二人は霊媒師 4

新宿にある黒を基調としたあるBARで

「七星君そこを何とか・・・」

とお願いするも七星京采(ななせ けいと)は頷いてくれない。

「俺本当に怪奇現象があって大変なんすよ。」

と言うも無表情のまま頷いてくれない。

「ちょっと~七星ちゃんを困らせないでくれる?」

と横から入ってきたのは店長の現哉だ。

「俺、本当に困ってて今住んでいる家が怪奇現象が凄くて・・・」

「そうなの?七星ちゃん困ってるなら助けてあげたら?」

と現哉が七星に言うが七星は

「いえ、YouTubeに動画を載せないなら良いですけど載せるって言うからお断りしているんです。」

「え?YouTube?」

と現哉が俺を見る。

「ええ、俺YouTuberなんすよ!ほら、30万人登録者のステラーズと言えば分かりますか?」

「ごめんなさい、私YouTube観ないのよ。七星ちゃんは知ってる?」

「名前だけなら。」

「お!七星君!それなら俺の番組に出てくれない?」

「嫌です。俺顔出しとかしたくないんで。」

「えー!!そんなにイケメンなら出した方が絶対良いよ!!モテるよ?」

「俺モテたくないので。」

「現哉さんからも七星君に出演して貰えるように頼めません?俺マジで困ってるんすよ。」

「何に困っているの~?」

「現哉さんそれ聞いちゃいます?俺今再生回数が伸びなくてマジで何か大きな事をしないとこのまま登録者数も減ってきているしヤバいんすよ。」

「再生回数伸びないとそんなに大変な事なの~?」

「いや、大変とかじゃないっすよ!俺の仕事が減るんで収入が減っちゃうんすよ!それで今やっているのが事故物件に住んでみた!って奴で・・・」

「自分から怪奇現象に悩まされに行ったの??」

と現哉が驚く、俺はそんなの当たり前だろという顔で

「ええ、だって撮れ高無いと困るし。」

「撮れ高って?」

「具体的に言えばこの動画を再生して貰えるように良いシーンを詰めることっす!」

「それで七星ちゃんのイケメンの顔で除霊すれば動画再生が伸びるって言いたいのね?」

「そうっす!!七星姉弟と言えばSNSで有名ですし、その中でも女性に圧倒的に人気な七星君が動画に出てくれたらどれだけ再生数が伸びるか。」

「俺嫌ですよ、取材とかも基本断ってますし。そんなに怪奇現象に悩むなら引っ越せばいいじゃないですか。」

「そんな事をしたら動画が撮れないじゃないっすか!七星君協力してください!もちろんお金払うんで!」

「お金とかそういう問題じゃなくて、それに姉さんがそういうの許してくれないと思うんで。それに姉さんと一緒に居る時間増やしたいですし、最近姉さんが忙しくて一緒に居られないんで。」

「あら、お姉さん忙しいの~?」

と現哉が言う。

「ええ、ある人物の協力をしてから忙しくて。俺は学校があるからって言われて協力させて貰えないんで。少しでも時間見つけては一緒に除霊とかしたいんです。」

と七星は空いたグラスを提げると洗い物をし始めた。

「でもさ~それって七星君が力があったら忙しくても頼ってくるんじゃ無いの?」

と俺はメニューを広げながら言うと図星だったのか

ガシャーン!!

とグラスを流し台の所に落とした。

「あら!七星ちゃん大丈夫?怪我は?」

「大丈夫です。割れていないんで。大きい音を立ててすみませんでした。」

と現哉に謝る七星を見て俺は閃いた。

「七星君ってさ噂によるとBARに来た人の悩みを聞く専門で実際に自分で除霊とかした事が無いの?」

「基本は俺は小さい霊を祓う専門なんで。姉が強い霊を祓う専門なんで。」

と不貞腐れた顔をしながら七星が言う。

その顔すらも格好いいのか他の場所に座っている女性達がヒソヒソと小声で(格好いい)と言っている声が聞こえる。

イケメンはずるいなと思って七星を見る。

七星は噂通り背が高く足が長い、そしてハーフ顔で一見みたらモデルのようである人がタイタニックに出ていたレオナルドディカプリオに似ていると言っていたのが分かるくらい整った顔をしている。男の俺でも惚れてしまうくらいのイケメンだ。

このお店に来て一時間経過するが無表情な姿と不貞腐れた顔しか見れていない。接客ならば現哉のように笑顔で話してくれたら良いもののそれが一切無い。

ただ周りを見る限りではその無表情が良いらしく女性達はその無愛想な態度に夢中になっているようだ。

「それで七星ちゃんにその除霊をして貰って居なくなったらどうするの?」

と現哉が俺に聞いて来た。

「その力が本物なら他にも試したい事があるんです!例えば心霊スポットとか!!」

「俺はしないぞ。」

とすぐに七星から拒否が入る。

「自らそんな場所に行っていたらキリが無いし、その場所に居る人達はその場所に行かない限り何もしてこない。わざわざ人の居場所を荒らすような事は絶対にしない。」

「分かったよー、例えばの話だよ。それにステラーズで募集したらもしかしたら呪いで困っている人が応募してくるかもしれないじゃん。そうすれば小さい呪いかも知れないけれども七星君の力の修行にもなれそうな気がするんだよね!」

「それは・・・・」

と七星が言葉に詰まる。

「お姉さんの傍に居たいのは良いけれどいつまでもお姉さんに頼ってばかりじゃどうかと思うよ。」

と俺は言ったら

「それは確かに・・・俺に力あれば姉さんの役に立つし。」

と七星は迷い始めた。俺は七星をジッと見ていると

「この後にある休憩時間に姉さんに電話で聞いてみます。でも顔出しとかは一切しないでください。」

「顔出しはNGか~それは仕方ない!モザイク掛けるよ~。」

と俺は渋々承諾した。

「しかし、七星君ってそんなにお姉さんと仲が良いんですね~!」

と俺が言うと

「この子本当にお姉さん大好きなのよ~!」

と現哉が言ってくる。

「大好き?」

と現哉に聞き返すと

「そうよ~お姉さんの事になると凄い真剣なのよ~」

「それってシスコンって言うやつじゃ・・・」

と俺が言いかけると七星君が俺を睨んできた。

「ごめん!いやそうかな~と思って言っただけ!」

と慌てて否定すると

「姉さんは美しい人なんだ、その人を守るのは当たり前だ。」

と今度は無表情ながらも自信ありげに言うので心底姉が好きなシスコンの残念なイケメンなんだと俺は思った。

暫くすると七星は休憩に入った。

「それでお姉さん許可出してくれた?」

と少し前に休憩に入って帰ってきた七星君に話を聞くと

「姉がいざという時に電話越しで聞けるような状況だったら良いと。何かあったら電話をしてきてと言ってた。それが守れるなら一人で行っても良いって。」

「お姉さんも結構弟思いなんですね。」

と俺は言葉を選んで言う。これで機嫌を損ねたら俺のYouTube人生終わってしまう。

俺は少しでもそれを阻止しないといけないと思ってこれから七星に話すときは言葉を選ぶことにした。

「こんにちは~。それともこんばんは~ステラーズです!!今日はなんとあの有名な霊媒師のイケメンに来て貰いました~!本人希望の為に顔出しはしておりません!!」

と俺がカメラに言うと七星はその姿を異様だと言わんばかりの顔で見てくる。

あれから俺達は日にちを合わせて俺の家に来て貰うことになった。

一度カメラを止めると

「七星君どうしてそんな嫌な顔をするんですか?」

「いや、余りにも変だったので。」

と素直な答えが返ってきた。確かに一人でカメラを回した時にだけ大きな声を出してカメラに向かって話す程滑稽な事は無いかもしれない。

カメラマンがいれば話は別だが一人で撮るとなると我に返った時に恥ずかしくなるのは事実だ。でもそれを乗り越えて楽しい動画を撮って視聴者に届けるのがYouTuberの仕事でコメントで面白かったという声を貰える度にやっていて良かったとまた他にも楽しんで貰える為の動画を撮ろうと思えるのだ。

「七星君は分かってないんすよ。この努力があるから観て貰えて楽しんで貰えたら嬉しさが増すんですよ。」

「そうなんですか、俺の知っている世界とは違ったんで。」

と無表情で答える七星君は今日もイケメンだ。

「ねえ、本当に顔出ししちゃ駄目なの?」

「駄目です。」

「鼻から下だけでも写させてよ。」

「それも嫌です。」

「何でですか?」

「姉が顔出ししていないので俺もしたくないからです。」

「またお姉さんすか、まあ七星さんの名前を出して良いなら良いですけれど。」

「名前くらいなら良いですが顔は本当に止めてください。」

「分かったすよ。それじゃあ続き撮るんで自己紹介してください!」

と俺は言うとまた録画ボタンを押した。

「今日来てくれた方は七星京采さんです!!」

と俺はすぐに七星さんをカメラの前に移動させる。

「自己紹介をどうぞ!」

「七星です。宜しくお願いします。」

「七星君!固い固い!もっとリラックスしないと!他に自己紹介ある?」

「特には・・・」

「えー!今日モザイク入れてますけれど本当にイケメンなんですよ!SNSでもイケメンで有名ですし、しかもメディアには一切顔出しをしないというクールさ皆さん最高でしょ?ヒーヒー女性ならなるでしょ?俺も隣に居てヒーヒー言ってますよ!ハハハ」

