幕間 6
ショッピングモールといえば多くの人が利用する施設であり、少なからず親しみを覚えるシチュエーションではあるものの、なるほどこうして化け物と一緒に放りこまれると感じ方が全然違う。
色とりどりの商品を見てまわる暇は一切なく、また普段は人で賑わう場所が閑散としている異様さも相まって、まるで刑務所にでも閉じ込められた気分だった。
「見慣れた場所が違って見える」という異化体験は、特に没入感が強いゲームならではの面白味とも言える。それも、一人称視点ならそうした妙味をなおさら顕著に感じられることだろう。
そういう意味ではコンセプト自体は悪くない。悪くないが、気になるのはやはりレベルデザインだ。
さきほどの世界では序盤から終盤にかけて敵キャラクターもマップも大きく変化せず、似たような空間で、似たような行動をずっと繰り返すことになった。これでは単調という評は免れない。敵のバリエーションを増やす、各店舗ごとに印象的なギミックを用意するなど、アトラクションとしての厚みがもう少し欲しいところである。
ただ、シンプルを是とする短編ゲームに欲張って要素を詰め込むと、ごちゃごちゃしてまとまりが失われる危険性もある。このあたりは何よりバランス感覚が肝要だと言えるだろう。
「……とまあ、そんなところでしょうかね、柳田さん」
「ええ、そんなところかと思います」
今しがた体験してきた世界については、そういう形で意見がまとまった。自分が興味のある事柄について他人とああだこうだ語り合うのは、否定のしようもなく楽しい。
だが一方で、俺もこの時はそう無邪気なばかりではいられなかった。
原因は分かっている。以前女神さまが口にした、あの問いかけのせいだ。
――もう、これで終わりにしたいですか?
ノー。
――このまま次の世界に行きたいですか?
イエス。
その回答に嘘はない。
なれど、「本当にこれでいいのか?」という疑問は、俺の意識に深く刻み込まれたままだった。
「……あの、もしもし柳田さん? さきほどから顔色が優れないようですが、もしかしてお体でも悪くなされましたか?」
「あ、いえ、そういうわけではないんですが……」
「でしょうね。そもそも肉体がないんですから、体調など崩しようがありませんし」
「あ、僕って今そういう状態なんですね?」
「はい。いわゆる精神だけの存在ですね。まあ幽霊とは言いませんが、紙一重の状態だと言えなくもないです」
「なんだか危うい響きだなあ……」
「なあに、心配することはありませんよ。なんせわたくしが付いていますからね」
そう胸を張られるとかえって不安になってくる。
「それより、休憩がお済みになりましたら、いつでもおっしゃってくださいね。次なる旅路の準備はすでに万端です。すぐにでもご出立いただけますよ」
「ええ、ありがとうございます……それじゃあ、今からお願いできますか?」
「かしこまりました! ではお客様、これから少し揺れますので、しっかりとシートベルトをお締めください!」
考えても仕方がない事をいま考えても仕方がない。きっと、そう遠くないうちに自ずと答えは見えてくるだろう――
ごまかすように反芻しながら、気づけば俺は無数の光と化していた。
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