幕間 1
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ女神さま、デモバージョンっていうのはいったいどういうことです!?」
「あれ、案外早いお帰りですね、柳田さん」
「奇遇ですね、僕もまったく同意見です」
ふと気づくと、俺はあの宇宙空間めいた場所に舞い戻っていた。目の前には「女神さま」こと神聖発光体生物。見れば見るほど神々しいが、ずっと見ていると目が痛くなりそうだ。
その眩いばかりの彼女に対し、俺は言う。
「いくら何でもあの仕打ちは酷ですよ、あんな良いところでブツっと切って終わりだなんて……ここから本格的にドラマが動きだす、ってとこじゃないですか」
「そうですねえ、わたくしも覗き見してましたけど、たしかにあの局面で『ハイおしまい』っていうのは残酷ですね。でもまあ、ゲームの試遊版なんてそんなもんじゃないですか? ああやって気になるところで終わらせるからこそ、『じゃあ本編を買って続きを見てみようか』となるわけで」
「まあそれはそうですけど……ってそうじゃなくて、そもそもどうして試遊版なんです?」
「その点はわたくしの管轄外ですね。わたくしは間違いなく、あなたご自身が望む世界にあなたをお送りしたわけですから……ですので多分、問題があるとすれば、それはあなたの精神にあるのでしょう。つまりお望みになっているのですよ、本心ではこういう展開を」
「そんなわけないじゃないですか、追加料金なしで本編を遊べるのにあえてデモ版を選ぶなんて……そんなことをするのはRTA走者くらいです」
「でも楽しかったでしょう? いや、わたくしとしては正直、意外でしたけどね。テレビゲームがお好きなのは存じていましたが、まさか転生先に選ぶほどとは」
「ああ……それははい、実のところ唯一の趣味なもんで…………ああそういえば、話は変わりますけど女神さま、たしか以前にお聞きした話では、僕の意識――というのは柳田啓吾としての意識なんですけど、これは消えてしまうというお話だったはずですが……?」
「あれ? 言われてみればそうですね。たしかにわたくしは今、柳田さんを柳田さんだと認識しておりますし、柳田さんご自身もまた、柳田さんを柳田さんだとご自覚なさっておられるようで」
「柳田がゲシュタルト崩壊しそうだ」
「ううん……おそらく、あまりに早くお戻りになったので、精神が生まれ変わるには時間が足りなかったのでしょう。わたくしもこんな経験は初めてです。でも、望外の再会はいつでも嬉しいものですね?」
え、いや、この場合はどうなんだろう……
言葉を失い固まる俺に、女神さまは構わず話を進めた。
「とにかく、『これはちょっとご褒美というには酷だな』という点はわたくしも同感です。なのでダブルチャンスといきましょう」
「ダブルチャンス」
「せっかく元の精神のまま帰ってこられたんですから、このまま二度目の転生といきましょうよ、ってことです」
「え、いいんですか? なんだかズルをしている気分だ……」
「構いませんよ全然。柳田さんは特別扱いされると罪悪感を覚えるタイプですか? わたくしとしては、そういう人にこそ特別な幸せが訪れるべきだと思いますけどね……というわけで、いま再びの転生のお時間です。ご準備はよろしいですね?」
「えっと……分かりました、じゃあ、どーんとお願いします!」
「かしこまりましたあ! では、次こそ存分に異世界ライフをお楽しみください……お達者でえ!」
そうして彼女に促されるまま、俺の意識はまたも暖かい光の中に霧散していった。
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