幕間 3
いやあ……激戦だった……
結局、何度やられたんだろう? 記憶をさかのぼりつつ指折り数える。一、二、三……そうか、俺はあの逆さ吊り女に三度もしてやられたのか。
本音を言えば、少しショックだった。唯一の趣味だけに、俺もホラーゲームの腕前にはそれなりに自信があったのだ。
当然ゲームの難易度は作品によって千差万別だが、それでも大抵の場合、二回も失敗すればさすがにコツが分かってくる。よほどの高難易度作品でもないかぎり、それ以上の失態は犯さない。
それが、あの世界にいるあいだだけで三度も死んでしまうとは……我ながら情けない話である。
そんな俺の動揺を察してか、女神さまの声はいつになく優しげな調子だった。
「いやあ、柳田さん……これぞまさしく激闘、この上なく熾烈な戦いでしたね。見ているこっちまで寿命が縮むかと思いましたよ。まあ、わたくしに寿命はないんですけどね」
「そうですか……いやでも、たしかに彼女は強敵でした。見た目がチープだからと油断していたら、とんでもない目に合わされましたよ」
「そのようですね……ですが、作品の雰囲気自体は悪くない感じでしたね? 人の手が入っているとはいえ大自然のただ中、それもひと気のない真夜中の山中とあっては、人間は恐怖心を覚えずにはいられないものです。動物としての本能でしょう、暗闇とざわめきはいつだって心の安寧を脅かすのです」
「それに、『孤独な闘い』というのがまた堪えましたよ。ソロキャンプは昨今の流行りですし、独特の魅力があって良いのでしょうが、ああいったシチュエーションでだけは絶対にごめんですね」
「あら、上手いことおっしゃる」
女神さま、どうやらおだてモードらしい。気を使わせているようでなんだか申し訳ない。
続けて、彼女は言う。
「まあそれはそれとして……しかしあえて苦言を呈すならば、いくぶんありきたりな印象を受ける気もしないではないですね……この手の系統としては、なんだか少し王道過ぎるような……?」
「うーん……捻りがない、のかもしれません。オリジナリティが足りないというか……言葉を選ばずに言うなら、さきほどの世界は『その存在意義それ自体が危うい』とも評せるでしょう。だって、似たような作品でより有名なものが、ほかにいくらでも有るわけですからね」
内容が同じなら、より高名なほうを取るのが人間の心理である。
それでもマイナーな類似作を選ぶ場合、そこには大抵なにかしらの事情がある。例えば、あるジャンルの名作を一つ残らず遊びつくし、かつどうしても新作をプレイしたい場合、などが該当するだろうか。
といった具合に一つ難点を見つけてしまうと、些細なことが芋づる式に気になってくる。敵のグラフィックは出来合いであるし、マップは統一感がある反面、単調で変化に乏しい。
なまじ最後の場面、すなわち車で逃げ出すシーンなどは、敵の表情をはじめ光るところがあるだけに「ああ、惜しいなあ」という感じがしてならない。
と、そういった内容をつらつらと語るうち、女神さまの顔がぱあっと明るくなった。文字どおり光度が増したのだ。
「そういうことでしたら、ここで転生生活を終わらせるわけにはいきませんねえ? だって、こんなもやもやした気分じゃ……ねえ?」
「『ねえ』じゃないんですよ女神さま」
この人はどうしてこう、俺を異世界に飛ばしたがるんだろうか?
「ささ、もうお分かりでしょ? この次は、もっと利便性のいい場所がいいかもですね。大都会のど真ん中とか――ではでは、お帰りお待ちしてまーす!」
もう確定だもの、ここに帰ってくるのが。
いや、文句があるわけではないのだ。文句があるわけではないのだが……
(いかんせん、釈然としないなあ……)
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