第5話 少し、落ち着こうか
月明りが入り込むと、部屋は光源がなくても明るさを保てる。
「むにゃ……むにゃ……レオ様ぁ」
俺のベッドを占領し、寝言をつぶやきながら幸せそうに眠るミーア。
「やっぱ、顔はかわいいんだよなぁ……」
ズキズキ痛む股間を押さえながら、俺はミーアの寝顔を1人静かに見つめていた。
―――あのあと
大声をだしてしまった俺の声に反応し、メイド達数名が俺の部屋へと駆け付けた。
少し距離もあったので、俺は急いで場の状況を繕い、平静を装うことでメイド達の疑念を払っていた。
ちなみに、おれのかわいいビーストちゃんは血の涙を流していたものの、なんとか生き残ってくれたようだ。
ミーアは甘噛んだだけだった。
ネコの歯はケンケンしているので、軽くでも傷を負うことはある。
「いや~ホント、危なかったよなぁ……」
小声でつぶやく俺。あんなところ、見られたらアウトだった思う。
いくら同盟を組んでいる魔族の依頼とはいえ、客人といきなりそういう関係になったと思われるようなことになれば、俺の威厳も失われる。
……いや、まあないんだけどね。威厳とか。ただのモブなんで。
「それにしても……」
近くにあった高級椅子に腰かけ、俺はこれまでのことや、このゲーム世界『創生のディストピア』について思いを巡らせていた。
小窓から覗く、現実と変わらない美しい月の淡い光を見つめながら。
ちなみにミーアは「つかれたし寝るにゃ」とか言って勝手に俺のベッドに潜り、秒で眠りについていた。
ほんとマイウェイ。切り替え早すぎ。
「やっと、落ち着けた気がする」
怒涛のような展開でゆっくりする暇もなかった。
ようやく一息つける。ふう。
スズメバチの大群に刺されたあの日。致命傷だった俺は、死に際にハイテンション神に出会い、このゲーム世界に転生させられた。
辺境伯の悪役令息。魔族と結託し、世界をともに征服しようとする悪の伯爵一族だ。
設定では、この世界を牛耳る帝国の方針に納得できず、鬱憤を貯めていた辺境伯が、エロンティーカ7世にその悪意を操られ、城下の住人達を魔物に変える、というものだったと思う。
で、その住人を魔物に変える毒薬をエロンティーカ7世から渡され、まき散らそうと準備していたところを、主人公パーティに止められ、倒されるって感じなのがレオ・ローレンハインツ。
つまり、この俺というわけだ。
「そういえば、あの『魔力の泉』からくみ上げた水……。あれが、その材料なのかもしれないな」
そんな細かい設定は当然しらないが。一応流れがあって、このイベントも作られているのかもしれない。
ってことは、毒薬のフラグはもうたっちゃってるってことなのかな。
「次アイツと会う時が、おそらく破滅フラグなんだろうな」
一応命かかってるんで、現状から今後のことについて想定してみる。
「この辺境地に主人公パーティが来るのは、たしか……」
蟲のアジトを攻略したあとだ。アジトから依頼主の王様の元に報告へ戻ったとき、このフラグが立っていた記憶がある。エロンティーカ7世がパトリア城で目撃され、不穏な動きをしていると。
「とりあえず情報収集をまずしなきゃだな。あとは……」
月明りからミーアへ視線を戻す。スヤスヤ眠っている。
ドタバタコメディばかり繰り広げていたが、寝ておとなしくしていると本当にかわいいと思う。
「このフザけたスキルのことについて、もっと知らなければいけないな」
おそらく、破滅フラグ回避に必須の能力だ。この力を使いこなさなければ、俺に未来はない。
なんせ基礎ステがハメツだもんな。ほんと、ふざけてるわ、あの神。
少しおさらいしよう。まずはスキル『ザ・ビースト…』について。まだまだ想像の域はでないけど、わかっていることをまとめてみる。
・魔物を獣人化できる。
・獣人化した魔物を強化できる。
・獣人化にはなんらかのトリガーが必要。
ミーアの所持するスキル『獣王の溺愛』には、俺の愛が必要なのはわかった。
……どこまでナニをすればどうなるか、まではわからんが。
強力なバフを与えられる。第二形態はあり得ない強さだった。ただ、
「童貞にはハードルの高い能力だよなぁ」
使いこなせるの?俺。
……少しずつ、だな。チユーは頑張れば多分イケる!
「あと、この能力はミーアだけ?それとも他の魔物にも効くのか?発動条件は?」
このあたりは全然わからん。色々試してみるしかないのか。
ああ、もう!神、そろそろ降りてきて説明しろよ!暇なんだろ?どうせ!
「うるさい。わしゃ忙しいんじゃ」
……え?いたの?神!
「エロガキと話すことなどないわ!」
ねえ、なんか怒ってるよ!?ってもしかして全部見てた?
ミーアといちゃついてたのも、見てたの??
「べ、べつにうらやましくなんて、ないんじゃからね!」
ツンデレかよ。いちいち古いわ。
「なあ、じいさん。スキルのこと、ちゃんと教えて…」
「ブチッ」
……切った。
「……仲間はたくさん用意しとる。あとは自分でなんとかせえ」
いつも中途半端だな、おい。
まあヒントくれただけマシか。
てか黙って見てるとか趣味悪いわ!
「むにゃむにゃ……レオ様…の…棒」
……もう勘弁してもらえませんかね。
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