と笑いながら俺は手を叩く。

「今日はどうしてこの七星さんを家に呼んだかと言いますとこの家、皆さんのコメントでも人が映っているや音がすると書かれている通りこの家出るんですよ。実はこの家大家さんから聞いた話によると小さい子が家の中で亡くなったという話を聞いてまして。それで俺はまあ家賃も安いし良いかなと思って借りた訳なんですけれど、案の定借りた次の日から怪奇現象が起きてまして。」

と俺はこの動画を撮り始めた経緯を話す。

「何でもここで亡くなった子は家の前にある道路で亡くなった子で今でもここに帰ってきているようなんです。それでその子を成仏させたくて今日は霊媒師の人に来て貰ったという訳なんです。」

「七星君、本当の話ここ居ますよね?」

「と言うと?」

「だーかーらーここに亡くなった霊が住み憑いているって話!七星君話聞いてた?」

と俺は笑いながら言うと七星君は真面目な顔で

「住み憑いていないですよ。」

とサラッと何も無いかのようにして言った。

「え?」

「住み憑いてないです。」

「でもコメントにも来たり、結構怪奇現象しているんですよ?」

「そうですか。でも居ないですよ。」

俺はここでカメラを止めた。

「ちょっと七星君話が違うじゃないですか!ここは居るって言ってくれないと困りますよ!」

「いやでも居ないのに居るとか俺ここに来た必要あります?これヤラセですよね?わざわざここまで呼び出しておいてBARまで来てヤラセとか俺理解出来ないんで帰って良いですか?」

「困るよ!お金払うからどうか話合わせてよ!」

「無理ですし、時間の無駄です。」

「そこを何とか!」

と頼むが七星君は無表情のまま玄関に向かって行った。

俺は七星君を止めると七星君は

「これ以上は刺激しない方が良いですよ。ここで引き返せば何も起きませんがこれ以上だと知りませんよ。」

と言った後帰ってしまった。

俺は最後の言葉が分からなくて立ち尽くした。

どうしようこのままだと動画がお蔵入りになる。

それに七星君が出てくれないと困る。そうじゃなくても前の動画でホラー系がある事を匂わせしているし、皆が心霊関係の動画が上がるのを楽しみにしているのだ。

俺はそのコメントが増えている状況もリアルタイムで読んでいる。

その事を考えるとどうしても七星君が出てくれないと俺が怖がっているだけでは動画として何も面白くない。

どうした物かと思って俺はカメラを片付けに撮影部屋に戻ると良い案が浮かんだ。

そうだ、さっき話した小さい子が轢かれた道路を映せば良いんだ。それでその話をしてここまで霊が来ていて悩んでいるという事にすれば良いんだ!と思った。

俺は早速カメラを持って道路に出てカメラを回す。

「先程お話しした例の道路です。この人気が少なく車の数も少ない見渡しが良い道路で悲しい事故が起きたのです。詳しく道路を映せませんが道路の端には今も花束が置かれているようにこの事故はとても悲惨な事でした。」

と俺は道路の端にある花束を映す。

「少しでも供養になるように俺は水を掛けてあげたいと思います。熱中症になったら困るからね。」

と言って家にあった水を掛けると花束が水の勢いで倒れる。俺は

「やべ、倒しちゃった。ん?なんだこれ。」

と花が倒れたことによって見えた手紙が見えた。

「何だろ、この手紙。読んでも良いかな。」

と俺は手に取る。その手紙は濡れても大丈夫なように透明な袋に入っていて表紙には

『元気でね。』

と書かれていた。

俺はその手紙を手に取り袋から出す。カメラは固定出来ないので道路に倒れないように置いて録画を回しながら中身を見る。

『鳴海ちゃんへ

今何をしていますか?身体は痛くないですか?私は鳴海ちゃんがもうこの世にいない事が信じられません。ママがもう鳴海ちゃんと遊べないよって言って来た時はさみしくて悲しくてとても泣きました。鳴海ちゃんとたくさん一緒に遊んだ日のことを忘れないよ。ずっと友達だよ。』

と書かれていた。

「ここで亡くなったのは鳴海ちゃんって言う子だったそうです。文字は写せないんですけれど小さい子が頑張って書いたって分かる文字です。きっとこの鳴海ちゃんと仲が良かったんでしょうね。」

と俺はその手紙を持って家に帰った。

俺はその手紙をもう一度カメラで読み直す。

「この手紙どうしようかと思ったけれども、俺の家に遊びに来ているのが鳴海ちゃんなら見やすい所に置いた方が良いと思って。この手紙を持って帰って来ました!!これできっと鳴海ちゃんはこれで成仏出来ると思うんです!皆さん、今日からカメラを常に回して何も無いかどうかを確認・・・」

ガタン

「え・・・何の音だろう?お風呂場から何か音がしました。少し待っててください。」

俺はカメラを持ってお風呂場に行く。

お風呂場の電気を付けると誰も居ない。ただボディーシャンプーが下に転がっていた。

「なんだ~ボディーシャンプーが落ちただけでした。焦った~でもなんで落ちたんだろう。」

俺は言いながらボディーシャンプーを拾うと

ガタンとまた何かが落ちた。

後ろを見ると歯ブラシ立てと歯ブラシが落ちていた。

俺は何だ?と思いながら無言で拾う。

「何でしょう。さっきから物が落ちてくるんだけど、またあれかな~怪奇現象かな?」

と言いながら一人で笑う。

「これを拾ったら小さいカメラをキッチンを中心にあちこちに付けて行くので見ていてください!じゃあまたね!!」

と言って俺は録画ボタンを止める。

「ふー、それにしてもなんで物が落ちたんだろう。」

と独り言を言いながらキッチンに戻ると小型カメラを用意した。

本当は七星君が除霊した後何も起こらなくなった事を証明したくて買ったカメラを予定変更して手紙を読んだことによって鳴海ちゃんが除霊されたという事でストーリーを投稿する事に変更した。

「よし、寝室にも置いて」

と言いながら色んな所に設置する。

「よし出来た!!」

俺はキッチンと寝室、玄関、洗面所にカメラを付けた。

これで何も起きなければ俺は自分で霊を押さえ込んだ事になる。

これが実証出来たらこれから霊能者YouTuberとして活動出来るかもしれないと思った。

どんどん心霊スポットに行って霊を鎮められたらきっと動画再生数も増える。

「これは忙しくなるかもな~」

と言って俺はコーヒーを飲みにキッチンに向かった。

「それで七星君大変なんだって!ちょっとこれ観てよ!」

と俺は七星君が居るお店にまた来ていた。

「どうしたのよ~もうちょっとお水でも飲みなさい。」

と店長の現哉さんが俺にお水を差し出して来たので俺は差し出された水を一気に飲み干した。

「この動画観てください。誰か居るんですよ。」

と俺は小型カメラで撮った動画を見せると

「貴方そう言えばこの間怪奇現象が起きるって言って七星ちゃんを連れて行ったじゃ無い。その時は何も無かったの?」

と現哉さんが俺に言うので

「その日はどうしてか七星君何もせず帰ってしまって。」

とカクテルを他のお客の為に作っている七星君を見ると七星君は知らん顔をしながら店内を見ている。

「七星君も見てよ!」

と俺は七星君に言うとチラッと俺を見てお酒をグラスに注いでお酒をお客さんに出しにテーブル席に行ってしまった。

俺は

「現哉さんどう見えます?これ人ですよね?」

と動画を見ている現哉さんに言うと

「そうね~そう言われたらそう見えるけれどたまたま影みたいなのが映ったというのもあるわよ。」

「そんな事無いんです!!これは絶対幽霊なんですよ。俺この日金縛りに遭ってその映像もあるんで見て貰っても良いですか?」

と俺はとある二日前に撮った動画を見せた。

二日前俺はいつも通りに撮影した動画の編集をして仮眠を取ろうとベッドで寝た。

少し寝たつもりがふと目を覚まし天井を見る。

すると視界の端に何かが居るのが見えた。

俺はその視界の端に映る何かを見ようとしたら身体が岩のように固まって動かなかった。

焦りもあったがよく金縛りは脳が起きていて身体が寝ているから動かないと聞いた事がある。要は眠っているのに起きていると錯覚するのだ。

きっとそうだろうと思ったがその何かの様子が変だ。

ユラユラと揺れながら俺の方に一歩ずつ近づいてくる。

少しずつ俺の視界に入ってくる何かは髪の毛が長くピンク色のワンピースを着ている。

俺は

(女?)

と思いながら俺は近づいてくる女らしき者を俺は見続ける事しか出来ず、ただベッドの上に硬直しているしか無かった。

ユラユラ身体を動かしながらその女は視界に少しずつ入ってきてどんどん俺に近づいてくる。そうして視界を占めていく女を俺は避けたくても避けられない。

「う・・・う・・・」

と何かを言っている女に俺は必死に身体を動かそうとするが動けない。

(動け!動け!)

