幕間 2
「最後の『バアン!』が無えっ!!」
「わあっ、びっくりした! もう……脅かさないでくださいよ、柳田さん」
「あっごめんなさい、つい大声を出してしまって……って、どうしてまた僕はここに戻って来てるんです?」
そう。このとき俺はまたしても、あの宇宙的空間にたどり着いていた。
「やあやあおかえりなさい」
と女神さま。
「いや、ただいま、じゃないんですよ。あれでしょうか、また戻ってくるのが早すぎたってことですか?」
「んー……いや違いますね。ご記憶かと思いますが、さきほどの世界では柳田さんは『ご自身の』素性について、何も思い出せなかったはずです。つまり誰でもなかったということですね。だから暫定的に、一代前の精神が蘇ったわけです」
「ああ、なるほど……この世界にも色々と法則があるんですねえ」
「いえまあ、今のは適当に言ったんですけどね」
ああそうですか。
「それはそれとして……さっきの世界はなかなか悪くなかったんじゃないですか? こちらから見ているぶんには、しっかりとお楽しみいただけたようですが」
「いやあ、楽しかったです。臨場感抜群でたまりませんね。ぞっとするやら肌寒いやら、生きているあいだには味わえなかったほどの迫力です」
俺が言うと、女神さまは満面の笑みを浮かべた。
いや、正確には彼女の顔には目鼻の類はないのだが、その顔に宿る光が一層に明るくなったので、そういうふうに見えたのだ。
実際、彼女の声は満足げな調子だった。
「本当ですか!? いやあ、ほっとしました! 最初に転生した世界もなかなかでしたけど、どうも尻切れトンボの感が否めませんでしたからね。今度こそご満足いただけたようで――」
「ああでも、『尻切れトンボ』と言われるとさっきの世界も……」
「え?」
「いや、なんでもないです」
「ちょっと、言いかけてやめないでくださいよ、余計に気になるじゃないですか」
「いえ本当に全然、大丈夫なんで――」
「言ってください! 後生ですんで!」
え、そんなに食い下がる?
「ええと、じゃあ……これはあくまで個人的な意見ですが、やっぱり最後のびっくり演出は外せないと思うんですよ、ああいう作品には」
じわりじわりと時間をかけて追い詰められ、やがて最後に強烈な一撃――なるほどたしかに演出としてはベタかもしれないが、その「ひと驚き」があってこそ、プレイヤーはカタルシスを得られるのではないだろうか?
言わば、喫茶店での食後のコーヒーと同じである。慣例というか儀式的行為というか、事象それ自体に心地よさがあれば、「ありきたり」は「お約束」に昇華し得るのだ。
大体そんな内容を俺が口にすると、女神さまは感心したようにうなずいた。
「はあ、奥が深いんですねえ……じゃあ、それを踏まえて次、行ってみましょうか」
「はい?」
「いや次ですよ次。だって、このままずっとここにいるわけにもいかないでしょう?」
「そりゃあそうですけど……」
「今度こそ、文句のつけようがない最高の世界に行けるといいですね。それじゃあ、いってらっしゃい!」
「ええ、では、いってきます……?」
何か釈然としないが、ここで主導権を握っているのはあくまで女神さまだ。俺にできるのは、ただ与えられた機会を謳歌することのみ。
そんなわけで、俺はまた新天地を目指し、光の海に漕ぎだしていくのであった。
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