第44話 人形のような整ったお顔の美少女の呼び方
「ご、ごめんなさい……泣き出したりしてしまって」
「いえ……その嫌な話でしたよね」
蒼井が泣き出してから少し時間が経ち、落ち着いて話ができるようになった。
「お見苦しい姿を見せてしまい、ごめんなさい」
「全然そんなことないですよ。むしろ嬉しかったです」
「私の泣いている姿を見てですか?」
「違いますよっ!」
蒼井の発言に対して、何を言っているんだという意味を込め否定する。
確かに、泣き顔はとても可愛かったがそこじゃない。
「自分の為に泣いてくれる人がいるってところにですよ」
「あ、そういうことですね」
「あとは、まぁ……」
「あとは?」
俺はこの時、自分の失言にしまったと感じた。
蒼井の胸の感触がとてもよかったという、特大セクハラ発言をするところだった。
「い、いや……なんでもない」
「なんですかそれ」
「いやぁ、そのセクハラに近いので」
「セクハラ……あ、あーそういう感じの話ですか」
蒼井は俺の話を聞いて、なにか察した表情をしていた。
しかし、こんなに容姿の整った美少女のお胸を触ってしまえば、男子高校生の俺はいつ限界を超えてもおかしくなかった。
自分の理性が勝った。
そこだけは褒めてほしいと感じる。
「まぁ、男の子ですからね、仕方ないと思いますよ」
「仕方ない、そう――――仕方ないのだ」
「なに開き直ってるんですか」
「すみません」
「昨日は、私も軽率な行動だったなとは思います」
「いや、とても可愛らしかったというか、男としては嬉しかったです」
俺が素直に言葉を伝えると、蒼井の顔がほんの少し赤くなる。
自分の髪の毛先をくるくると指先に絡めながら、顔を隠す。
「もう、そういうことをすんなり言えてしまうところは嫌です」
「えぇ…………」
その後、目を横目に逸らし、口を尖らせながらそう言って来る。
思春期真っただ中の男子高校生に可愛い女子高校生からの嫌という言葉は心に来る。
それを蒼井には分かっていただきたい。
「俺が女性が苦手だったのもこういう理由があったからです……」
「――――私のことも苦手ですか?」
「へっ?」
蒼井の言葉に俺は気の抜けた声を出してしまう。
変な声を出してしまい、恥ずかしくなってしまい、自分の顔が熱くなるのが分かる。
「そ、それは……」
「ふふふっ」
「何笑っているんですか」
「いや、可愛らしくてつい……、反応を見れば、少なくとも嫌われていないとわかります」
「――――っ! そ、そんな顔してましたかね?」
「はい、してましたよ」
自分の反応が変だと思ったが、目の前の美少女が笑っているので、良しとしよう。
「話聞いてくれて、ありがとうございます」
俺は蒼井に頭を下げる。
今の自分にできることはこれくらいしかできない。
人は一人で解決できることもあれば、周りに頼らなければいけない時もある。
周りに相談できる人物がいるというのは、とても頼もしいことだ。
「そんな、頭を上げてください」
蒼井は俺が頭を下げている姿を見て、慌てている。
「私も話を聞いてもらいましたし、私も蒼さんに頼ってほしいと感じているんですよ」
「頼ってほしい……ですか?」
「はい、頼ってほしいです」
「十分頼らせてもらってますよ?」
「いえ、頼られるというより、お世話しているというのが強いです」
お世話……たしかに、そっちのほうがしっくりくるか……。
「頼るというのはどういう風にしたらいいのか……」
「そうですね、まず敬語をやめましょうか」
「敬語をやめるって……蒼井さんもじゃないですか」
「私は誰に対しても敬語ですけれど、蒼さんは違うじゃないですか」
「違うとは……人によるってことですか?」
「はい」
蒼井はそう言うと、コクっと小さな頭を縦に振る。
たしかに、他の人には敬語を使わなかったりする。
「それに、名前で呼んでください、蒼井という苗字呼びも禁止です」
「えぇ?! どうしてですか!」
「……なんか距離感が遠い気がするからです」
「いや、でも……蒼井さん男性苦手じゃ――――」
俺がそこまで言うと、蒼井の目が細くなり、睨むように見てくる。
「それは、誰でも心を許すというわけではありませんので」
「それはどうも、ありがとうございます」
「はい、というわけで、今後は敬語で呼んだらダメですからね」
なんやかんやで、俺は「はい」と頭を縦に振ることしかできなかった。
蒼井の圧もすごいのだ、断れるわけがない。
それに、俺が「はい」と言った時の蒼井の表情は、学校で見せる笑顔とは比にならないくらい美しかった。
うん。そろそろヤバいかも、ちゃんと理性を保っていかないとね。
その後の話し合いで、学校の時、万が一関わる時があったら、その時は敬語で話すという事に決まった。
しかし、家の中では名前呼びに敬語なしだ。
全く、困ったものだ。
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