と思うが動かず脳の誤作動だと言い聞かせながらも

(早く動けよ)

と俺はパニックになっていた。危険を感じているのに動かない。

俺は動こうと必死にもがくが動けず、どんどん女は視界を独り占めしていく。

段々女の顔が見えてきた。のっぺりしたその顔は鼻が低く、目も空いているのかというくらい顔がそぎ落とされた感じだった。

俺は声が出ない悲鳴を挙げる。

女は俺の顔にそぎ落とされた顔を近づけると

「返せ・・・返せ」

と言った。

その瞬間女は忽然と消えた。

女が消えると俺の身体は一気に軽くなり硬直していた身体が解け自由に動けるようになった。

「うわーーーーーー!!!」

と声を上げると俺は急いでカメラの記録を見た。

汗が床に落ち手元が震えているがそんな事を今考えている暇は無い。

この証拠を残しておかないとと思った俺はスマホで動画を録画しながら今起きた出来事を確認した。

動画に映る俺は寝ているようだったが画面の端にははっきりと女が映っていた。

女は俺をジッと見つめた後両足を引きずるようにしてズルズル近づいてきたかと思ったら俺の顔をジッと覗き込んでいた。

「何だよ、コイツ」

と俺が言ったタイミングで画面の中の俺は悲鳴を上げたのである。


俺はその話をしながら現哉さんとテーブル席から戻ってきた七星君に見せる。

「これはお姉さんに相談した方が良いかもしれないわよ?しっかり誰か映って消えたのは確かなようだし」

と現哉さんが七星君に言うが七星君は何か考えているようだった。

「七星君は俺の家に来たときにどうして何もしてくれないで帰ったの?」

「何も居なかったから。」

「え?」

「怪奇現象が起きていると言っていたけれど何も居なかった。何か居たら俺が来る事を風の噂で一早く気づいて拒否をすると思うんです。それが無かったので。」

「それで何もせずに帰ったの?お陰で俺はこんな目に遭ったんだけど。」

「何故そんな事になったのか俺には分かりませんし、その女性についても俺は動画越しでは良い霊か悪い霊か分かりません。ただ、今貴方がここに居て見ている限り何かが憑いてきている訳では無いです。」

「俺に憑いてきていない?」

「ええ、色も平気ですし。ただ前回から比べたら色が変化したのは見えます。」

「色?」

「ええ、俺最近分かってきたんですけれど人から色が見えるんです。」

「俺の色は?」

「青です、以前はまだ明るい白が入った青色だったんですが今日は群青色をしています。」

「色って変化するの?」

「俺が見る限りではその人の心が色に影響を与えているみたいで色の濃さは相手が何か思い詰めている時とか何か良くないモノが近くに居る時に変わるみたいです。」

「そう、それで俺の色は変化していると。」

「ええ、変化の原因がその動画の女性とは分からないですけどでも明らかにその女性はステラーズさんに向かって何かを伝えたいのは確かかと」

「俺に何かを伝えたい?」

「ええ、その女性に会えば分かると思いますが。」

「それなら話が早い、七星君もう一度俺の家に来て今こそ除霊して欲しい。金はもちろん前回言った金額でそれに動画も撮らせてくれたら少しは弾むから。」

「・・・・まあ顔を出さなければ良いですけど。」

「何々?動画に出るの?私も混ぜてよ~」

と現哉さんも何故か入ってきたので俺は

「現哉さんもですか?もちろん構いませんけど七星君にはお金払いますけど・・・・」

「いやね~付き添いよ~一応七星ちゃんは私の店の従業員だから!動画に載るならついでにお店の宣伝もさせて欲しいのよ~あ、七星ちゃんはモザイク必須よ?イケメンが映ったらお店激混みしちゃうもの~」

と手をぶりっ子するように振る現哉さんに俺は正直引いた。

「それで日にちなんですけど、少し時間を頂いても良いですか?」

と七星君は何かを考えながらボソボソと言う。

先程の無表情さから少し顔つきが真剣な顔になる。その顔もイケメンだから顔が良いは本当に得だ。

「構わないけれどもどうして?

「準備をしたいんです。なにしろ一人では初めての除霊なので。」

と七星君は携帯を出すと画面を操作しながら話す。接客としてはいけない行動だが隣で七星君の携帯の画面を見ている現哉さんが何も言わないから必要な事をしているのだろう。

「一人で除霊した事無いの?」

と俺が聞くと

「俺は基本ここに来て頂いた方をその場で除霊しかした事無くてどこかに行って除霊は初めてなので。」

「なーんだ除霊自体はした事あるのか、でも出張除霊は初めてなんだね~それは宣伝しがいがあるな~」

「あまり俺の名前を出さないでくださいね。俺どこかに行って除霊するの基本していないんで。ただ、前回は怪奇現象が起きると言っている割には何も憑いていなかったので不思議で行っただけで今回は前回見落としがあったのならそれは俺の責任なんで。」

「イケメンで責任感がある男はモテるな。ねえ、幽霊関係無しの会話になるけれど七星君は彼女いるの?」

「いません。」

「え?でも大学生ならサークルとかでそこまでイケメンなら女から言い寄って来るじゃん。」

「サークル入って居ないんで。」

「それでもナンパとかされるでしょ?俺でも大学の時に後輩から声かけられた事あるよ?連絡先交換してくれませんか?て、絶対七星君ならあるでしょ?」

「連絡先は交換しません。俺そういうの苦手なんで。」

「えー、じゃあ今まで彼女いたことは?」

「言いません。でも俺には姉さんが居るので彼女とかどうでも良いです。」

「え?」

「こら七星ちゃん、お店でお姉さんの話はしない約束でしょ?貴方のイメージが崩れるから。」

と現哉さんに七星君は会話をするのを止められるものの感情が高ぶって止まらないのか

「俺には姉さんが居るんです。」

「あ~姉弟がいるって事?」

「腹違いですがそういう事じゃ無くて彼女なんか居なくても姉さんが居るから要らないんです。」

「ん?」

「聞こえないんですか?俺には姉さんが居るから彼女なんか要らないって言ったんです。」

とムキになって言う七星君は先程の無表情でクールな姿から想像出来ない位小さい子供に見える。

「もしかして七星君ってシスコン?」

「シスコン???なんで俺がシスコンなんですか?」

「もしかして自覚無いの?よく言われないシスコンって」

「言われますけど、姉さんの美しさを見たら皆そうなります。まあそうなったら俺が許しませんけど。」

「怖いよ、でもそんなイケメンに慕われるなんてどんなお姉さんなの?」

「取材はさせませんよ?」

「取材じゃ無くてただの質問!」

「それなら良いですけど、姉さんは俺が原因で家族がバラバラになったのに俺の事を許してくれて今は一緒に暮らしているんです。俺が一人にならないように見守ってくれてて、いつも美味しいご飯も作ってくれるし、霊媒師として何倍も努力して人を救う事だけを考えて力をコントロール出来るように日々努力しているんです。俺はそんな姉さんを尊敬しているんです。」

「姉さん大好きという感じより尊敬の方が大きいの?」

「それは分からないです、ただ姉さん以外の人はどうでも良い。」

「ざっくり切ったな~、それは重度のシスコンだ~」

「シスコンも何度も言われているのでどうでも良いです。」

「もう~七星ちゃんったら~お姉さんの話はそれ以上しちゃ駄目よ?私ちょっと休憩しにスタッフルームに行くけど。」

と言って現哉さんは休憩に入ってしまった。

俺と七星君だけが残り俺はお酒を飲みながら

「現哉さんはああ言ってるけれどどうしてお姉さんの話をしちゃ駄目なの?」

と七星君に聞く。七星君は俺の空いたグラスを提げてメニュー表を渡して来ながら

「この間お客の女の子とトラブルになって」

「何のトラブル?」

「俺が姉さんと買い物に行っている時にたまたま姉さんが靴擦れを起こしたので俺が支える為に腕を組んでいたんです。それを見られたらしくてあの女は誰としつこく聞かれて、俺は何も隠すことが無いので姉だと答えたら何故姉と腕組みをするのかと聞かれて、俺は普通に姉が怪我したからと答えたらそんな小さな怪我をしたら腕組みでも手を繋いでもくれるのかと聞かれたので、貴方が怪我をしようと勝手ですが俺には関係無いです。と答えたら凄く怒鳴れて。」

「言い方が悪かったんだな。」

「でも、姉さん以外の人が怪我をしても俺何もしないですよ?」

「姉さんと俺が溺れていたらどっちを助ける?」

「絶対姉さん。」

「ぶれないね~、お姉さんはそんなに綺麗な人なの?」

「ええ、とっても」

「そんなにうっとりした顔で言わないでよ。もしお姉さんに彼氏が出来たらどうするの?」

「出来ませんし、出来させません。」

「そんなの分からないじゃない、いつかは結婚するかも知れないでしょ?七星君のお姉さんだからきっと綺麗な人なんだろうし男だってそんな綺麗な人が居たら黙って居ないでしょ?」

