第6話 破滅フラグの回避は難しい!?
「なんにゃ、これ!美味しすぎるにゃ!」
翌朝。自室にて。
「人間様はいっつもこんなうまいものばっかり食べてるにゃか?」
俺がメイドに用意させた魚類中心の食事をほおばりながら、ミーアは爆食を続けていた。
普段、食事は大広間で摂ることになっている。
だが、彼女は何をしでかすかわからないので、自室に朝食を運ばせていた。いきなり暴れるリスクが高すぎるんでね。
ちなみに魔族と共謀を図ろうとしていることは、俺と父であるフロイト・ローレンハインツ卿しか知らない。
ミーアのことも、俺の大事な客人という扱いとだけなっていて、細かいことは伏せられていた。
「ところでさ、ミーア」
俺は用意された朝食のパンを口に含みながら、彼女に聞かなければならないことを聞いてみることにした。
いや、ホントはすげーたくさん聞きたいことあるんだけど。
正直納得のいく回答は期待できないと思っている。
知ってたらラッキーくらいの感覚だ。
「バクバクバク!なんにゃ?ガツガツガツ……」
「その、君のスキル?『獣王様の溺愛』ってやつ……」
「ガツガツガツガツ……」
「ほかの魔物も持ってんの?」
ピタっ
止まらないと思っていたミーアの食事の手が急に止まる。
口だけモゴモゴさせながら、こちらを凝視し睨みつけてくる。
……あれ、おれなんかヤバいこと言っちゃいました?
「浮気は許さないにゃーーーー!!!!」
「ぶっっ!」
ミーアに咀嚼された魚類中心の食事達が俺の顔に飛来しまくる。
叫ぶなら呑み込んでからにしろよーーー!!!
「ち、ちがうちがう!そんなんじゃないって……」
「ちがわないにゃ!レオ様は通い愛とか、隠れ愛とか、いろいろそういうのやるつもりなんにゃろーー!コンニャローーー!!」
すべての咀嚼物を放出し、喚き散らすミーア。
俺の顔面に付着した残骸たちがこそばゆくて仕方ない。
てか、どこでそんな通い愛とか、そういういう単語覚えてくんだよ!!
……あ、アイツか。絶対アイツ(エロンティーカ7世)だ。
あれやこれやをいろいろ見て覚えてたんだろーな。
ってそんなこと考えてる場合じゃない。
「大事な事なんだ!知っていたら、教えてくれないか!ミーア!」
ガシッとミーアの両肩にしっかり手を置き、真剣なまなざしでお願いする俺。
命かかってんだ。こっちは。
「は、はにゃぁ。ごめんなさいにゃ」
しおらしくなるミーア。自慢の猫耳もふにゃけている。
ふざけてばかりもいられない。
まぁ、自分の顔が悲惨な状態になってることは、この際置いておこう。
「わたしと同じ能力かはわからにゃいけど……レオ様の能力と共鳴できる魔物を見分けることはできるにゃ」
「え?そうなの?」
マジか。それ、超貴重じゃん。
「この姿になるちょっと前に、ヘンなくそじじぃに教えてもらったにゃ」
「ヘンな、くそじじぃ??」
「そうにゃ!まっしろで毛むくじゃらの……神様気取りのくそじじぃにゃ!」
あーなに?そういう仕込みしてんのか、あのじいさん。
なんでいっつもそんな感じなんだ。普通に助けろよ。マジで。
「見れば、わかるの?」
「わかるにゃ!」
でも、心強い!これは期待大だ!
ただ、魔物って山ほどいるんだけどな。
何匹仕込まれてんだろ。少しでも多いほうが、戦力になりそうだから、主人公パーティと邂逅するまでにできるだけ多く集めたいのだが……。
あとで神、詰めるか。どうせ見てるだろ。
コンコン
扉をノックする音が俺の耳に入る。
「レオ様、よろしいでしょうか?」
扉の向こうからメイドの声が聞こえた。
「ああ、なんだ」
「お父上がお呼びです」
「わかった、すぐ行く」
まだまだ聞きたいことが山ほどあったが、父に呼ばれれば行かなければならない。
「レオ様。顔、ひどいことになってるにゃ♪」
オマエのせいだろがぁぁぁぁぁ!!!
〇●〇●
「エロンティーカ7世殿から依頼があった」
パトリア城―玉座の間―
護衛の兵士たちを下がらせていため、非常に広く感じるこの空間に、正装へ着替えた俺とメイド服のミーアは立っていた。
あ、顔は洗いましたんで。あしからず。
兵士に聞かれてはいけない話、か……。
例の件だろう。
対面の高い位置にある玉座に悠然と座り、俺たちを見下ろしながら、父の話はさらに続いた。
「天然のグリズリーの歯が必要なのだそうだ。おまえ、とって来い」
頼み方、雑じゃない?
てか、なんで俺?グリズリーの歯とか無理でしょ。
ちなみに天然のグリズリーが生息しているのは、パトリア城北にあるラトビア山の中腹だ。
ここから行くだけでも大変だし、グリズリー倒して歯を回収するミッションも難易度は高い。
「エロンティーカ7世殿から預かっておるその娘、ミーアと言ったか?」
「にゃ?」
「強いのだろう。兵士たちから聞いておる。なんでもハルバートの一行を1人で退けたとか」
当然報告は上がっているか。
ただ、経緯とか発動条件とかそういうのは多分、気絶してたからわかってないと思う。
獣人化してチューして極大魔法かまして、とかそういうの。
せいぜい、獣人化する特殊な強い魔物、という位の情報だろう。
「しかも回復もできるとか。頼もしい限りだな」
「よくわかってるじゃにゃいか!チョビ髭じじぃ!」
高笑いするミーア。
ちょっと一応俺の親父設定なんだから、じじぃはやめてくれよ。伯爵だよ?一応。
確かにちょび髭だけど。
「はっはっは!威勢がいいな、獣人よ!レオを守ってくれよ!」
豪快に笑い飛ばすフロイト・ローレンツ卿。小さいことは気にしない性格らしい。
……これ、二人で行ってこいってことなのかな?
いや、でもちょっと待てよ。
おそらくグリズリーの歯は例の『人を魔物に変える毒薬』に必要な材料の1つだ。それがないと、イベントは起こらない。
……これ、それっぽい魔物の歯持って帰って渡せば、フラグ回避できんじゃね?
あ、これ名案だわ。バレてもイベント発生時期ズラせそうだし。
「よし!では行って参れ!レオよ!」
おっしゃ!なんかいい流れだ!これはイケるんじゃないか!
「城下でバルゴスが待っておるぞ!」
……え?なんだって?バルゴスだって?
えええええ!バルゴスって、俺がこのゲームやってた時に唯一全滅させられたローレンハインツ家の長男じゃんか!
強すぎたから全滅イベントだと思って油断した奴だ。アレは大変だった。やられてからレベル上げして、装備を整えていた日々を思い出す。
「レオ、おまえは噓つきだからな!テキトーにその辺の魔物の歯とか持って帰ってきそうだし!」
ちょっとちょっとバレちゃってんじゃん!
嘘つき設定とかやめてー!
「そうにゃ!そうにゃ!浮気野郎だし!最低にゃ!」
おーい、キミは誰の味方なんだよー。
「バルゴスがおれば大丈夫だ。これも修行だ、レオよ」
修行とか勘弁して!
「よーしそれじゃ、レッツゴーなのにゃーーー!!」
右手を掲げ、意気揚々なミーアを横目に、俺はこんなことを考えていた。
ゲームの破滅フラグって、そう簡単に回避できないんだね……。
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