第47話 人形のような整ったお顔の美少女と子犬
「キャンッキャンッ」
可愛らしい鳴き声がリビングに響き渡る。
黒い毛並みの、子犬が元気に声を挙げている。
「どうしたの? この子犬」
「友達がね、旅行に行っている間、預かっててくれないかって言われたのよ」
「それで、預かったと」
「そういうこと、みんなアレルギーとかなかったわよね? 蒼井ちゃんとか大丈夫?」
母さんはみんなの身体を気にかけて、蒼井に確認をとる。
「あ、大丈夫です。それに動物は大好きです」
「あら、じゃあこの家にいる間にいっぱい可愛がってあげてね?」
「はい、仲良くなります」
「あー、本当可愛いわね~幸奈ちゃん」
「ゆ、優子さんっ!?」
母さんは、ゆらゆらと近づき、蒼井の身体をぎゅっと抱きしめる。
抱きしめながら頭を慣れたような手つきで優しく撫でている。
助けようとも思ったが、蒼井がそこまで嫌そうにしていなかったので止めることはしなかった。
恥ずかしそうにはしていたが、むしろ心地のよさそうな顔をしていた。
「キャン!」
「あら? 幸奈ちゃんが撫でられてるのを見て、妬いちゃったのかしらね?」
「そ、そうですか?」
蒼井はその話を聞いて、そろーっと子犬の方に手を伸ばし頭を撫でる。
すると、すぐに子犬は心地よさそうに蒼井の小さく綺麗な手に頭を擦り付けている。
「あら、もう懐いちゃったのかしら」
「そんなことないと思いますけど……」
「でも、すごくスリスリしてるわよ?」
「学校でも男女問わず人気があるし、動物にも好かれるんだろ」
「あら~、やっぱり学校じゃ人気者なのねぇ~」
「人気者ってほどじゃ……」
蒼井はすこし悲しそうに、子犬を見つめる。
「まぁ、動物に好かれる人は心が優しいって言うしな」
「蒼は動物に好かれないからねぇ」
「そうそう、心の優しくない奴だからな」
「そんなことないですっ…………私は蒼くんは優しいと思いますよ」
「お、おう……ありがと?」
「い、いえ……すみません。なんか出過ぎたことを」
蒼井が頬を赤く染めているのが分かり、俺も恥ずかしくなってしまう。
すると母さんがやれやれって表情で俺の方を見てくる。そのせいで顔が熱くなるのが分かる。
「母さん」
「なによ」
「顔がうるさい」
「ひっどーい! 顔がうるさいだなんて」
「俺からしたらうるさかったから」
「蒼の方がさぁ~? …………ね?♡」
言葉の最後にハートマークがついている時点でうるさい。
俺だってさっきのことは思うところはある。目を瞑っていてくれればいいのに。
母親というものは子供のそういった色恋沙汰みたいなことが好きなのだ。
この間だって、青春という言葉を俺たちに向けて話してきた。
「あ、そうそう散歩とかも行かないといけないから、みんな協力してね」
「いつくらいまで預かるんだ?」
「一週間だけよー」
母さんがそう言うと、蒼井は小さく「……一週間」とボソッと呟いた気がした。
しかし、蒼井に対する子犬の懐き具合が尋常じゃない。
蒼井の美しさに完璧に魅了されている。
「この可愛さ見てくださいっ」
「おー、超かわいいな」
「もっとちゃんと見てくださいっ」
蒼井はそう言いながら、子犬を優しく持ち上げ、自分の顔の横に並べる。
俺からしたら、子犬の横の蒼井の方が可愛い。
「撫でてあげてください」
「わ、わかったよ……」
蒼井の眼差しに「嫌だ」とは言えなかった。
母さんは買い出しに行っているので、面倒くさいことは言ってこない。
ゆっくりと、子犬の方に手を伸ばす。
うっかりと、もうすこし手を伸ばせば蒼井の頬に触れることができる。
そんな欲望をかき消し、俺は子犬のフワフワした毛並みを撫でる。
「どうですか? 可愛いでしょう?」
「う、うん」
「あっ!」
「へ? ――――いった!」
俺は次の瞬間子犬に手を噛まれて、痛みが走った。
「痛いぞ、このやろ……」
「コラ、ダメですよ、人のことを噛んじゃ」
「くぅ~ん」
「わかりましたか?」
「ワンッ!」
怒られたときは反省したような声を出し、蒼井の声に元気に返事をする。
まるで、子供のことを説教しているみたいだ。
まぁ、子犬だから子供なんだろうけど……。
俺はその光景を見て、微笑ましいと感じた。
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