「今の所誰か寄ってきたらGPSで分かるので大丈夫です。常に連絡も取り合ってますし、風達も姉さんの危機が迫ったらすぐに教えてくれるので。」

「そんなにお姉さん雁字搦めにされているの?」

「雁字搦めなんてしていないです。ただ、姉さんに近づく男は許さないだけです。」

「七星君って意外と情熱タイプなんだね。もっとクールかと思ってた。」

「姉限定ですけど、それ以外の人間には興味無いんで。」

「はー、これは七星君がモテても彼女が出来ない訳だ。」

「ええ、要らないですし。」

「そんなにイケメンなのに勿体ない~レオナルド・ディカプリオに似ているって言われない?」

「ああ、タイタニックに出てた。お客さんにはそう言われます。」

「でしょ?あの目が合っただけで惚れるという噂のレオナルド・ディカプリオに似ているのにどうしてそんなに姉さん、姉さんなんだよ。勿体ない!!」

「そう言われても。」

「お姉さんは誰に似ているの?」

「姉は分からないですけど、お客さんの中にはエマワトソンに似ていると言われていました。」

「すっげー美男美女じゃん!どうしてそれを売っていかないの?そんな美男美女なら休み無しにあちらこちらで声かけられて下手したらテレビにでも出られるよ?」

「姉さんがメディアに興味無くて、それに俺達の力はボランティアでしているのであって金銭はお気持ちしか貰わないって決めているんです。」

「ボランティア?」

「ええ、姉が何でも昔から見える体質で呪いというか邪悪なモノに対しても自己流で学んだので資格があるわけでは無いからボランティアでしかしないっと言っていて。」

「へー、俺なら絶対バズる為にその力利用するけれどね。」

「今回は絶対モザイク掛けてくださいよ?」

「大丈夫、大丈夫。その辺はしっかり守るから、安心して?」

「もちろん、姉は連れて行きませんからね?」

「それはいつかは会わせてよ~そんなに七星君が尊敬して大好きなお姉さんに会ってみたいよ。」

「それは無理です。」

と七星君は頑として首を立てに振らなかった。

「それでここが貴方のお家?」

と現哉さんがフリフリのレースが付いた日傘を差しながら俺のマンションを見上げる。

「YouTubeだけでこんなに素敵なマンションに住めるのね、夢がある仕事じゃない。」

とお城でも来たような仕草で現哉さんはうっとりとマンションを眺める。

「現哉さんの私服ってそんな感じなんですね。何て言うかフリフリと言うか。」

「そう?これでも今日は地味な方よ?だって動画に出るんですもの、恥ずかしい格好は出来ないじゃ無い。」

「七星君、本当に現哉さんも一緒に映って良いの?」

と俺は現哉さんに聞こえないようにコソッと七星君に話す。

「良いんじゃないですか?俺は興味無いんで。」

「冷たいな~まあ、いいや。これから部屋に入りますけれど動画は部屋の中で撮るので現哉さんのお店の宣伝は最初にして最後にサイトを載せるので良いですよね?」

「ええ、それで構わないわ!これできっと沢山のお客さんが来るわね!」

「きっとそうなると思います。現哉さん一人で映ってもインパクトありますし」

「そう?メイクもして来たら良かったかしら。」

「それは要らないです。」

と俺と現哉さんが話ながら部屋に向かって居る後ろから七星君は辺りをキョロキョロとしながら付いてきた。


「どうぞ、俺の部屋です。」

と言って玄関のドアを開いて中に二人を招いた。

「おじゃましまーす!まあ、中も綺麗ね~」

「ありがとうございます。七星君も中に入って。」

と七星君を促す、七星君は何かが気になるのか頻りに後ろを気にしているようだった。

「何かあった?さっきから後ろを気にしているけれど。」

「いや、前回無かった感覚がしているので変だなと思って。」

「やっぱり居るのかな?」

「それは分からないです。ただ、変な感じがするだけで。」

「何か居たらすぐに言って、カメラそっちに向けないといけないから」

「ええ。」

と七星君は相変わらず無表情のまま心ここにあらずという感じで返事をする。

俺は大丈夫かな~と思いながら撮影部屋まで案内すると早速カメラを固定した。

「現哉さん達そこに荷物置いてください。それでこのソファに座って貰えたら画面内になるんで。これから俺が一人で話してから二人を映すんでそうしたら現哉さんから自己紹介して貰っても良いですか?」

「ええ、良いわよ。緊張するわね~七星ちゃん!」

「いや、緊張はしないですけど。」

「本当に今日もクールね!全く少しは緊張しなさいよ!もう!」

と不貞腐れたように頬を膨らます現哉さんに七星君は無表情で返す。


「それでは、こんにちは~あるいはこんばんは~ステラーズです!今日はなんと新宿にある知る人ぞ知る有名な霊媒師が働いているBARの店長さんとその霊媒師の人が来てくれました~!!紹介しますね!」

と俺は画面を俺の顔から切り替えて現哉さんと七星君の方に画面を切り替えた。

「こちら、髭を綺麗に揃えて見た目は体育会系の店長現哉さん!」

「どうも~現哉です~」

「ちょっと話し方も今日の私服もお姉さんみたいな感じですが、仕事をしている姿はとっても素敵な人です!」

「やだ~!そんな褒めないでよ~」

「はーい、現哉さんの隣に居るのは今回特別に来てくれた霊媒師の七星君です!今回本人の希望でモザイクを掛けてますが、BARに行けば会えるので成人している方のみ会いに行くことが出来ます。未成年の学生さんは申し訳ないのですが入店が出来ないのでそこはご了承ください。後現哉さん」

「なーに?」

「子供連れはどうなんでしょうか?」

「子供もごめんなさいだけどお断りしているの~時間も時間で危ないから小さい子が居るお母さんは早めに切り上げて貰う事にしているの、私のお店が原因で子供が寂しい思いをさせるのは良くないから~」

「売り上げよりもその人の家庭を守る感じなんですか?」

「それはそうよ~羽休めも大事だけれど子供を夜中に一人にするのは危ないもの~」

「という事なので相談がある場合のみ以外のお母様達はあまりお店に迷惑は掛けないでくださいね!ステラーズとの約束ですよ?あと、七星君の事についても注意があります。七星君は一般方なので盗撮などはご遠慮ください。この動画が出たらきっと皆七星君がどんな人物かとか顔を見たくなると思うけれども彼は一般の方なのでストーカーは勿論盗撮やお店での出待ちも止めてください。そういう人が居たら皆で注意してください。」

俺は七星君が動画を回す前に嫌だと言っていた事を注意として挙げて話した。

「それでは、皆さんにはこれからある動画を見て貰います。実はこれはこの家で起きた出来事です。」

と言って俺は一旦録画ボタンを止めた。

「はい、一旦休憩します。いやー緊張しました?」

「もー、緊張しすぎて何も宣伝出来なかったわ~、もっと宣伝する所あったのに~」

「いや、最後にお店のPR動画も流しますしサイトも載せますので大丈夫ですよ。」

「そう?それなら良いんだけど~ていうか七星ちゃんはどこまで動画に映るの?」

「顔は強めのモザイクを掛けるのでほぼ声だけなのでお店の宣伝の人物は現哉さんだけになります。」

「あら、本当?それなら良いわ。七星ちゃんとの約束で顔出しは一切しない約束だから安心したわ~」

「大丈夫です、その辺はしっかりしてますんで。あ、お水持って来ますね。」

と俺は冷蔵庫に冷やしていたペットボトルを持って来ようとキッチンまで行った。

すると

カタン

と風呂場の方から何かが聞こえた。

俺はすぐにペットボトルを冷蔵庫から出して七星君達に渡すとカメラを持ってすぐに撮影ボタンを押して風呂場に向かう。

「どうしたの~?」

と撮影部屋から現哉さんが声を掛けて来たが俺はそれには答えずに音がした方に向かった。

「今、音がしたので急いでカメラを回しています。」

と言いながら風呂場を覗く。

風呂場の床にはボディーシャンプーがまた転がっていた。

「まただ、またこのボディーシャンプーだけ落ちている。実は前回もこのような事が起きていて・・・・・待って?何この文字。」

と俺はお風呂場の壁に設置されている鏡を映す。

「帰れ?帰れって書いてある・・・・七星君!ちょっと来て!」

と俺はすぐに七星君を呼んだ。

七星君はすぐに撮影部屋から飛んで出てきた。

「これ見てよ、帰れって書いてあるように見えるんだけど・・・・あれ?文字が消えてる。なんで?」

俺が七星君を呼んだ後すぐにまた鏡を見るとそこには曇りガラスになっているだけで文字が消えていた。

七星君は鏡に近づき手の平で曇りガラスを撫でるとその手で拭いた所だけ鏡が綺麗になって七星君の姿が映る。

「何が起きたのか今撮った画面を見て欲しい。」

と言って持っていたカメラの映像を七星君に見せた。

最初はボディーシャンプーが映っていたが俺が文字を見つけたあたりで鏡に焦点が合う。そこにはハッキリと帰れの文字が書いてある。俺がカメラを鏡に向けたまま七星君を呼んでいると鏡の内側から曇りが浮き出るようにして文字が消えた。

「これって怪奇現象だよね?」

と俺が聞くと七星君と後から来た現哉さんがその画像を見て

「これは・・・」

と言った。俺は怖くなって

「続きを撮ろうか!少し気持ちを切り替えて続きを撮ろう!」

と言って二人を浴室から撮影部屋に戻した。


「今緊急で起きた出来事を話します。実は皆に先日起きた金縛りについて観て貰っている間に起きた出来事なんだけど、今お風呂場でまた物音がしたので見に行ったら鏡に帰れという文字が浮き出てきたの!それで俺怖くなってこの部屋に戻って来ちゃったんだけど、七星君今何か居る気配はある?」

