第3話 獣王様の溺愛が不足しているらしい

「はあああああああ!!みなぎる、みなぎるにゃーーー!!!」


 激しく金色に毛羽立つ猫耳ともふもふシッポ。電流をまとっているかのように、ミーアの周囲に絡みつくように雷がバチッ、バチッと不連続で発生している。こ、これは……


 ステータス画面が光っている。


 名 前:ミーア

 種 族:獣族

 攻撃力:E(C)↑ ※スキル発動中

 守備力:D(B)↑ ※スキル発動中

 素早さ:C(A)↑ ※スキル発動中

 知 力:B(S)↑ ※スキル発動中

 体 力:D(B)↑ ※スキル発動中

 乳 房:E() 

 スキル:『獣王様の溺愛』第二形態


 内容が更新されたようだ。前回よりさらにもう一段階能力が上がっている!接吻パワーすごい!


 ……おーい。乳のステータス、隠れちゃってるよー。意図的なの?


 ちなみにステータスはEが最も低く、Sが最も高い(例外もある)。


 基礎ステータスのSは最強クラスだ。この世界で言えば、最終決戦手前にようやく辿り着く境地。


 それがこんな物語中盤に出てくる魔物が、知力だけとはいえそのレベルになっているなんて、通常はあり得ない!


「な、なぁ」

「ああ、これはマズイな」


 ハルバートと兵士を突き刺した男は、自分達が置かれている状況を把握した。


 相手にとってみれば、今のミーアは物語後半のボスクラスに相当する。


 この時点で彼らに勝つ術はないと思う。


「……撤退だ!!」


 ぼふん!


 ハルバードの判断は非常に早かった。


 仲間に視線を送って魔術師女の回収を指示し、同時に懐から取り出した煙玉を地面に投げつけ、逃走を図ったのだ。


「うっとうしいにゃー!」


 ミーアはそう言うと、息を思いっきり吸い込む。


 そして、力の限り吐き出した!


 ひゅおおおおおおお!!


「!」


 俺たちの前方に強烈な暴風が発生し、煙は一瞬で晴れた。


 が、時すでに遅し。ハルバード一行はすでに撤退を終えていた。


「ふぅ。ヤバかったぁ。とりあえず、窮地は脱して……」

「いいや、まだにゃ!」


 え?だってもう逃げちゃっていないよ?

 追いかけるの?この森、結構樹々が生い茂っていて、どこに向かって逃げたかなんてわからないけど……。


「雷帝の臨界、死の招雷……」


 おいおいおいおい!やばいって!なに詠唱開始しちゃってんのーー!!


 すんごい魔力集中でもうわけわかんなくなってるよ、ミーアちゃん!!


 しかもそれ、極大魔法やーーー!!!

 森が死んじゃうぅぅ!!


「凶電の奔流が与えしは灰燼を呼び覚ます無情の罪と知れ」


 うわわわわわ!俺たちの周りに雷の群れが溢れている!


「暴れ狂え!雷帝の生誕祭ビッグサンダーフェスティバル!!にゃーー!」


 バリバリバリバリバリ!!ズガガガガガガガ!!


 すさまじい雷鳴が鳴り響く。


 俺たちの周囲は雷によって支配され、雷帝の生誕を祝う狂乱の宴へと化していた。


 半径約1km圏内に存在する生態系への影響は計り知れないだろう。


 ……このゲームのプロデューサーがネットに上げていた制作秘話を再び思い出す。


 パトリシアの森。そこは樹齢豊かな木々たちの生い茂る、原始的で崇高な場所という設定なのだそうだ。


 まだ見つけられていないレアなアイテムもかなりの数隠れているらしい。


「どうにゃ!参ったかぁ!はぁはっはっは……って、いやーーー!!なんかおしりがビリビリするにゃーー!」


 ……いや、尻だけビリビリすとか、そんなことある?


