幕間 5

 ううん……後を引くエンディングだ。


 良くも悪くも余韻が長いというか、実に和風ホラーゲームらしい渋み溢れる味わいである。人を選ぶ終幕だが、ジャンルを考えればむしろこれが正解。あまり綺麗に終わられてもホラーとしての情緒が感じられまい。


 この点については、どうやら女神さまも同意見らしかった。


「やあー辛気臭い。非常にうじうじした感じですが、なんだか不思議と嫌いじゃありませんね、この雰囲気。気分が沈むのを楽しむ、というのか」


「『大きな苦難なんて乗り越えたところで、幸せになれるとは限らないぞ』と、ニヒルな思考をぐいと突き付けられた気分です。やっぱり甘くないですね、世の中は」


「まったくです」


 とはいえ全体的な流れを振り返ると、適度な解放感もないではない。とくにクライマックスというか、洋館に火が放たれるところなどはまさに鬼気迫るものがあった。


 どこにでもいる普通の人間が、自分自身や周囲の人間に劇的な非日常が訪れた瞬間、思わぬ本性をさらけ出す――


 社会性の仮面が取り払われる一瞬。そうした瞬間を切り取ることこそ、ヒューマンドラマの意義であり醍醐味だと言えるのではないだろうか。


「おっ、いいこと言いますね、柳田さん」


 茶化すように女神さま。そのまま、彼女はこう続けた。


「わたくしもその意見にはおおむね賛成です。ですが、何も追い詰めるばかりが人の真の姿を見る方法ではありませんよ。誰だってそこまで強くありませんからね。自分自身が辛い時には、どうしても他者への思いやりを失ってしまうものです……その状態を『その人の真の姿だ』と解釈してしまうのは、やや乱暴だとわたくしは思いますね。正確を期すなら、そこに表れているのは『その人が焦っている時の姿』です。まあ、その焦りをこそ本性だとするならば、また話は変わってくるのでしょうが」


 いつになく思慮深いセリフである。彼女とて伊達に人間を転生させていない、ということか。


「――とかなんとか言って、今のはSNSで見かけた受け売りなんですけどね」


……やっぱりこの人――人?――ちょっといい加減だな……


「なあんて冗談はさておいて……では、そろそろ次なる異世界にご案内させていただきましょうか。お喋りもひと段落したことですし――」


「ちょちょちょ、ちょっと待ってください、女神さま」


「はい、なんでしょう?」


「あの……これはどうなったら『ゴール』ということになるんでしょうか? つまり、この無限に続きそうな異世界放浪生活は?」


「……ううん……そうですねえ…………質問に質問で返してしまってもうしわけないのですが、逆に、柳田さんはもう終わりにしたいですか?」


「え?」


「ですから、もう、これで終わりにしたいですか?」


 意表を突かれた思いだった。


 俺としては、「当然近いうちに終わりが来るものだ」と思い込んでいたので、自然と「いつまで続けるんだろう」という思考に行き着いていた……しかし、そうか…………


「考えたこともありませんでした」


 俺は正直に内心を口にした。


 すると、女神さまは淡い光を発しつつこう言った。


「ここは一つシンプルにいきましょう――『イエス』か『ノー』かでお答えください。柳田さん、あなたはこのまま、次の世界に行ってみたいですか?」


「…………イエス」


「なるほど……やっぱり、あなたならそうおっしゃると思っていましたよ……というわけで、すでに出発の手筈は整えてあります! ぐずぐずしていても仕方がないですからね、さっそく新天地に向かって旅立ちましょう!」


「はあ……分かりました」


「次の舞台でも、ご活躍を期待していますよ!」


 そうしてまた、俺の精神は幾千の星屑となって中空を漂いはじめた。


――本当にこれでいいんだろうか?


 思考が溶けゆくそのさなか、俺はそんなことを思っていた。

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