はこれ、制作陣が決めてるのか?作中で使わないからって、クマオて……。


 もうちょっとちゃんと付けてやれよ。

 

 スキルは、そういう名称か。たぶん、忠誠心とかが関係してそうだけど……。(スキルの上に書いてあることははもう無視)


「ミーア」

 

 小声でミーアに呼びかける俺。二人がいい状態でリゼと対峙できているが、まだ勝算は薄い。


 奴と同等以上に渡り合うには、バルガスの力が必須だ。


「兄さんを回復してやってくれないか?3人なら、状況を変えられるかもしれない!」

「わかったにゃ!むふっ」


 むふって。ちゃんとやってよ!ミーア!


「クマオ」

「はっ!」

「ミーアが兄さんを回復するまでの間、俺たちのこと、守ってくれないか?頼む!」


 クマオは俺が発する忠義を感じる言葉が効果的なんじゃないかと考える。


 ……どうだ?


「ああ、王……!この命に代えても!必ず!」


 クマオの覇気が少し上昇し、警戒態勢に入る!やはり、忠誠心が肝なのは間違いなさそうだ!


「いいだろう。バルゴスが回復するまでの間、少し待ってやる」


 リゼの言葉を額面通り受け取るわけにはいかない。


 警戒を怠ってはならない。


「楽しくなってきたじゃねぇーか!」


 ニタニタと全く余裕を失わないリゼ。どうあっても自身が負ける姿など想像すらしていないのだろう。


 これは、千載一遇のチャンスだ!油断したままでいてくれよ、リゼ!


「回復、終わったにゃ!」


 すでに回復へと回っていたミーアの治癒魔法で、バルゴスは一命を取り留めたようだ。多分、瀕死だったと思う。

 

 死んでなくて、よかったぁ!


「……俺は、気を失っていたのか」

「頸椎イっててやばかったにゃ!ギリギリだったにゃ!」


 第二形態のミーアは本当に頼りになる。あのバルゴスの危険な状態をほぼ瞬間回復できるヒーラーなど、この世界でも数えるほどしかいないと思う。


 しかも攻撃魔法まで規格外だし。


「……なんだ、力がみなぎってくる!」

「サービスしといたにゃ♪」


 回復ついでにバフまでかけるとはナイスだ、ミーア!補助魔法もいけるとか、もう無敵じゃね?


 条件は全てクリアされた!これなら!


 ……いや、まだだ!まだ、力がいる!


 俺は、仲間全体の士気上昇と、クマオの更なる能力アップを期待して、普段なら絶対に言わないセリフを言う覚悟を決めた!


「リゼ・シュナイダー公爵令息!」

「あ?」


 少し声を張り、リゼを名指しする俺!


 やっべぇ……。いきなり襲い掛かってきたり、しないよね?


「なにが目的でこんなことをするのかは知らない!ただ!」


 さらに語気を強めて続ける!


「俺たちの覇道を邪魔するなら、容赦はしない!」

「調子乗ってんじゃねぇぞ、てめぇ」


 ひえっ。怯むな、俺!!


「クマオ!」

「はっ!」

「栄えある先陣の誉を」

「うおおおおおおおおおお!!!」


 クマオのステータスがもうワンランク上昇する!やっぱ最初に仕掛ける役がいいんだよね!


 転生前に戦記物の漫画、たくさん読んでおいてよかったぁ!


「いくぞ!蝙蝠野郎!泣いて謝っても、許してやらねーからな!」


 俺は自分が戦うわけでもないのに、威勢のいいことばかり言って調子に乗り、実はちょっと気持ちよくなっていたのだった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る