【銀行強盗】

一弓

致命的な失敗

「なぁ……トシオ。俺たち、どこで道間違えたんだろうな」


「お前がインスタで『叩きなう』って自撮りと一緒にあげた時からじゃね?」


「やっぱ悪ぃ事したら何処に隠れても見つかっちまうんだな……警察、舐めてたよ」


「『銀行強盗犯だけど質問ある?』って生配信。これのせいだってここバレたの」


「もう少し豪遊しとけば良かった〜!」


「警察巻くまで山で暮らそうって言ったのお前だけどな!!!」


「あ、スパチャありがと〜」


「配信してんの!? この期に及んで!? 嘘だろ!?」


「ちょ、そんな大きい声出すなって。警察にバレる」


「バレてんだよ! 顔も名前も住所も電話番号も!」


 ガン、とコンテナを叩く音が聞こえる。扉は無理矢理内側から塞いでいる。ゆえに、強行突破しようと思えば今にでもこのコンテナは開けられてしまうだろう。


「なぁ、トシオ。こんなこと、今更かもしれないけどさ」


「謝罪なら聞かねえぞ。お前と組んだ俺の落ち度だからな」


「いや自首って間に合うと思う?」


「間に合うわけねぇだろ! 逃走中じゃねえんだぞ!」


「そうだよな……えごめん後半どういうこと?」


「聞くな喋るな説明させるな。どうしてこんな奴と銀行強盗なんかしちまったんだ……」


「話はそう、五年前まで遡る……」


「遡らねぇよ。あとお前と会ったの高校の入学式だから。去年だから」


「これでこの山生活からも解放かぁ」


「二日だけどな。お前の配信で即居場所バレたから」


「よもぎ、たけのこ、なんか派手な色してるきのこ。美味かったよなぁあれ」


「んな怪しい物食ってんなよ! だからか。だから昨日から俺の足の小指が動かないのか」


「はは、落ち着けよトシオ。そんな二人に増えて」


「幻覚見えてんじゃん! だからお前と会話成立しないのか!? それともお前の素か!?」


「誰が酢酸だよ」


「言ってねぇよ。食酢の意味だとしてもそうは聞き間違えねぇよ」


「これで俺たちも終わりか……振り返れば、あれも一種の青春だったよな」


「刑務所から出てから言うんだよそういうのは。何捕まる前に一人で感傷に浸ってんだよ」


「ところでさ」


「……なんだよ」


「今自首したら賞金いくら?」


「だから逃走中じゃねぇって!」

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【銀行強盗】 一弓 @YUMI0625

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