「・・・・・・いや、何かが居るという感じはしていないですけど、ここに来てから変な感覚はしてます。」

「変な感覚とは?」

「誰かに遠くから見られている感覚がしてます。」

「遠くから?」

「ええ、ここじゃない何処かから何かが見ているような。でも悪意があるように思えなくて。」

「なるほど、それを祓う事出来そう?」

「そのモノが無いと難しいですね。」

「モノとは?」

「例えば女の人がもう一度出てきてくれたり、文字が俺にも見えるようになれば良いのですが、今の段階だと俺を避けて出てきているとしか思えなくて」

「確かに、文字も七星君が来た時に消えたもんね。」

「ええ、そうやって見えないと何もこちらも出来なくて。」

「なるほど、そうしたら次に何か起きるまで待って居た方が良い感じかな。」

「ですね。また何か起きたら今度は俺も一緒に見に行きます。」

「おー、いやー本当に七星君が居てくれて良かった。これ一人だったら恐怖でどうしようかと思ってましたよ~ねえ、現哉さん?」

「そうよね~この映像見るだけでも怖いもの~」

と現哉さんは何度も頷いて俺を見る。

「この映像から分かるのは警告を出している事。それをどう受け止めるかですね。」

と七星君が言う。

俺はどうした物かと考えていると七星君が

「すみませんが一つだけ気になる物があるんですが家の中を見て回っても良いですか?」

と聞いて来た。俺は

「家の細かい所は家バレしちゃう可能性があるから動画には載せられないけれど七星君が見たい物があったら言ってくれたら見せるよ。」

と答えた。七星君は窓を全部開けさせて欲しいと言って全ての部屋の窓を開けに行った。

俺と現哉さんは部屋に二人だけ残って七星君だけ家の中を見て回る。

俺はそんな七星君を気にしながらも現哉さんに

「この現象マンションの近くで亡くなった子が俺の家に来ているから起きていると俺は思っているんですが現哉さんはどう思います?」

「あら、ここの近くで人が亡くなっているのね。それは可哀想に。その子はまだ小さいの?」

「ええ、確か小学生くらいだった様な・・・名前は鳴海ちゃんって書いてありましたけれど」

「書いてあったの?どこに?」

「あ、手紙です。七星君が前回俺の家に来た時に何も無いからと言って帰ってしまった時に見つけた手紙で」

「その手紙を読んだの?」

「ええ、事故現場の所に置かれていたので。」

「それでその手紙どうしたの?」

と聞かれた時部屋の入り口で七星君が

「すみませんがこの手紙読んでも良いですか?」

と聞いて来た。

俺と現哉さんはびっくりして

「うわ!」

「きゃあ!」

とそれぞれ声を挙げた。

「驚かしてすみません、この手紙から何かを感じるのですが良いでしょうか?」

と聞いてきた。その手紙こそ今話していた手紙だ。

「それです!!それ!その手紙を拾ったんです!」

と俺は大きな声をつい出してしまったが二人共気にすること無くその手紙に視線を向けていた。

「この手紙を七星君がこの間来て帰った後に見つけて。きっとここで怪奇現象が起きるのは手紙の子だと思って。」

と俺は七星君から手紙を受け取ると俺はその手紙を読んだ。

『鳴海ちゃんへ

今何をしていますか?身体は痛くないですか?私は鳴海ちゃんがもうこの世にいない事が信じられません。ママがもう鳴海ちゃんと遊べないよって言って来た時はさみしくて悲しくてとても泣きました。鳴海ちゃんとたくさん一緒に遊んだ日のことを忘れないよ。ずっと友達だよ。』

「手紙は以前の動画にも載せていたように動画には映せないですけどこう書いてあります。」

と俺はカメラに説明する。

「持って帰ってきたんですか?」

と七星君が俺に聞いて来た。

「持って帰ったんですか?あの時にここで引き返せと言ったのにその現場見に行ったんですか?」

と真剣な顔で俺に言う。

「ごめん、実はあの後動画がお蔵入りになるくらいならと思って事故現場に行ってお水をあげに行ったんだ。その時に見つけたのがその手紙で。」

「それでどうして持って帰ってきたんです?」

「だって、この家の怪奇現象を止めたくて。」

「ここの家に起きていたのは怪奇現象じゃないです。」

「え?」

「ここの家で起きていたのはただの家鳴り。家の柱が鳴ったりする現象でたまたま物が鳴った事が怪奇現象に思えただけでこの家にも貴方にも憑いてなかったんです。」

「じゃあ、さっきの文字は?金縛りだって」

「だから連れてきたんですよ、自分で。」

「俺、自ら連れて来ちゃったの?」

「ええ、ここの家には居なくて遠くからその人はずっと見ている感覚があります。」

「どうすれば良いの?」

「その手紙の持ち主を探すしかないです。」

「持ち主?」

「ええ、その事故に遭った鳴海ちゃんの存在は分かっているのであればその子の友人を探すしか無いです。」

「そんな途方が暮れること・・・・」

と俺は言いかけると

「俺は言いましたよ、引き返せって。それをしなかったのは自分ですよね?この手紙は今日俺が持ち帰ります。ステラーズさんは大家さんに電話してください。今すぐに鳴海ちゃんという子が亡くなった事を聞いて下さい。俺も姉に電話しますんで。」

と言って七星君はキッチンの方でスマホを操作するとお姉さんに電話し始めた。

俺は何が何だか分からなくて立ち尽くしていると現哉さんが

「ほら、大家さんの電話番号教えなさい。私が電話してあげるから。」

と言ったので俺は急いで引き出しから大家さんの電話番号を教えた。


「ええ、実は鳴海ちゃんという子について知りたくて。ええ、はい。そうです、マンションの近くで亡くなられた。ええ、あーそうですか。はい。」

と現哉さんが俺の代わりに大家さんと話している。

七星君はキッチンで

「うん、そう。この事故と関係するのかちょっと分からないんだよね。うん。声は聞こえない、今の所文字だけ。うん、分かった。」

と話している。俺はただその状況を呆然と見ているだけだった。

「話ついたわよ。大家さんが言うには太田鳴海ちゃんという子が亡くなったのは事実でマンション近くの道路で自転車とぶつかって亡くなったみたい。その子はまだ小学校一年生で近くに住んでいた大良祥子ちゃんという子らしいんだけど。どうも事故があった後すぐにお引っ越しをしちゃったらしくて今は何処に居るのか分からないって。」

「なるほど、今姉さんと話し途中ですが姉さんが二人に話したい事があるって。スピーカーにしますね。」

と言って七星君は携帯をスピーカーにして皆に聞こえるようにした。電話の向こうから凜とした声が聞こえてくる。

「こんにちは、突然会話の輪に入ってしまってすみません。先程の話で気になった事がありまして、京采から大体の話は聞いていますがステラーズさんに聞きたい事が。」

「はい!なんでしょう?」

「お風呂やキッチンの水を使っている時は何も起こらないのですか?」

「え?」

「お水を使っている時に何か視線を感じるや物音が起きたりはないですか?」

「え・・・・そういえば、キッチンに居ると必ず浴室で物音は聞こえて見るとボディーシャンプーが落ちているという事はありますけれど。」

「そうですか、その映像って見れますか?」

「映像ならあります。七星君に見せたら良いですか?」

「ええ、京采。何か異変があるかどうか動画を見て分かるか教えて。」

「分かった。」

俺は七星君の表情が引き締まった顔になったのを見て動画を再生した。

動画は俺がキッチンで七星君と現哉さん、二人にペットボトルを冷蔵庫から出している時の映像だ。

「この辺で確か落ちたはず」

と俺は動画を早送りをしながら再生する。

すると

「ガタン」

とボディーシャンプーが落ちた。

俺はすぐに巻き戻しをしてその部分だけを再生した。

「ここ!ここだ!」

と俺は言うと七星君が身を乗り出して動画を見る。

俺はその様子を見ながら動画内のボディーシャンプーがどのように落ちたのかを見ていた。

ボディーシャンプーは独りでにゆっくりと落ちて床に叩き落とされていた。

「これって。」

と現哉さんが言う。

「誰かに落とされたとしか思えないですよね。」

と俺が言う。

ボディーシャンプーは決して浴室の棚の端に置かれていたわけでは無くてちゃんと奥にシャンプーとかと一緒に置かれていたのである。

「シャンプーとかは平気なのにどうして。」

と現哉さんが言う言葉に俺は頷くしか返せなかった。

俺達三人の間に沈黙が流れる。

その沈黙を破ったのは七星君のお姉さんだった。

「どう?何か見えた?」

と電話越しで聞こえる声に七星君が

「何も、悪意があるとは思えない落とし方としか分からない。ただ、明らかに誰かが故意的に気づいて欲しくて落としたのは間違いないと思う。」

「そう、さっきから電話していてもそこに居る人達以外の声は聞こえないわ。風は何て言ってる?」

「何も声が聞こえない。身の危険を感じたら教えてくれると思ったんだけど。」

「そうね、木々達も何も言っていないわ。その事故で亡くなった魂は感じられないよね?」

「うん。その手紙からもその子は感じられない。」

「そうなると生き霊じゃないかしら。」

「生き霊・・・・」

「ええ、京采。生き霊はその人に気づかせないと元には戻らない。そうしたらその友達を探すしかないわ。差出人の名前さえ分かれば学校に問い合わせる事が出来るのに・・・」

と電話越しでお姉さんが溜め息を吐くので俺はすぐに

「名前なら分かります。でも学校に俺が電話しても対応してくれないんじゃ・・・」

「名前分かるんですか?それなら今警察の人が近くに居るのでその人に聞いて貰ったらきっと教えてくれると思いますよ。」

とお姉さんが言う。

「ちょっと待って、碧葉さん今日も家に来てるの?聞いてない。」

とスピーカーを外しながら七星君がお姉さんに文句を言う。

「仕方ないじゃないよ。なんで教えてくれなかったの?・・・・え?急に来たの?ちょっと碧葉さんに変わって、文句言うから。」

と生き霊の話よりも七星君は警察が家でお姉さんと会っている事に酷く感情的になっていた。

先程の真剣さは少し減ったように見えた。

「それでお姉さん何か分かりましたか?」

と俺は再び七星君にスピーカーにして貰ってお姉さんに聞いた。

「学校側はまだその子はその地域に住んでいて、今は近くの中学に通っているって教えてくれたわ。」

「その中学に行けば会えると言う事でしょうか?」

「ええ、ただ顔が分からないから会えるかどうかは・・・・・京采、その手紙を挟みながら持って学校に行ってみてもし何も変化が無かったら後日私がその手紙を持って中学に行きます。このまま生き霊を飛ばし続けたら良くないわ。」

