最終話 金曜日までの五泊 1


    一


 今回はまず初めにこの点について触れておこう。


 この度俺が行き着いたのは『ファン・ナイツ・ウィズ・フィネガンズ』、通称〈FNWF(フヌウフ)〉というホラーゲームを元にした世界だ。



 この作品は大きく分けて三つの特徴を有している。


 一つ目の特徴はその独特の操作方法だ。


 プレイヤーキャラクターは〈フィネガンズ〉というファミリーレストランの夜間警備員なのだが、意外と言うべきか作中で彼が事務所を離れることはない。それどころか、彼は椅子から立ち上がることさえなくただ黙々と防犯モニターを監視しながら、事務所の出入口を遠隔操作で戸締りするのみである。


 彼がいる事務所に敵キャラクターが侵入し、襲撃に成功すれば敵側の勝利。反対に、勤務終了まで無事であればプレイヤーの勝ち。


 シンプルでありつつもそのぶん難易度は高めに設定されており、リプレイ性は高い。通常は全五ステージという構成で、一夜目から第五夜まで順を追って難しくなるレベルデザインも基本に忠実である。


 こうした高い難易度と前述の変則的ルールとがプレイヤーの恐怖心を煽り、ほかのホラーゲームにはない独特の緊張感を演出している。操作の簡略化と恐怖演出とを両立した、画期的なコンセプトだと言えるだろう。


 

 続いて二つ目の特色は敵キャラクターの造形だ。


 ファミリーレストランの夜間警備員にいったい何が襲いかかるのかと言えば、それすなわち店のマスコットたちである。これらのマスコットはクマやウサギなどの動物がモチーフになっている。


 彼らの大きさはちょうど着ぐるみに近しいていどなのだが、その内部は人間が入れる構造にはなっていない。


 着ぐるみの中身は一言でいえばロボットだ。利用客に愛層を振りまいたり、店内の舞台上で音楽ショーに出演したりと、さまざまな動きがプログラミングされたいわゆる〈アニマトロニクス〉と呼ばれる技術の産物である。


 生まれた理由が理由だけに彼らは表面上陽気を装っているが、よく注視すれば、その不気味さに気付かされることだろう。口腔をはじめ身体の各所に覗く金属製の骨格は、あたかも彼らの無慈悲さ、冷徹さを象徴するかのようでもある。



 そして最後に三つ目の特徴だが、これは前述の二点にも関連した事柄である。この作品の人気を支える要素として、「設定の奥深さ」を忘れることはできない。


 プレイヤーには「規定時刻までの生存」という明確な目的が与えられているため、普通にプレイしてもあるていどの達成感を味わうことはできる。


 しかし、本作ではその物語の裏に隠された謎を解き明かすこともまた、大きな魅力となっている。


 ステージクリア時や失敗時など、一定のタイミングで特殊な演出が入ることがある。そうした演出は複数種存在し、それらのすべてを見ることで、フィネガンズにまつわる身も凍るような真実が明らかになっていく。


 短編ゆえの高難易度、高難易度ゆえのリプレイ性、そのリプレイ性をさらに補強する隠し要素――そのままではボリューム不足になりかねないところを、上手く長所に昇華させた好例と言えるだろう。



 こうした完成度の高さに時流もマッチしてか、本作はB級ホラーゲームとしては異例の大ヒットを記録した。


 五本以上にも及ぶ続編やスピンオフ作品の開発、ぬいぐるみをはじめとした数えきれないほどの公式ライセンスグッズ展開など、その人気は留まることを知らない。



 その本作がフリーホラーゲーム業界に与えた影響は言わずもがな大である。


 例えば、キャラクター人気にあやかった二次創作作品。見た者に強烈な印象を与えるアニマトロニクス・モンスターを別の有名な怪物と共演させてみたり、ユニークな新種の着ぐるみをFNWFの世界に参戦させてみたりと、今日まで多くのゲーム開発者の手で様々な試みがなされてきた。


 また、「襲い来る敵に対処しつつ特定の時間まで生き残る」というルール設計は、インディゲーム界隈と極めて相性がよかった。こうした設計ならプレイエリアは制限されていたほうがより緊張感が増し、そしてプレイエリアが制限されるということは、すなわち広いマップを用意する手間が省けるということだ。人手と資金はなくともアイデアで勝負、という個人製作界隈にはもってこいのコンセプトである。


 そういうわけで、オリジナルを踏襲しつつ主人公が店内を歩き回れるようになったものなど、FNWFの派生作品とも言うべきゲームが数多くこの世に生み出された。なかには、一日目から五日目までの各夜ごとにシチュエーションもルールも大きく様変わりするような、かなり凝った作りのアニマトロニクス系ホラーゲームも存在している。



 一つの情熱が新たな情熱を呼び起こし、斬新なアイデアがさらに画期的なアイデアを生む。これぞまさに、理想的な創作の連鎖と言える。

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