第4話 時は来た!

 時は来たれり!


「ンン~~♪♪」


 緊張をほぐすには、やはり鼻歌が最適だと思う。


 気持ちの整理ができている気がする。


「ンフ、ンフフ♪ムフ♪」


 だがその程度の行動で、これから行われる行為の想像を止めることはできない。


 鼻歌に下心が混じってしまう。


 俺は自室に備え付けられた高貴なベッドに腰を下ろし、ドキドキムネムネムラムラしながら、その時を待っていた。


 そう!俺は今日、ついに!


 ……すまんな、ハヤト(転生前の友人)。お前との童貞同盟「チェリーの集い」は現時刻をもって破棄させてもらう!!


「ふぅ。スッキリしたにゃ!」


 城内の入浴施設で水風呂を浴び、俺の部屋に戻ってきたミーア。


 俺が従者に用意させた寝具(パジャマ)を着ている。思いのほか似合っていた。


「ちょっとこの服、胸がきついにゃ」


 少し困った表情で、自身の胸に手をやるミーア。無意識でそれをやるあたりが男心をくすぐる。


 サイズは少し小さめしか予備がなかった。

 ミーアは一般女性より体格がいいのだ。

 まあ、元が獣ですからね。


 ただ、その偶然は僥倖。


 身体のラインが強調された小さめのパジャマは、俺のビーストを覚醒させるのに十分なトリガーとなる破壊力を有していた。


 ……胸、やべぇ。ゴクリ


「ま、まあ、寝る用の服に予備があっただけでもよかったよ、うん」

「べつに着なくてもいいんだけどにゃあ」

「そ、そういうわけにはいかない。裸で城の中とかうろつかれる色々と困る」


 獣に服を着る習性がないのはわかるが、一応人の姿してるのだから、そこは大人しく言うことを聞いてもらわなければ困る。


 エロンティーカ7世が帰り際、このゲーム世界の父である伯爵に「あのネコ耳娘とレオ殿のことは、好きにさせてあげなさい」と言ってくれたおかげで、今この状況を迎えることができているが、普通だったらミーアはここにはいられない。


 一応俺、今は伯爵令息だし。悪役だけど。


「人間ってめんどくさいにゃ」


 服のことはアレだが、人間がめんどくさいってところは大いに賛同する。


「……」

「……」


 一瞬の沈黙。見つめ合う俺とミーア。


 そういえば、顔をマジマジと見たのは初めてかもしれない。


 雰囲気だけで可愛いと判断していたが、ぶっちゃけ顔めっちゃタイプだ。


 一言で言うならネコ系で可愛い系。まあもとがネコだからそりゃそうだが。


 薄い眉毛と釣り目だが大きくつぶらな黒い瞳。鼻はすこしぼてっとしているが、逆にそれが愛らしく、口の形は「ω」。まさしくネコって感じで、ドンピシャだ。


「……レオさまぁぁぁぁ」


 突然ダッシュで俺が座るベット目掛けて駆け寄ってくるミーア。急にぃ!!


 いや、待て!まだ心の準備が……


 ガシッ


「さあ、レオ様。あの時の続きをするにゃ」


 抱きつかれると思っていた俺だったが、ミーアは直前で急ブレーキをかけ、俺の顔を両手で思いっきりわしづかんできた。


 あの時?あの時ってもしかして、俺のファーストキスが奪われた時かぁ!


「ん~~」


 ミーアは目をつむり、唇を尖らせてくる。


 スキル『獣王様の溺愛』で能力値を上昇させたときのような無理やり感はなかった。


「……」


 俺はこのスペシャルな状況に、本当であれば彼女の唇をむしゃぶり尽くしたい願望は当然あった。


 ただどうしても、初キスの味(キャットフード)が脳裏をかすめる。


「……なあ、ミーア。ちょっと質問があるんだけど」

「おんにゃの子を待たせるなんて、レオ様は罪な男にゃ……」


 口を尖らせしゃべるミーアの滑稽な姿に、なんかちょっと冷静になりつつある俺。


 おいおい!直前でそれはないぞ、俺!なさけない!!それでも男か!?


 ……いやこれ、意外に童貞あるあると違うか?それとも、蛙化現象??


「……ミーアは歯磨きってしたことある?」

「ハミガキ?」

「……知らない?歯磨き」


 これは危険なにおいがしてきた。ていうか、絶対ないだろ!よく考えて!


 ずっと魔物だったんだぞ!してるほうが逆におかしい!


 ただ、一応聞いてみる


「こう、細い毛のついた棒を口の中に入れて……」

「あ、わかったにゃ!」

「あ、もしかして俺の勘違いだった?いや、ごめん失礼なこと言って……」


 歯磨き、してたみたい。魔物だからしてないと思って誤解してた。


 いやー最近の魔物は清潔みたいだ。ごめんな、ミーア。疑って……って


 え?


「エロエロテッカリンチョ7がやられてたやつにゃ!」


 ガシッ!ズザッ!


「!!!!」

「もう、レオ様ったら!積極的なんにゃから……」


 俺の頭をつかんでいたはずの両手は、そのやり取りを受け、俺の履いていた寝巻のズボンへ移行。


 そのまま勢いよく、ずり降ろされた!


 え?いきなりそっちいっちゃうのぉ!?


 でも、あれ?なんだろう、ミーアの歯、すごいね。ギザギザだ。


 しかも、え?なんか俺が想像してたムフフな態勢と違うような……


「いっただきまぁーす、にゃ!」


 ガブ


「ひ、ひぎゃあああああああああああああああ!!!!!」


 ああ、俺なんてバカなんだろう。


 獣娘と童貞がフツーに交われるわけがないのだ。しかもこんないきなり。

 

 人生舐めてた。ちゃんと時間をかけよう。お互いをもっと知る必要があると思う。


「そんなに喘がなくても♪レオ様は敏感にゃ」


 細い毛のついた棒。

 俺のビーストのライフは0になった。

 


 

 

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