 〇●〇●


「いやご足労かけました、レオ殿。この水は我々魔族には汲めませんでしてネェ」


 エロンティーカ7世が満面の笑みで、俺たちが組んできた泉水の小瓶を受け取る。


 ただの水だと思うんだけど、魔族ってよくわかんないね。


 あのあと


 雷の嵐が収まるのを待って、俺とミーアと兵士3人は目的地「魔力の泉」を目指し、小瓶に水を汲み上げ、城へと帰ってきていた。


 今は自室にいる。


 瀕死だった兵士たちはミーアの治癒魔法で全回復していた。回復までいけるとか万能だよね。


 でも、魔力使いすぎてスキルの効果は切れちゃったみたいで。帰りはヘロヘロになっていた。


「それにしても……」


 エロンティーカ7世は、俺の隣で猫じゃらしみたいなアイテムと1人キャッキャ戯れるミーアを、訝しむ視線で舐めるように眺めていた。


 ちなみに裸ではない。城にあったメイド服を適当にあてがい、着せていた。


 ……いや、わかるよ中ボス君。エロいもんね、メイド服。しかもネコミミだし。


 実は俺も結構、見ちゃってます!!


「獣王様はレオ様っていうのね!ステキな名前ですにゃ!」


 じゃれていた猫じゃらしを食いちぎりながら、ニハッとこちらを向くミーア。


 そういえば、名乗っていなかったな、俺。獣王様と呼ばれすぎて慣れてしまっていたみたいだ。


 まあ、レオってのも自分としては馴染んでないけどね。


「アナタ、アタシが遣わせた魔物よね?なんで人化しちゃってるワケ?」


 ああ、忘れてた。このエロンティーカ7世はこういうキャラ設定だった。


 道化師みたいに派手な格好で、「また会ったわねえ」とかいいながら何度も主人公パーティに立ちはだかる嫌なキャラだった。


 物語後半で戦闘した時は異常に強かったけど。


「ラヴパワーなのにゃ!『なのにゃ』ってなんか、言いにくいにゃ!」


 やっぱ「にゃ」ってやつ、絶対無理してるよね?別に普通でいいんだよ?


「よくわかんないけど……レオ殿の能力、ということでいいのかしら?」

「ああ。そうらしい」

「らしいって……まあ、いいわ。とりあえず用事は終わったから。帰るわよ、魔物」


 ええ!ミーア、連れてっちゃうの!待って待って待って!こんな可愛いネコ耳コスプレ娘に愛されることなんて、生涯たぶんないから!

 

 それはダメ!ダメ!ぜったい!


「いやにゃ!もうあそこには帰らないにゃ!」


 ミーアが拒否してくれた!いいよ!いい!獣王様の近くに居たいもんね!


「魔物……ミーア、でいいのかしら?あなたに拒否権あると思ってるの?」


 空間が軋む感覚を覚える。


 この威圧感……。さすが主要敵キャラだけはある。今の状態で闘っても絶対返り討ちだろう。


 いやー残念だ!ミーアとはここでお別れか……


「ふっ。甘いのにゃ、エロエロテカテカ7」


 このプレッシャーにたじろがず、自信満々のミーア。なにか秘策でもあるの?


 でも、今君は俺からステータスアップの恩恵受けてないよ……。大丈夫なの??

 

 などと考えているうちに、ミーアはエロエロテカテカ、じゃなかったエロンティーカ7世の近くまでテクテク無防備に歩いて間合いを詰めていた。


 ……そしてなんか、耳打ちをしている。


「!!!!!!」

「あたしはなんでも知ってる。ネコ、にゃめんなよぉ」


 どうやらエロンティーカ7世のなにか重大な秘密を知っているようだ。


 彼に使役されていたときに、なにかを見ていたのだろう。エロンティーカの額から冷や汗が止まらない様子が確認できる。


「ど、どうしてそれを……」

「さ、どうするにゃ?わたしを連れてかえるのか、否か。どっちにゃ!」

「ま、まぁ今は特別な指令も特にないから……。しょうがないけど、アナタの大好きなレオ様にしばらく預けておいても、いいかなぁ……なんて」

「やったにゃ!」


 屈託なく喜ぶミーア。よかったぁ!帰らなくて!超うれしい!


「じ、じゃあネ」


 トボトボ帰っていくエロンティーカ7世。中ボスの威厳はもはやない。


 ……一体、なにを見られたというのだろう。とても気になる。


「レオ様ぁ……わたし、とってもこわかったにゃ」


 うそをつくな、うそを。


「……慰めてほしいにゃ~。溺愛パワー、足りないにゃ~。夜、空いてるにゃ~」


 俺の胸にノの字を書きながら、そんなことを言って甘えてくるミーアの行動に、俺の獣王が雄たけびを上げそうになるのを、堪えるのに必死だった。


 



 

 

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