とお姉さんはそう言うと電話を切った。

「何で生き霊を飛ばし続けたら良くないの?」

と俺は七星君に聞くと七星君は携帯をパンツのポケットにしまうと

「生き霊っていうのは魂の一部なんです。その一部が引き裂かれていると本人も良くない事が起きますし、魂が暴走すれば悪霊になることもあるんです。悪霊になったのを放っといてしまったら飛ばしている本人にもそれ相応の不幸が訪れます。」

「そうなったらどうしたら良いの?」

「その悪霊を除霊し罪を自覚しないと同等の不幸が訪れます。自覚し反省した上で除霊すれば悪霊化した魂も落ち着きを取り戻して元に戻りますが、自分がした事は元には戻りません。罪の意識は常に持ち続けるでしょう。」

「そうなのか・・・それで今回の怪奇現象を起こしているのはその手紙の差出人なのかな。」

「それは分からないです。ただ手紙と本人を会わせてみてこの家で除霊をすれば収まるかもしれません。」

「それなら中学校に行くか!放課後の時間だけれど部活の子達なら残っているかもしれないし。協力してくれるかも。」

「そうですね、言ってみましょうか。」

と七星君と俺と現哉さんはソファから立ち上がってすぐに出かける準備をして中学校に向かった。

「え?もしかしてステラーズさん?ファンです!!」

と俺が中学校に着くと俺の動画のファンだと言う子達に囲まれた。

「有り難う~実は今日皆に聞きたい事があるんだけれど、大良祥子さんって言う子を探しているんだけれど知っているかな~?」

「え?大良さん?誰だろ~」

とザワザワ話し声になる。

「七星君どうだろう?」

と少し離れた所に現哉さんと居る七星君に俺は話しかける。

「今風に聞いているんで、少し待っててください。」

と七星君は目を瞑って耳を澄ましている。

七星君の周りは遠巻きに女子生徒達が囲みながらヒソヒソと話している。

そんな様子を二人とも気にしていないのか七星君は手紙に集中し現哉さんは見守っていた。

「大良さんって吹奏楽部の子かな?」

と一人の男子生徒が言った。

「吹奏楽部?」

「ええ、確か吹奏楽部に同じ苗字の子が居た気がします。音楽室に行けば会えるかと。」

「ねえ、君その子に会わせてくれないかな?」

「え?良いですけれど。その子と仲が良いわけじゃないから案内する事なら出来ますけれど。」

「よし!七星君大良さん見つかったかも!」

と七星君に声を掛けると現哉さんが

「あら!本当?じゃあ早速会いに行きましょうよ!」

と言った。


俺達は男子生徒に案内されて中学校に入った。

正門を潜ってすぐに居る警備室でそれぞれサインをして許可証の札を貰い中に入った。

学校の中に入ると俺の動画を見ている子達が手を振ってきたりして俺はそれに答えつつ七星君の様子を見た。

七星君は手紙を両手で挟むように持ちながら歩いている。

「何か感じる?」

と聞くと

「いえ、まだ違和感しか感じないです。拒否をしない所からここに確実に大良さんが居るのなら悪霊にはなっていない、ただの生き霊の可能性が高いです。そうしたらその場で除霊も出来るかも。」

「本当?」

「ええ、悪霊だった場合は自覚して貰う為に家にと思ったのですがその必要は無いかもしれないです。」

「そうか。まあ、俺が最初に手紙を持って帰ってしまったのが始まりだもんね。」

「ええ、本当にそこは反省してください。」

と七星くんに怒られた。

俺は小さくすみませんと謝った。

「二階の奥に音楽室があります。」

と言って男子生徒が音楽室に案内してくれる。

俺達はその子について行きながら卒業以来の学校に俺は懐かしさを感じた。

「七星君はどんな学生だったの?」

と俺はふと気になって七星君に聞く。

「なんでですか?」

と聞き返されてそんな返しが来ると思わなかったので少し戸惑いながら

「え?普通に懐かしいな~と思って」

「懐かしい?」

「そう、学校って懐かしく感じない?大人になるとこんな所に来る事無いし。」

「俺今大学生なので学校に懐かしいとか。」

「え?七星君大学生なの?」

「そうよ~学生さんよ~」

「全然知らなかった。同じくらいかと思ってた。」

「ステラーズさんはお幾つなの~?」

「二十五歳です。」

「そうなの~じゃあ学校懐かしいわよね~私も昔の事を思い出しながら歩いていたもの~」

「え、現哉さんはお幾つなんですか?」

「あら~乙女に年齢を聞くなんて駄目よ~!」

と上手く交わす現哉さんに俺は苦笑いで返した。

「ここです。ここが音楽室です。」

「楽器の音が聞こえないけれど、今日は休みなの~?」

と現哉さんが男子生徒に聞く。

俺も音楽室に近づけば楽器の音が聞こえると思っていたので何も聞こえないので不思議に思った。

「どうだろう。中見ますね。」

と言って扉を開けると中から

「もっと皆気合い入れてよ!!どうしてそんなにバラバラなのよ!!コンクールまで時間ないんだから!!!!」

という声が聞こえてきた。

俺達は驚いて顔を見合わせたが、男子生徒は

「あの怒鳴っているのが大良さんです。」

と言った。

俺は男子生徒に代わって扉付近に行き中に居る人達にバレないように中を見る。

すると一つ結びの眼鏡を掛けた女の子が楽器を持った女の子達に怒っている。

怒られている生徒達は下を向いていて俺達が覗いている事に気が付いていない。

「少しだけ休憩するけれど、一人一人自覚持って練習して!!」

と怒鳴った後扉の方に大良さんが近づいてきた。

すると七星君が

「来た。」

と言った。俺は何が?と聞こうと思った時に扉がグイッと大きく開かれた。

「あんた達誰?」

と声が聞こえる。覗いているのがバレてしまった。

男子生徒が

「ステラーズっていうYouTuber。大良さんを探していたから連れてきた。」

「YouTuber?その人が私に何の用?」

「それは・・・」

と男子生徒が俺の方を見てきたので

「実は大良祥子さんに用があって。君の名前は大良祥子さん?」

と聞くと

「ええ、そうですけれど。それが・・・」

不審者を見るような目で見て来たので扉から離れて七星君の傍に行きながら

「実は鳴海ちゃんの事で聞きたい事があって・・・・」

と言うと

「鳴海ちゃん・・・・・その子の事について何で知っているんですか?」

「いや、あの。ここから先はちょっと違う教室で話せないかな?」

「え?」

「実はこの手紙の事で聞きたいんだ。」

と七星君が持っている手紙をチラッと見せると大良さんの顔色が変わった。

「その手紙・・・・分かりました。三階に空き教室があるのでそこでお話を伺わしてください。」

「ありがとう。」

そう答えると男子生徒が最後まで見たいと言うので俺、現哉さん、七星君、大良さんと男子生徒で空き教室まで歩いて行った。

教室に着くと俺は男子生徒にカメラを預けてこっそり撮影して貰えるように頼んだ。


「それで、私の手紙と私が何の関係があるんですか?」

と教室のドアを閉めるなり大良さんが聞いて来た。

「実は俺YouTubeの動画で心霊の事をやっているんです。それで俺の家の近くで起きた事故を取り上げたんです。その時に拾ったのがこの手紙で、俺の家で起きている怪奇現象はこの鳴海ちゃんじゃないかと思って供養したくて手紙を持って帰ってから奇妙な事が起きてそれで霊媒師のこの手紙をさっきから持っている七星くんに頼んだんだ。」

「なるほど、流れは分かりましたけれど。それで手紙を勝手に持って帰ってそれでどうして良いから分からないから来たんですか?」

と少し苛立ちを見せる大良さんに俺は図星で何も言えず戸惑っていたら七星君が

「違う。」

と言った。

俺は

「え?」

と七星君を見ると七星君は手紙を持ちながら

「違います。この手紙は貴方の傍に帰りたがっている。」

「どういう事?その手紙は鳴海ちゃんに宛てた手紙よ。それがどうして私の傍に帰りたがっているんですか?」

「この手紙の文は確かに鳴海さんへの内容です。ただ念いは違う、鳴海さんと遊んだ過去を思って書いている。その日を忘れられない大良さんの魂がこの手紙に残った。その魂は今も鳴海さんを探しています。それの証拠に先程から手紙が動いているんです。」

と言って手紙を床に置く。

すると手紙が少しずつ大良さんの方に動いた。

「きゃあ!!」

と手紙が一人で動くのを見て大良さんが驚きの声を挙げた。

「手紙はずっと貴方を待っていた。」

と七星君は言う。

「だから手紙は拾われて大良さんが戻って来たと思ってステラーズさんを大良さんだと勘違いして存在に気づいて欲しくて目の前に現れたりしたんです。」

「じゃあ、どうして七星君を拒否するようなメッセージを出したの?」

と俺が聞くと

「それは悪霊と勘違いして祓われるのを恐れたからだと。手紙を持っていても今こう対面しても悪意を感じないんです。色は少し濁っていますがそこまで黒く染まっていない。」

「色?」

と大良さんが七星君に聞き返す。

「橙色が見えるんです。ただ黄色に近い、でも所々に少し濃い赤が見える。でもそれは今誰かに攻撃的になっていたからだと思うんです。だからこの手紙に関して何か特別貴方は今は感じていない。過去の物だと切り離している。でも、それじゃあこの手紙に憑いた貴方の魂は救われない。元に戻してあげないと」

とボソボソ話す七星君に現哉さんが

「要は大良さんの魂が分かれていて一つに戻りたがっているから一つに元に戻したいって事よね?」

と聞き返した。

「そうです。」

と小さく頷く七星君に俺は

「そんな魂をくっ付ける事なんて出来るの?」

と聞くと七星君は

「俺が直接した事は無いけれど、きっとこの手紙から魂を呼び出せば身体の中に自ら入ると思います。」

と答えた。俺は大良さんに

「協力して欲しいんだけれど良いかな?」

と聞くと大良さんは話に着いていけないという顔をしながら静かに頷いてくれた。

七星君はその頷きを見て

「それじゃあ、まず手紙の除霊から始めます。

教室の扉は閉めたままで良いので窓を全開にして貰えますか?」

と俺に指示してくる。

「その間に俺は机にこの手紙を置いて塩を上から置くので。」

と言ってポケットから小袋を出して塩を手紙の上に蒔いた。

俺はすぐに教室の窓を全開にする。これからあの金縛りにあった時に見た女性の霊の除霊が始まると思うと恐怖と少しワクワクした気持ちになった。

俺は窓を開け終わると

「七星君、全部開けたよ。」

と言って七星君を見ると腕に付けていた珠々を持って何か呟いている。

俺が気になって七星君の傍に行くとお経を唱えていた。

「これって・・・」

と言いかけた時現哉さんに

「静かに!」

と怒られた。

俺は黙って七星君を見守る。そんな姿を男子生徒が静かにカメラを回していた。

「ここに居るのなら出てきてくれませんか?」

と七星君が誰かに問いかける。

「貴方を消したりはしません。だから出てきて欲しいんです。」

と言うと手紙はずるずる窓際に居る大良さんの方に動く。大良さんは窓際で立ち尽くしていた。

「そのまま手紙の中に居ても元には戻れません。だから出てきて欲しいんです。」

すると手紙は今度は大良さんから離れるようにずるずる動く

「どうしてそこまで拒否するのですか?」

と聞いた時手紙から煙が出てボウッと赤い光が見えた。

俺はそれに気が付いてすぐに持っていたペットボトルで水を掛ける。

「ごめんなさい。」

と七星君が俺に言った。

「どうしたの?」

と聞き返すと

「これ、俺だけの力じゃ無理かもしれない。大良さん」

と七星君は大良さんの名前を呼んだ。

「大良さんが元に戻りたいって思わないとこの手紙から貴方の魂の一部が出てこないです。だから祈ってくれませんか?」

と言った。

「祈るってどうやって」

と大良さんが言うと

「俺が持っている珠々に触れて欲しいんです。その時出来れば恐怖では無くて迎え入れる気持ちでいて欲しいんです。」

「迎え入れる?」

「そう、拒否せずに受け止めてください。その魂は、元は貴方の一部ですから。」

と言うと不安そうにしながら大良さんは七星君の珠々を触れた。

暫く七星君は呼吸を整えるとまたお経を唱え始める。

それと共に手紙がズルズルと遠ざかり机から落ちた。

するとすぐに七星君は床に落ちた手紙を見ながら

「ステラーズさん、この塩を手紙に蒔いてください。動きが止まるまで蒔いてください。」

と言ったので俺はすぐに七星君の手から塩が入った小袋を受け取ると塩を一掴みして手紙に蒔いた。

手紙は塩を蒔かれながらもズルズルと大良さんから離れようとしている。

「現哉さん、俺の携帯から姉さんに電話かけて貰えませんか?お経を唱えて欲しいと伝えてスピーカーで流してください。」

と言うと現哉さんは七星君のポケットにある携帯を取り出すと慣れた手つきでお姉さんに電話を掛ける。

「もしもし?七星ちゃんのお姉さん?今良いかしら・・・・ええ、そう。そうなのお願い出来る?」

と言って電話をスピーカーにする。すると間髪入れずに電話の向こうから七星君が唱えているお経と同じお経が聞こえて来る。

俺はその二つのお経を聞きながらただ見守る事しか出来なかった。

暫くお経が唱えられた後、手紙からまた煙が起きて来た。慌てて水を掛けようとすると

「ステラーズさん、待って!」

と七星君に止められたので水を掛けるのを止めるとどんどん煙が手紙が出てくる。

俺は火災報知器が鳴るんじゃ無いかと思いながらハラハラして煙を見ると煙は天井に行く前に窓から入ってくる風に導かれるように煙を上手く外に出て行ってくれていた。

俺はそんな状況を見ていると手紙から一人の女性が出てきた。

まるで貞子が井戸から出てくるように手紙から髪の長い女が出てくる。

その女はピンクのワンピースを着ていて俺があの夜見た女にそっくりだった。

七星君以外の俺達は悲鳴を挙げて逃げそうになるが誰も動けないのか地面に足がまるでくっ付いたかのように足が動かない。

「足が・・・」

と大良さんが言うと女がどんどん手紙から這いでてくる。

女は手紙から出るとその場で立ち上がり七星君と大良さんの目の前に仁王立ちするように立って居た。

「ヒッ」

という声を上げる大良さんに俺と現哉さん、男子生徒は固まって動けない。

「やっと出てきてくれた。貴方がもう一人の大良祥子さんですよね?ずっと探していたのではありませんか?もう一人の貴方をずっと探していた。違いますか?」

と七星君はその女に声を掛ける。

電話越しからは未だにお経が聞こえてきていた。

「今目の前に居るのが貴方が探していた方です。そう・・・・貴方は寂しかった。手紙の女の子ともう一度遊べると信じていた。しかしそれは叶わない、理由はその子はもうここに居ないから。・・・・・ずっとあの道路で待っていたんですね。風が教えてくれています。今貴方がずっと寂しい思いをしていた事を。色が水色だ。悲しい、寂しい水色をしている。貴方の本体はそうではない。だから戻りたかった。そうですよね?」

「うーーーーーあーーーーーー」

「そう、その声を聞きたかった。きっと元に戻れます。鳴海ちゃんはもう天国に行ってしまったけれども、貴方は自分の人生を歩くことが出来ます。」

「ううううううううううう」

と女が何かを話している。

それでも七星君は何かを確かめるように女を見つめて

「大良さんその女性に触れてください。大丈夫、何もされません。」

と言って再びお経を唱え始めた。

大良さんは恐怖で戸惑いながらゆっくり手を伸ばすと幽霊の女もゆっくり手を伸ばし始めそして手と手が触れた。

七星君と電話の向こうに居る七星君のお姉さんがそれを合図に一層お経の声を大きくして唱え始める。

すると不思議な事に幽霊が段々と色が薄くなり女の顔がハッキリ見えて来た。

お経はそれを見守りながらも唱え続けられている。

「鳴海ちゃん。」

と幽霊が何かを言った。

「え?」

と大良さんが聞き返すと

「鳴海ちゃんともう一度遊びたい。」

と言って幽霊はシャボン玉のように消えた。

そしてお経が少しずつ小さくなりやがては止まった。

七星君はお経が終わると電話越しで同じお経を唱えていた姉に

「姉さん、この手紙どうしたら良い?」

と聞いた。電話の向こうから

「私の知っている神社に供養して貰いましょう。大良さんが大丈夫なら手紙を預けて貰っても良いかしら?中身を見ることは勿論無いから安心して?」

と言い七星君が珠々を今もしっかり持っている大良さんを見ると大良さんは涙を流しながら静かに頷いた。

「それで、京采君はどうしたのですか?」

と目の前でミカンを剥いて食べて居るのは特別捜査官 妖霊専門課の碧葉琵向(あおば ひなた)だ。

この間来た事件の内容を詳しく話がしたいとの事で家に来たのだが、先日あったYouTuberの動画の内容を見たのか弟の京采の話を先程からしつこく聞いてくる。

「その後、大良さんは泣き始めて手紙を出すのは本当はお母さんに止められていたらしいんです。でも事故現場を通る度に鳴海ちゃんの事を思い出すから黙って書いて自分の名前は伏せて置いたそうで、たまたまその現場をマンションの大家さんが目撃していたので今回の繋がりが見えたそうです。

手紙はもちろん私が知っている神社に供養してもらい、今は天国の鳴海ちゃんに届くようにしてもらいました。」

「京采君も除霊出来るなんてさすがですね。」

と隣に座って碧葉さんを睨み付ける京采に話掛けると

「俺は何もしていません。結局は姉さんの力を借りただけです。」

と言った。

「そんな事無いわ!京采がちゃんと手紙の声を聞いたから除霊が出来たのよ。私はその様子をちゃんと木々達から聞いて居た。だから今回頑張ったのは京采よ?」

と言うと京采はそれまで睨んでいた目がパアと明るくなり嬉しそうに笑った。

「京采君のそんな表情見たら女の子達騒ぐだろうな~そういえば動画に出て反響ないんですか?」

「実は今この子謹慎中なんです。どうもあれから女性達がBARに来ては色々話をされるみたいで殆どが動画の感想とかみたいなんですけれど、仕事にならないからって店長さんに言われたみたいで暫く落ち着くまで家に居るようにと言われてバイトの日数かなり減らされてしまって。」

「それは大変じゃないですか!学費を稼ぐ為にアルバイトしていたんでしょ?」

「ええ、でも祖母が貯めていた貯金と少ないですが私の貯金がありますので」

「お姉さんも働いた経験がおありで?」

「今は霊媒師をしている事でお気持ちという形でお金を頂いて居るので生活は出来ていますが、京采と一緒に暮らして暫くは私も会社員をしていました。」

「それはなんで辞められたとか聞いても良いですか?」

「ええ、もちろん。・・・・寄ってくるんです。」

「・・・・・何が?」

「負の塊の幽霊が。悪霊とは違って善人のような顔をして近づいてきて不幸にさせようと誘って来るんです。」

「それは・・・」

と言いかける碧葉さんに私は苦笑いをしながらあの日の事を話した。

私は新入社員として会社に入った。

最初は慣れない環境に慣れるのに必死だったがやりがいはあった。

毎日掛かる電話対応をしながらパソコンに向かう日々は大変だったが幽霊しか相手にして来なかった私からすれば新鮮で楽しさも感じていた。

祖母が亡くなり、祖母が引き受けていた霊媒師としての活動も同時進行に行わないといけなくて毎日が目まぐるしかった。

そんな時に出会ったのが同期の藤原さんだった。

藤原さんは大人しい感じの女の子で同い年だという事もあってよくお昼ご飯を一緒に食べていた。

「藤原さんはどうしてこの会社に来たの?」

と私の何気ない質問に

「えっと・・・・私何をやっても駄目で・・・・それでこの会社しか受からなくて・・・」

としどろもどろに答える仕草はどこか小動物の様に思えた。

「そっか、まあ私もそうなんだよね。ここが家から近くて通いやすかったから来たんだよね。」

と言うと

「・・・・・家何処なの?」

藤原さんは聞いて来た。

「小田急線だよ。」

と答えると

「そうか~・・・・じゃあ電車賃高いね。」

とクスクス笑う藤原さんに私も一緒になって笑った。

そんな日々が続くと私は教育係をしてくれた先輩と一緒に企画を立てる作業を与えられた。

私は毎日遅くまで先輩と考えてお昼ご飯も食べながら企画を立ていた。

今でも後悔している事がある、その時に少しでも藤原さんに気を遣ってあげていたならあんな事にはならなかったかもしれない。

その日は突然に来た。

藤原さんが飛び降り自殺をしたのだ。

理由は社内の虐めだった。私は同僚でも違う部署だったので知らなかったが藤原さんの居た部署で藤原さんを省く虐めがあったようだった。

私は知らず藤原さんの死に涙した。

ただ藤原さんの死に誰も涙をする人は居なかった。

私は違和感を覚えていたがそれが大人の世界なのかもしれないと思いながら黙ってその状況を受け止めようとした。

暫く経つと仕事がまた忙しくなり悲しみが少しずつ減っていた。

そんな日が続いて行くと

「また龍王寺さんミスしたの?」

と先輩に怒られる日が増えた。そのミスは私の身に覚えが無くいつも何故そんなミスが続くのかと不思議に思う程だった。

怒られては気を付ける為に丁寧に仕事をする為に仕事のスピードが遅くなる。

それでもミスをして皆に迷惑を掛けるよりマシだと思い私は先輩に急かされながらも仕事をしていた。

しかし、ある毎に仕事のミスが増えていった。

私は疲れがあるからかもしれないと思ったがどう考えても私がするミスじゃなかった。

そんなある日、私は職場に忘れ物をしてしまって取りに戻ると先輩が私のパソコンで何かを操作していた。

「先輩どうしたんですか?もう十一時回ってますよ。」

と声を掛けても先輩は私に気づかないのかずっとパソコンを弄っている。

「先輩?お疲れ様です。どうしたんですか?」

と肩を叩くと先輩の動きが止まった。

「先輩?」

と声を掛けると

「・・・どうして・・・・・死なないの?・・・・・私は死んだのに」

と声が返って来た。その声は藤原さんだった。

「藤原さん?」

と言うと先輩の身体はグニャと曲がり、先輩は白目を剥いていた。

私はその日から先輩の身体を使った藤原さんに嫌がらせを受けていた。

どうした物かと思いながら、先輩に相談することにした。

「先輩最近どうして最後まで職場に残るんですか?」

と聞くと

「何でかな~龍王寺さんの事を思うと最後まで面倒見なくちゃと思って。藤原さんが居なくなってから疲れてミスが多いでしょ?」

と言われた。私は何も言えずに居ると上司が

「ちょっと良いか、二人共に聞きたい事があるんだが最近最後まで会社に残っていた人を知っているか?」

と聞いて来た。

私と先輩は顔を見合わせたが良く分からず先輩が

「私が最近残業していますが、何か?」

と答えた。

「そうか、実はうちの部署のパソコンから違う部署のファイルを開いて色々文字や数字を変えた悪戯があるらしいんだ。もしかしてそんな事をしていないよな?」

「いえ、してませんけれど。」

「なら良いんだが、もしそんな人を見つけたらすぐに私に報告して欲しい。」

と言って去って行った。

「さっきのどういう事だろう。他の部署の資料なんて見方知らないのにどうやって資料を改ざんするんだろうね。」

と先輩は本当に何も知らないという顔で話してきた。私は何も言えず曖昧に頷く事しか出来なかった。


その日の夜、私は職場にわざと残った。先輩も案の定残っていた。

他の人がどんどん帰る中先輩と二人になった。

私は先輩の行動を見る為に仕事を続けているとフッと天井の電気が消えた。

(警備員さんが間違えて消したのかな?)

と思って先輩に

「先輩どうしましょ、警備員さん間違えて電気消したみたいですけれどもしもう仕事が終わっているなら帰りませんか?」

と声を掛けた。

しかし、先輩はこちらの声に気づかないのかパソコンをずっと打っている。

カチャカチャと音だけが鳴り響くので私は先輩の近くに行き先輩の肩を軽く揺すった。

それでも先輩は作業を止めなかった。

変だ思い先輩の肩を少し力を込めて揺すると先輩は白目を剥いて作業していた。

私はすぐにスーツのポケットにある深緑色の珠々を取り出した。

「藤原さんなの?」

と聞くと

「・・・・・・どうして・・・・・私は死んだのに・・・・」

と先輩の口から藤原さんの声が聞こえる。

「どうして・・・・・・死なない?」

「私は死なないわ。どうしてそんな人の仕事の邪魔をするの?」

「私は・・・・・・・邪魔なんか・・・・・・・・・・・・していない・・・・・・してない・・・・・して」

「現に今資料を書き換えているじゃない!」

「ミスをしないと・・・・・貴方は死なない・・・・・ミスして」

「藤原さんが私の資料を書き換えていたの?」

「・・・・・・・死んでよ。」

「死なない。私は今から貴方を祓うわ。」

と言って私は珠々をあやとりをするようにしながら操りお経を唱えた。

「死んで・・・・・よ・・・・・・」

と先輩の身体をグネングネンとさせながら動く先輩に私は少し距離を取りながらお経を唱える。

暫くグネングネンと椅子に座りながら動く先輩がピタリと止まった。

「先輩?」

と声を掛けに先輩に近づき肩に触れると

「・・・・・・・!!!!!私と一緒に死んでくれたら良かったのに!!!!!」

と叫び声を上げて先輩は目を白黒させて椅子から転げ落ちた。

私は恐怖を感じながら真っ暗なオフィスで先輩の身体を探しているとまたフッと天井の光が着いて辺りが見えるようになった。

私はいきなり電気が着いて眩しさを感じながら床に倒れ込む先輩を見る。

先輩は一定の呼吸をしながら床に目を瞑って倒れていた。


「それからどうしたんですか?」

と碧葉さんが私に問う。

「その日を境に藤原さんが出てくる事は無かったです。当時、私は除霊が出来たのか分からなかったんです。あの場所には他にも霊が居た感覚はあったので藤原さんだけの霊を追うことが出来ずに分からなかったんです。それから間もなくして先輩は会社を辞めました。理由は体調不良です。あんな事が遭って身体を乗っ取られていたのなら健康に被害が遭っても変ではありません。私はそんな霊が常に居る環境に慣れず先輩の後を追うように仕事を辞めました。」

「それから霊媒師の仕事をしていると・・・・」

「仕事なんて物じゃないです。ただのボランティアです。」

「それをこれから仕事にするんじゃないですか!この間言っていた事件引き受けてくれないですか?」

「先日の子供の変死体でしたっけ?」

「そうです!何でも受験した子供が試験中に突然死してしかもそれが変なんですよ。教室に居たのに溺死だったんです。医学的に肺に水が入って居たようで、試験中にそんな事が起きる事も無いですし、ペットボトルの水もそんなに減って居ないのに肺に水が溜まるなんて変だと思いませんか?」

「それがどうして今回霊と関係あるんですか?」

「それが同じ受験をしていた子供の親がどうもその子供を恨んでいたという話が今捜査上上がって来てまして・・・・」

「なるほど、受験者同士の恨みか嫉妬かもしれないという事ですか?」

「そうです、そうです!」

と赤べこのように頭を振る碧葉さんに私は溜め息を吐きながら

「聞くだけ話を聞きましょうか。」

と言って一口お茶を飲んだ。

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二人の霊媒師 凛道桜嵐 @rindouourann

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