第7話
その日を切っ掛けに、俊介とよく話すようになった。
と言うより、厳密に言えば俊介の方が一方的に健一へ絡んでくることが増えた。
何かと声を掛けてくる俊介を健一が素っ気ない態度で受け流す、そういった日々がそれからしばらく続く事になる。
話の内容は宿題の話だとか、学校での噂話だとか、昨日観たテレビの話だとか、そんなどこにでも転がっているような平凡なもの。
しかしどれだけ素っ気なく健一があしらっても、俊介はめげず毎日のよう声を掛けてきた。
そうしていると、きがつけば健一ではなく春の方が俊介と仲良くなっていた。
健一という接点を得て、一気に親睦が深まったと言うことらしい。
こうなってくると一人で意地を張っているわけにもいかず、健一の方から俊介に関わりを持つ機会が徐々に増えていった。
どうして俊介と仲良くなったのか。そう聞かれても正直に言って、成り行きでそうなった、としか言いようがない。
別に夕日の中、殴り合ったりみたいな決定的で、分かりやすい出来事があった訳じゃない。
鬱陶しいだとか面倒くさいだとかそんなことを何度、思ったかわからない。
ただ、気が付いたら初めて会ったときに感じていた、異物感や嫌悪感は気が付けば薄れてなくなっていた。
だから俊介と仲良くなったのは成り行きだ。
もし何か理由があるとすれば、菅山健一は宮原俊介という人間のことを、初めから言うほど嫌いだった訳じゃなかったのだろう。多分そういうことなのだ。
健一と親しくなっていくにつれて、俊介は少しづつ、他のクラスメイト達と関わりを持つようになっていった。
健一や春の友人から徐々に輪を広げ、一年の二学期が始まる頃には東京のよそ者からすっかり学校の一員として、認められるようにまでなっていた。
それを象徴するような、分かりやすい変化が一つある。
面白くないことに、その辺りから俊介はあからさまに女子にモテだしたのだ。
元々顔は悪くなかったし、都会的で大人っぽいところがステキ、という隠れファンは多かったらしい。俊介が周りと関わりを持つようになり、近寄りがたさが薄まった結果それが表面化してきた形だ。
もちろん、そんな中でも俊介に対する陰口が完全になくなったわけじゃない。
しかしそれは、異物に対する嫌悪と言うより、どちらかというと女子にモテ始めてきていた俊介に対する、非モテ男子の僻みと怨嗟の声と言った方が近い。
東京もんだからって調子乗りやがって。
あんな奴、調子いいこと言ってあっちこっちに女作ってるに決まってる。
田舎の嫁不足舐めんな、チキショウ!
とかそう言った具合である。
そんなこんなで俊介が周りになじみ始めてきていた頃、ふと健一の中にある疑問が生まれた。
俊介はどうしてああも俺にしつこく声を掛けてきたんだろうか?
一ヶ月近くもろくに周りと喋らなかった奴が、急にしつこく話しかけてくるようになった。
それも直前にお世辞にも好意的とはいいがたい事を言い放った健一に対してである。
最初、俊介が周りに関わりを持とうとしないのは、単純に人付き合いが苦手なんだろうと思っていた、それこそ田舎者を見下しているんだろうとも。
ただこうして、周囲の人間に認められつつある手腕を見た後となっては、その予想は外れていたと言わざる負えない。
しかしそうするといったい何を思って俊介は健一をはじめとした周りの人間とかかわりを持とうと思ったのか。
自分の事を嫌いだと言い放った相手に、声を掛けようだなんて思うのは、一体どういう心境から来るものだったのか。
実は何度か俊介自身にそのことを聞いたことがある。
しかし聞く度に、俊介は意味深にニヤリと笑って。
「ヒミツ」
としか答えてはくれなかった。
「いいじゃない別に。男は秘密の一つや二つあった方がミステリアスでかっこいいんだよ」
などとスカしたことを言うばかりで俊介はまともに答えるつもりが無いようだった。
その後も折りを見て度々同じことを聞いてみたがその度にのらりくらりと躱され結局、現在に至るまで本当の理由は聞けないでいる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます